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第23話 決戦前夜、筋肉は応える

 王城――玉座の間。

 張り詰めた空気の中、王と重臣たちが静かに並んでいた。

 誰一人として無駄な動きを見せない。だが、その場にいる全員が理解していた。

 これから告げられるものが、王国の命運を左右するものであることを。

 中央の卓上には、一通の書状が置かれている。

 黒い封蝋。

 刻まれた紋章。

 魔王軍。

 それだけで、十分だった。

「……読み上げよ」

 王の声は静かだった。

 だが、その一言が場の空気をさらに引き締める。

 側近が封を切る。

 紙の擦れる音が、やけに大きく響いた。

「――魔王オーマの名において告げる」

 空気が、凍る。

「人間軍に対し、総力戦を布告する」

 一拍。

「逃亡、降伏は認めない」

「戦場にて、決着をつける」

 沈黙。

 誰も、言葉を発さない。

 発する必要がなかった。

 全員が理解していたからだ。

 これは――

 終わりの始まりだと。

 王は、ゆっくりと立ち上がる。

 その動き一つで、場の空気が変わる。

「……受理する」

 その一言で。

 王国は、戦争へと踏み込んだ。

「総員、戦時体制へ移行」

「冒険者ギルドへ援軍要請」

「勇者にも通達せよ」

 命令が、矢のように飛ぶ。

 止まっていた時間が、一気に動き出した。

■冒険者ギルド

 緊急招集。

 広間には、数えきれないほどの冒険者たちが集められていた。

 普段であれば賑やかな空間。

 だが今は、違う。

「……魔王軍……?」

「冗談だろ……」

「勝てるわけ……」

 ざわめき。

 そして――

 恐怖。

 誰もが理解していた。

 相手は、これまでの敵とは違う。

 逃げ場のない戦い。

 空気が、重く沈んでいく。

 その時だった。

 重い足音が響く。

 ガルド。

 腕を組み、ゆっくりと前に出る。

 その存在だけで、場が静まっていく。

「……聞いたな」

 低く、よく通る声。

「逃げたい奴は、今のうちに逃げろ」

 一瞬、ざわめきが広がる。

 だがすぐに止まる。

「だがな」

 一歩、踏み出す。

「ここで逃げたら、一生だ」

 その言葉は、重かった。

 否定できる者は、誰一人としていない。

 その背後。

 もう一人、前に出る。

 ザッコス。

 その姿に、誰もが息を呑んだ。

 肉体が、明らかに違う。

 短期間で仕上げたとは思えない密度。

 削ぎ落とされ、研ぎ澄まされた身体。

 それは、戦う者の肉体だった。

「……ビビってんのか?」

 軽く笑う。

「だったらなおさら、やるしかねぇだろ」

 一拍。

「相手が魔王軍だろうが関係ねぇ」

 拳を握る。

「ここで終わるか」

「ここで変わるか」

 沈黙。

 そして。

 誰かが、武器を握る。

 空気が、ゆっくりと変わっていく。

■王城・中庭

 その日のうちに。

 王国の戦力は、すべて集められた。

 騎士団。

 冒険者ギルド。

 勇者陣営。

 そして――トロール軍。

 種族も、立場も違う者たちが、同じ場所に立っている。

 異様な光景。

 だが、それが今の“現実”だった。

 最前に立つのは、フィオナ。

 白銀の鎧が陽光を反射し、その姿を際立たせている。

「これより、魔王軍との決戦に入る」

 静かな声。

 だが、不思議と全員に届く。

「恐れる者もいるだろう」

 一拍。

「だが」

 剣を抜く。

「我らは退かない」

 騎士たちの背筋が、揃って伸びる。

「守るために戦う」

「それが、騎士だ」

 沈黙。

「応!!」

 声が、揃った。

 その流れを引き継ぐように、ガルドが前へ出る。

「冒険者」

 短く呼ぶ。

「好きに戦え」

 一拍。

「だが――死ぬな」

 それだけだった。

 だが、それで十分だった。

 ザッコスが、ニヤリと笑う。

「派手にいこうぜ」

 空気が、さらに変わる。

 その時だった。

「……大丈夫です」

 小さな声。

 だが、不思議とよく通る。

 セリアーナ。

 一歩、前に出る。

「私たちには――」

 一拍。

「四天王を二人も倒した勇者様がいます!」

 沈黙。

 そして。

 ゆっくりと、顔が上がる。

 希望。

 それが、確かに広がっていく。

 視線が、一点に集まる。

 竹助。

 静かに立っている。

 変わらない。

 そして。

「問題ない」

 一言。

 それだけで、空気が変わる。

「答えは――」

 拳を握る。

「筋肉が教えてくれる」

 一瞬の沈黙。

 そして。

「またそれかよ!」

 笑いが起きる。

「またそれですか!?」

 セリアーナがすぐにツッコむ。

 張り詰めていた空気が、ほどける。

 カイシンが、くつくつと笑った。

「ほっほっほ」

「相手は強敵じゃぞ」

 一歩、前へ。

「だが――それでこそ面白い」

 その目は、完全に“戦う者”だった。

 トロール王が拳を打つ。

 ドンッ。

 地面が、わずかに揺れた。

 言葉はない。

 だが、十分だった。

 全員が理解する。

 逃げない。

 退かない。

 戦う。

 その覚悟が、そこにあった。

「やってやるぞ!!」

「魔王ども、かかってこい!!」

 声が重なり、広がる。

 王城の空に、響き渡る。

 そして――

 戦いの朝が、静かに近づいていた。

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