表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
38/73

第34話 筋肉は裏切らない

 静寂は――

 本当に、ほんの一瞬だけ訪れた。

 それは、音が消えたからではない。

 風も、大地も、空も、そこにあった。

 だが――

 すべてが、次の瞬間を“待っていた”。

 まるで世界そのものが、息を止めているかのように。

 そして。

 竹助内人と、魔王オーマは――

 同時に、踏み込んだ。

 言葉はない。

 視線すら、必要なかった。

 互いの筋肉が、すでに理解している。

 相手の強さも。

 積み重ねも。

 辿ってきた時間さえも。

 魔法は、ない。

 詠唱もない。

 奇跡もない。

 あるのはただ一つ。

 筋肉。

一撃目――中心

 ドン。

 拳と拳が、触れ合う。

 ぶつかった、という感覚すら曖昧だった。

 それほどまでに、その接触は“正確”で、“無駄がなかった”。

 次の瞬間。

 衝撃が――広がる。

 爆発ではない。

 破壊でもない。

 ただ、押し広がる。

 静かに。

 だが、抗えない力として。

 最も近くにいた者たちの身体が、同時に震えた。

 フィオナが息を呑む。

 シエルの指先が、わずかに跳ねる。

 セリアーナの肩が、びくりと揺れる。

 ガルドは無意識に足幅を広げ、

 ザッコスは重心を落とし、

 トロール王は大地に手をついた。

 そして――

 メギストラ。

 膝をついたまま、ゆっくりと顔を上げる。

「……何……この、感覚……」

 測れない。

 数値化できない。

 比較も、分析もできない。

 それなのに。

 “理解できる”。

 理論ではない。

 もっと根源的なところで。

 ゼルアークが、倒れたまま笑った。

「……はは……」

「……そうか……」

 視線は、空ではなく――

 竹助へ。

「……これが……貴様の見ている景色か……」

 ポウサンの手が、震えていた。

 地面に触れた指先から伝わる振動。

 その“意味”を、必死に理解しようとしている。

「……理論が……崩れている……」

 一拍。

「……いや……違う……」

 顔を上げる。

「……理論が……書き換えられている……!」

 その瞬間。

 セリアーナの声が、弾けた。

「筋肉!!!」

「キレてます!!!!」

 戦場の中心で。

 何かが、確かに始まっていた。

二撃目――戦場

 ドンッ!!

 肘と肘が、ぶつかる。

 今度は、重かった。

 骨に響く。

 内臓に届く。

 大地を通して、全身を揺らす。

 戦場そのものが、呼吸するように脈打った。

 メギストラが、ふらつく。

「……非合理……」

 口では否定する。

 だが。

 その身体は、すでに最適解を取っていた。

 無駄のない姿勢。

 理想的な重心。

 “理論では到達できなかった答え”に。

 ゼルアークが、拳を握る。

「……完成された肉体……」

 だが。

「……いや……違う……」

 その言葉には、悔しさはなかった。

 ただ、純粋な理解だけがあった。

三撃目――周辺

 ドォンッ!!

 衝撃は、戦場の外へと溢れ出す。

 村。

 町。

 畑の農夫が、手を止める。

「……なんだ……今の……」

 次の瞬間。

 膝が、自然に曲がる。

 腰が落ちる。

 スクワット。

 無意識。

 だが、完璧。

 市場でも同じことが起きる。

 商人が荷を下ろし、腕立て伏せを始める。

 周囲も、つられる。

 誰かに命じられたわけではない。

 それでも。

 止まらない。

四撃目――王都

 ドンッ!!

 衝撃が、王都へ届く。

 役人の思考が、一瞬途切れる。

 次の瞬間。

 身体が動く。

 机に手をつき、腕立て伏せ。

 学生たち。

「構え!!」

 一拍。

「……違う」

「スクワットだ!!」

 全員が、一斉に腰を落とす。

五撃目――王国

 ドン。

 その波は、王国全体へ。

 山も。

 海も。

 街も。

 すべてが、同時に“理解する”。

 ポウサンが、崩れ落ちる。

「……これが……」

「……答えか……」

 メギストラが、小さく笑う。

「……理論外、ね」

 だがその声には、否定はなかった。

六撃目――到達

 ドォンッ!!

 最後の衝突。

 その瞬間。

 王国中の声が揃う。

「――ワン」

「――ツー」

「――スリー」

 それは、ただの掛け声ではない。

 王国そのものの鼓動。

 魔王が、息を吐く。

 その顔には、もはや敵意はない。

「……なるほど……」

「……勝ち負けでは、なかったか……」

 竹助が、一歩前に出る。

 拳ではなく。

 手を差し出す。

 魔王は、それを見つめ――

 ゆっくりと、笑った。

「……いい筋肉だ」

「……お前もな」

 二人の手が、重なる。

 ドン。

 小さな音。

 だが。

 それは――

 世界を変えるには、十分すぎた。

 バンッ!!

 装備が弾け飛ぶ。

 鎧も。

 法衣も。

 武具も。

 人間も、魔族も。

 全員――

 全裸。

 一瞬の沈黙。

 そして。

 笑いが、溢れた。

 誰も、恥じない。

 なぜなら。

 筋肉が、あったからだ。

 魔王が、深く頭を下げる。

「……負けた」

 竹助は、静かに首を振る。

「……違う」

「……分かち合っただけだ」

 こうして。

 筋肉は、王国を繋いだ。

 理論も。

 誇りも。

 すべてを越えて。

 そして。

 次の時代へ。

 竹助が、静かに言う。

「筋肉は――裏切らない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ