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番外編 筋肉は水中でも裏切らない

 それは、ある穏やかな日のことだった。

「……というわけで、今日は休みです!」

 セリアーナが、いつになく明るい声で宣言した。

 場所は王都近郊にある、大規模な屋外プール施設。

 澄んだ水面が陽光を反射し、きらきらと揺れている。

 戦いが終わり、ようやく訪れた束の間の平穏。

 その空気を味わうように、五人はそこに集まっていた。

 フィオナは腕を組み、辺りを見渡す。

「……なるほど。ここが“ぷーる”か」

 どこか警戒を解かない様子は、やはり騎士らしい。

 シエルは軽く肩をすくめた。

「こんな開けた場所、逆に落ち着かないな……」

 すでに逃走経路を確認しているあたり、らしい反応だ。

 カイシンは穏やかに笑う。

「ほっほっほ。水場とは、なかなか趣があるのう」

 そして――

 竹助は、すでに準備運動を始めていた。

 肩を回し、呼吸を整え、身体の状態を確かめる。

「……よし」

 その様子を見て、セリアーナが固まる。

「……え?」

「勇者様、もう鍛えてるんですか?」

「水に入る前のウォームアップだ」

 一拍。

「筋肉は、準備を怠らない」

「いや今は遊びに来たんですよね!?」

 やがて、更衣室から三人が戻ってくる。

 その瞬間、わずかに空気が変わった。

 視線が、自然と集まる。

 まず、シエル。

 黒を基調としたシンプルなビキニ。

 無駄な装飾を削ぎ落とした、機能性重視のデザイン。

 腰には薄手のパレオを巻き、動くたびに軽く揺れる。

「……動きやすい」

 それが、彼女のすべてだった。

 次に、フィオナ。

 深い青に金の縁取りが入ったビキニ。

 どこか騎士の装飾を思わせる意匠。

 安定感のある作りが、鍛え上げられた身体を支えている。

 その立ち姿は、変わらない。

「問題ない」

 短く、それだけ。

 そして、セリアーナ。

 淡い青の、控えめな水着。

 柔らかな生地が身体に馴染み、自然なラインを描く。

 華奢に見えるが、その内側には確かな積み重ねがある。

「……こ、これで大丈夫でしょうか……?」

 少し不安げに問いかける。

 シエルが軽く頷き、フィオナが静かに言った。

「問題ない」

 その言葉は、見た目ではなく――中身を肯定していた。

 竹助が、一歩前に出る。

 嫌な予感が、全員を包む。

「よし」

 一拍。

「水中トレーニングを行う」

 沈黙。

「……は?」

 シエルが素で聞き返す。

「水は負荷になる」

「関節への負担を抑えつつ、筋肉へ均等に刺激を与えられる」

 一拍。

「理想的だ」

 フィオナが頷く。

「……なるほど」

「いや納得しないでください!?」

 そして――

 数分後。

 全員、水の中にいた。

「……いくぞ」

「スクワット」

 水の抵抗。

 普段とは違う重さ。

「……っ、きつい……!」

 セリアーナの声が震える。

 シエルが歯を食いしばる。

「……動きが……重い……!」

 フィオナは静かに繰り返す。

「……効くな」

 カイシンは楽しげに笑う。

「ほっほっほ!これは良い修行じゃ!」

 その時。

「キレてる!!」

 一瞬の静止。

 そして――

「バリバリです!!」

「ナイスバルク!!」

「いい血管出てる!!」

 合いの手が、連鎖する。

「でかいよ!!」

「仕上がってる!!」

「腹筋が板チョコ!!」

 水しぶきが跳ねる。

 笑い声が混ざる。

 だが――

 誰も止まらない。

 止める理由が、ない。

 やがて。

 全員がプールサイドに倒れ込む。

「……もう無理……」

 セリアーナが完全に力を失う。

 シエルもぐったりと横になる。

「……遊びって……何だっけ……」

 フィオナは空を見上げる。

「……良い鍛錬だった」

 カイシンは満足げに頷く。

 そして。

 竹助が、静かに言った。

「……いい仕上がりだ」

 全員、同時に思った。

(やっぱりこうなるのか……)

 だが。

 誰も、嫌ではなかった。

 なぜなら――

 筋肉は、裏切らないのだから。

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