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第17話 筋肉は本能と対峙する

獣王ケモーノは、覚えている。

かつて――

魔王オーマと、真正面からぶつかり合った日のことを。

炎が空を焼いた。

雷が大地を裂いた。

闇が世界を覆った。

あらゆる魔法が、理不尽なまでに叩きつけられる中。

ケモーノは――

ただ、前へ出た。

牙で裂き。

爪で砕き。

咆哮で空気を震わせる。

理も。

法則も。

全てを無視して。

あの日。

確かに――互角だった。

だが。

時が経った。

魔王は、変わった。

魔法は洗練され。

戦術は完成され。

力は――次元を越えた。

ケモーノは、気づいた。

「……届かぬ」

真正面から戦うことを、やめた。

距離を置いた。

森へ戻った。

それでも――

獣は、誇りを捨てなかった。

そんな折だ。

報告が届く。

「魔王軍が……」

「筋トレを、始めたとのことです……」

沈黙。

ケモーノの瞳が、ゆっくりと細くなる。

「……は?」

筋トレ。

その言葉が――

本能を、逆撫でする。

魔王オーマ。

世界の頂点。

魔法の化身。

その魔王が――

筋肉を、鍛える?

「ふざけるな」

低く、地を這う声。

「魔法に溺れた者が」

「今さら、肉体に縋るだと?」

そして、理解する。

魔王軍が警戒している存在。

――筋肉の勇者。

竹助内人。

魔法なし。

スキルなし。

筋肉のみ。

「……笑わせる」

ケモーノは、立ち上がった。

その体躯は、山のように大きい。

森のように重い。

存在そのものが、自然だった。

「筋肉など」

「獣王軍団で、滅ぼしてくれる」

一歩。

大地が、割れる。

前線――

人間軍。

王国騎士団。

冒険者。

そしてトロール軍。

三つの勢力が、辛うじて均衡を保つ戦場。

その空に――

影が、落ちた。

誰かが、顔を上げる。

空が、暗い。

雲ではない。

翼でもない。

“圧”だ。

存在そのものが、空を覆っている。

ドンッ。

大地が沈む。

降り立つ。

獣王ケモーノ。

野性の極致。

本能の完成形。

その筋肉は、鍛えられていない。

だが――

生まれながらにして、完成している。

誰も、動けない。

騎士が剣を握る手が震える。

冒険者が息を止める。

トロールたちでさえ、低く唸るだけで動かない。

ただ一人。

竹助だけが、前に立つ。

「……来たか」

視線が、交わる。

言葉は、ない。

だが――

筋肉が、反応する。

空気が震える。

ケモーノは、理解する。

(これが……)

(魔王を怯ませた、筋肉か)

竹助は、観察する。

(野性……)

(鍛錬の痕跡がない)

(だが――完成している)

互いに。

理解する。

“同類ではない”と。

ケモーノが、ゆっくりと口を開く。

「人間」

低い声。

それだけで、空気が震える。

「その筋肉」

「借り物か?」

竹助は、静かに首を振る。

「積み重ねだ」

一拍。

ケモーノの目が細くなる。

「……そうか」

そして。

吼える。

世界が、震えた。

大地が軋む。

空気が歪む。

「来い、人間」

「本能を越えられるか――見せてみろ」

竹助は、ゆっくりと構える。

拳を握る。

筋肉が応える。

「……いいだろう」

一歩。

踏み出す。

「俺の筋肉と、お前の筋肉」

一拍。

「どちらが上か――確かめよう」

静寂。

風が止まる。

誰も、呼吸をしない。

野性。

対。

鍛錬。

本能の頂点と、努力の極致。

二つの筋肉が、世界の中心で対峙する。

その瞬間。

戦場のすべてが、止まった。

――筋肉の真理を賭けた戦いが、今、始まる。

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