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第18話 筋肉はすべてを受け止める

――魔王城・地下訓練場。

重たい鉄が、床に叩きつけられる。

ドンッ。

ドンッ。

規則正しい音。

だが、その一つ一つが常識を超えた重量だった。

参謀ボウサンが構築した、理論最適の筋トレメニュー。

高負荷。

高回数。

回復時間すら計算された、容赦のない鍛錬。

「む、無理です……!」

「魔王様、これは拷問では……!」

魔族たちが悲鳴を上げ、次々と倒れていく。

だが――

魔王オーマは、止まらない。

ただ持ち上げる。

ただ下ろす。

ただ積み重ねる。

筋肉が、応えている。

その時。

魔王の動きが、止まった。

「……感じる」

胸に手を当てる。

「二つの、巨大な筋肉が――衝突している」

一つは、間違いない。

筋肉勇者――竹助内人。

では、もう一つは。

魔王の筋肉が、わずかに震える。

「……あぁ」

「お前か」

かつての好敵手。

野性の王。

「……生きていたか、ケモーノ」

魔王は静かに鉄を置いた。

――戦場。

ドォォォォン!!!!

大地が裂ける。

空気が爆ぜる。

拳と拳がぶつかるたびに――

衝撃波が周囲すべてを吹き飛ばす。

木々がなぎ倒される。

地面が抉れる。

兵が宙を舞う。

「伏せろぉぉ!!」

騎士が叫ぶ。

だが、遅い。

戦いは――もはや災害だった。

中心。

竹助と、獣王ケモーノ。

技ではない。

型でもない。

筋肉そのものの、ぶつかり合い。

ドンッ!!

ドゴォンッ!!

一撃ごとに、世界が歪む。

ケモーノの拳が叩き込まれる。

ドォン!!!!

竹助の足が、わずかに沈む。

ケモーノの目が見開く。

(効いた……!?)

だが――

竹助は止まらない。

「……いい一撃だ」

一歩。

踏み込む。

ドォン!!!!

今度はケモーノが押される。

互角。

完全な、互角。

その時。

「無事か!!」

フィオナが駆け込んでくる。

鎧は砕け、血と砂にまみれている。

それでも、その目は折れていない。

「団長!」

騎士たちが声を上げる。

別方向から――

「……遅れた」

シエル。

騎士と冒険者に支えられている。

「おい、無理するな!」

「……うるさい」

手を振り払う。

よろめく。

だが――

自分の足で、立つ。

「まだ……終わってない」

その目は、戦場を捉えていた。

さらに。

ズンッ。

重い足音。

トロール王。

全身傷だらけ。

血に濡れた拳。

それでも、前に出る。

竹助の背後に立つ。

守るように。

騎士が呟く。

「……まだ、立つのか……」

トロール王は答えない。

ただ、立つ。

そして――

その少し後ろ。

白いローブの老人。

カイシン。

「……ほっほっほ」

静かに戦場を見渡す。

騎士が息を呑む。

「大賢者様……!」

その瞬間。

ドォォォン!!!!

衝撃波。

地面が裂ける。

「伏せろ!!」

だが、間に合わない。

その時。

カイシンが、杖を軽く振る。

――展開。

透明な壁。

いや。

“式”そのもの。

ドンッ!!!!

衝撃がぶつかる。

だが――

止まる。

騎士が呆然と呟く。

「防いだ……?」

カイシンが静かに言う。

「余波だけでこれか」

一拍。

「中に入るのは……やめておくかのう」

シエル

「……珍しい」

カイシン

「うむ」

「死ぬからのう」

セリアーナ

「軽く言わないでください!!」

だが、カイシンは理解していた。

(あれは――理ではない)

(筋肉じゃ)

戦場は、整う。

人間。

トロール。

冒険者。

誰も指示していない。

だが、全員が理解している。

――ここを支える。

筋肉が。

意思を超えて。

種族を超えて。

一つに繋がる。

――筋肉連携。

中心。

ケモーノが吼える。

「……筋肉に、勝てれば」

拳を振り下ろす。

ドォン!!!!

「もう、何もいらぬ!!」

その一撃には。

敗北。

誇り。

劣等感。

すべてが込められていた。

「筋肉を――」

「全て、否定する!!」

竹助は、それを受け止める。

「……これまで感じた、どの筋肉よりも強い」

拳を交える。

体をぶつける。

筋肉と筋肉が、語り合う。

「俺の筋肉が、歓喜している」

静かに言う。

「感謝する」

「お前のおかげで――」

「俺の筋肉は、より真理に近づける」

だが――

ケモーノの身体に、異変。

筋繊維が裂ける。

関節が軋む。

呼吸が乱れる。

それは攻撃ではない。

“触れているだけで壊れていく”。

鍛えられた筋肉に。

野性の筋肉が、耐えられない。

それでも。

ケモーノは止まらない。

「否定する……!」

「否定、するのだ……!!」

自分の敗北を。

過去を。

限界を。

すべてを。

竹助は、理解する。

ケモーノが止まる。

大きく息を吸う。

「……これで、最後だ」

全てを束ねる。

「受けろ……!」

「獣王ケモーノの、全てだ!!」

セリアーナ

「避けてください!!」

だが。

竹助は、動かない。

一歩、前へ。

腕を広げる。

「……いいだろう」

「お前の、その想い」

一拍。

「俺の――ありったけの筋肉で、応えよう」

衝突。

――否。

受容。

すべてを受け止める。

そして――

優しく、抱き締めた。

衝撃はない。

破壊もない。

ただ。

筋肉が、包み込む。

ケモーノの力が抜ける。

「……あぁ……」

穏やかな声。

「……否定、せずとも……」

「よかった、のか……」

竹助は、何も言わない。

ただ、抱き締める。

トロール王が見ている。

フィオナが剣を下ろす。

シエルが目を閉じる。

セリアーナが涙を拭う。

カイシンが静かに頷く。

野性は――

敗れたのではない。

受け入れられた。

ケモーノの意識が、静かに落ちる。

その表情は――

安らいでいた。

――遠く。

魔王城。

魔王オーマは、目を閉じる。

「……終わったな、ケモーノ」

筋肉が、静かに弔意を示した。

戦場に、風が吹く。

筋肉は、争いを生み。

そして――

理解へと至る。

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