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第16話 筋肉は理をねじ伏せる

北部前線――中央。

そこは、他の戦場とは明らかに異質だった。

爆音が鳴る。

だが、すぐに消える。

敵の魔法が放たれる。

だが――途中で霧散する。

まるで“世界そのものが拒絶している”かのように。

「な、なんだこれは……!?」

冒険者が叫ぶ。

「敵の魔法が……成立しない!?」

騎士が動揺する。

「何が起きているんだ……!?」

異常。

明らかに異常な戦場。

だが――

その中心に立つ男を見て。

誰もが、ある意味で納得していた。

白いローブ。

長い白髪。

穏やかな瞳。

カイシン。

王国最強の魔導士。

大賢者。

「……カイシン様がいるなら、当然か……」

騎士が呟く。

「だが……これは……」

冒険者が言葉を失う。

知っている。

この男が“すごい”ことは。

だが――

(そんなレベルじゃない……)

(“理解できる範囲”を超えてる……)

その前に立つのは――

獣王軍幹部。

「我は、獣王軍幹部――ラグゼル」

低く、重い声。

その身体は異質だった。

筋肉に、魔力が絡みついている。

ただ強いだけではない。

“練られた強さ”。

ラグゼルは、すでに気づいていた。

(この男……ただの魔導士ではない)

だが。

退く理由にはならない。

「理で戦う者よ」

ラグゼルが笑う。

「本能を超えられるか?」

カイシンは、首をかしげた。

「……一応、試してみるかのう」

軽い。

あまりにも軽い。

ラグゼルの目が細くなる。

(……舐めている)

次の瞬間。

魔法陣が展開される。

一つではない。

二つでもない。

五。

八。

さらに増える。

複雑に絡み合う、多重構築。

しかも――

すべてが“完成形”。

騎士が息を呑む。

「……あれは……」

冒険者が震える。

「同時展開……しかもあの精度……!」

通常、一つで限界。

それを――

同時に。

しかも完璧に制御。

カイシンが、静かに呟く。

「……あのレベルの魔法はな」

一拍。

「数種類しか扱えぬ」

冒険者

「え……?」

カイシンは頷く。

「あの者――やりよる」

騎士が驚く。

「カイシン様が、評価している……!?」

ラグゼルが笑う。

「理解できるか」

次の瞬間。

魔法が解き放たれる。

炎。

雷。

氷。

風。

すべて同時。

しかも――

連鎖。

重なり。

逃げ場は、完全に消える。

だが――

消えた。

「……は?」

何も起きない。

ただ、消えた。

“最初から存在しなかったかのように”。

カイシンが、指を軽く動かす。

「式が粗い」

ラグゼルの目が見開く。

「何……!?」

(干渉された……?)

(いや、違う――)

(“解体された”……!?)

再び展開。

今度はさらに精密。

さらに高速。

今度は、崩れない。

――はずだった。

だが。

カイシンが、一歩踏み出す。

その瞬間。

空間が“ずれた”。

魔法陣が――

“存在ごと崩壊する”。

「なっ……!?」

騎士が呟く。

「触れて……いない……」

冒険者が震える。

「干渉じゃない……」

一拍。

「……支配してる……」

カイシンは、穏やかに語る。

「魔法とはな」

ことわりじゃ」

一歩。

「構築し」

もう一歩。

「成立させ」

さらに一歩。

「発動する」

そして――

「その全てを理解すれば」

指を鳴らす。

「壊せる」

ドンッ。

目に見えない衝撃。

ラグゼルの身体が吹き飛ぶ。

地面を転がる。

立ち上がる。

だが――

震えている。

「……ありえん……」

その声には、明確な恐怖が混ざっていた。

ラグゼルは強い。

間違いなく、幹部として完成された存在。

だが――

「桁が……違う……」

誰かが呟く。

カイシンは、首をかしげる。

「そうかのう?」

一拍。

「単純な話じゃ」

さらに一歩。

「分かればいい」

ラグゼルが叫ぶ。

「分かるか!!」

カイシン

「分からぬか」

一拍。

「では仕方ない」

ゆっくりと手を上げる。

空間に、魔法陣が浮かぶ。

一つ。

二つ。

三つ。

十。

二十。

三十。

さらに。

増える。

止まらない。

騎士が後ずさる。

「……多すぎる……」

冒険者が呟く。

「数だけじゃない……」

一拍。

「……“質”も違う……」

カイシンは、穏やかに言う。

「参考までに」

全てが、同時に発動する。

光。

音。

衝撃。

そして――

静寂。

ラグゼルは、立っていなかった。

沈黙。

騎士が、呟く。

「……終わった……」

冒険者が震える声で言う。

「……これが……大賢者……」

だが。

誰もが思っていた。

(違う)

(こんなの……聞いてない)

(想像を……超えてる)

カイシンは、少しだけ考えた。

「……ふむ」

一拍。

「今のは、筋肉ではないのう」

沈黙。

騎士

「え?」

カイシンは頷く。

「純粋に理論じゃ」

さらに一拍。

「……分からぬが」

冒険者

「分からないんですか!?」

カイシンは、穏やかに笑った。

「分からぬな」

だが――

その場の誰もが理解していた。

この男は。

“理そのもの”であると。

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