表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
42/71

第38話 筋肉の旅立ち

ギルドのざわめきは、まだ収まっていなかった。

商人襲撃。

原因不明。

正体不明。

情報が足りない依頼は、人の足を止める。

判断材料がないということは、すなわち危険の輪郭が見えないということだからだ。

誰もが様子をうかがう中で――

一人の男が、前に出た。

竹助。

筋肉の勇者。

依頼書の前に立ち、わずかに視線を落とす。

そして、迷いなく言った。

「俺に任せておけ」

一拍。

「筋肉が導いてくれる」

静寂。

意味は、分からない。

だが。

不思議と、不安は薄れていた。

根拠はない。

それでも、この男がそう言うなら――

そんな空気が、場に広がる。

「……はは」

誰かが、肩の力を抜いた。

「筋肉が行くのか」

「それなら大丈夫だな」

空気が、わずかに軽くなる。

「すまない」

低い声が、場を引き締めた。

オーマだった。

「俺も一緒に行きたいが」

一拍。

「今は動けん」

「魔族の統制が必要だ」

その言葉には、揺るがない責任があった。

「ポウサンは研究。メギストラやゼロアークには別任務を任せている」

「構わない」

竹助が淡々と答える。

「筋肉がある」

それで十分だった。

「……ちっ」

ザッコスが舌打ちする。

「筋肉との旅か」

「俺も行きてぇな」

本音だった。

視線は依頼書に向いたまま。

「けどよ……」

言葉を切る。

「明日から、俺とトロール王は別任務なんだよな」

拳が、わずかに握られる。

悔しさが滲む。

「ガルドさん!そっち、誰かに回せないですか?」

食い下がる。

だが。

「無理だ」

ガルドが即答した。

「今やお前はギルドのエースなんだ」

「戦力を削げない」

それで終わりだった。

ザッコスは天井を仰ぐ。

「……くそ」

その一言に、すべてが詰まっていた。

「行きましょう!」

明るい声が響いた。

セリアーナだった。

その瞳は、強く、まっすぐに前を見ている。

「また皆さんを集めましょう!」

迷いのない言葉。

かつての彼女ではない。

指示を待つ存在ではなく、自ら動く存在。

ミリアは、その姿に目を奪われていた。

(……すごい)

ただ、それだけが浮かぶ。

だが、現実は変わらなかった。

カイシンを誘ったが、研究のため動けない。

積み上げている理論は、途中で止められるものではなかった。

フィオナもまた、動けない。

騎士団を離れるわけにはいかない。

未熟な団員たちを置いていくことは、彼女にはできなかった。

シエルは、そもそも所在不明。

情報収集のため、王国の外へ出ている。

呼べる状況ではない。

代わりはいない。

夕暮れの道。

三人で歩く。

静かな時間が流れる。

ミリアが、ぽつりと呟いた。

「……二人、ですね」

不安が、にじむ声。

「少なくないですか?」

当然の疑問だった。

だが。

「少ない方がいいです」

セリアーナは、迷わず答えた。

「集団で動けば、目立ちます」

一拍。

「相手が不明な以上、こちらの情報は隠すべきです」

理にかなっている。

「少数の方が、動きやすい」

静かな断言。

ミリアは、言葉を失う。

(……正しい)

正しいが、怖い。

それでも。

納得はできてしまう。

「……竹助」

低い声が落ちる。

振り向くと、オーマが立っていた。

音もなく、そこにいる。

「行くなら」

一拍。

「マッシュの町に向かうといい」

ミリアが首をかしげる。

「マッシュ……ですか?」

「遠く離れている」

「だが、行く価値はある」

視線が、竹助へと向く。

「行けば分かる」

それだけだった。

理由は語られない。

説明もない。

だが。

竹助は、何も問わない。

ただ、わずかに頷いた。

それで十分だった。

「行く」

短い一言。

それで、すべてが決まる。

ミリアの中で、何かが揺れる。

(このまま……?)

不安。

未知。

そして――

(……逃げたくない)

一歩、前に出る。

「……あの!」

二人が振り向く。

ミリアは、手を上げた。

「私も、行きます!」

声が、はっきりと響く。

「補助神官として、同行させてください!」

一拍。

セリアーナが頷く。

「分かりました」

それだけで、決まった。

翌朝。

三人は、王都を出た。

竹助。

セリアーナ。

ミリア。

たった三人。

だが。

その足取りに、迷いはない。

ミリアは振り返る。

王都。

筋肉の国。

そして――

まだ見ぬ町。

(……ちゃんと見よう)

この世界を。

この“筋肉”を。

その意味を。

理解するために。

彼女は、前を向いた。

風が、三人の背を押していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ