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第15話 筋肉は誇りを支える

北部前線――右翼。

そこは、戦場の中でも最も激しい“正面衝突”が起きている地点だった。

盾と盾がぶつかり合う。

剣が軋み、火花が散る。

怒号と悲鳴が混ざり合い、空気を震わせる。

一歩でも退けば――崩れる。

この戦線は、退けない。

「隊列を崩すな!!」

「前へ出るな!受けろ!!」

騎士団の怒号が響く。

盾が並ぶ。

剣が交差する。

歯を食いしばり、踏みとどまる。

ここは、防ぐ場所だ。

その最前線に――

フィオナは立っていた。

白銀の鎧。

すでに血と砂に汚れている。

それでも。

その姿勢は、一切揺らがない。

「……ここは通さない」

低く、静かな声。

だが、その一言だけで。

戦線が、わずかに安定する。

ズン……

空気が沈む。

「……来る」

フィオナが呟く。

その声に、迷いはない。

カツン。

軽い足音。

この戦場には似つかわしくない、静かな音。

だが――

それが、最も危険だった。

気づいた時には。

――“そこにいた”。

長身。

しなやかな筋肉。

獣のような鋭い瞳。

獣王軍幹部――ヴァルグ。

ヴァルグが、楽しそうに口を開く。

「また会ったな」

フィオナは剣を構える。

一切の隙なく。

「……お前か」

ヴァルグが、わずかに笑う。

「俺は――」

一拍。

「速さで狩る」

空気が、歪む。

騎士たちが息を呑む。

「幹部……!?」

ヴァルグが、一歩踏み出す。

そして――

消えた。

ザンッ。

血が舞う。

騎士が一人、崩れ落ちる。

「速すぎる……!」

次の瞬間。

もう一人。

斬られる。

隊列が、揺らぐ。

フィオナが、一歩前に出る。

「下がれ!!」

その一言で。

騎士たちは即座に引いた。

迷いなく。

ヴァルグが笑う。

「判断は悪くねぇ」

視線が、交わる。

フィオナ

「王国騎士団」

一拍。

「フィオナ・レイグラント」

ヴァルグ

「……いい目だ」

「獣王軍幹部ヴァルグ」

次の瞬間。

消える。

キィンッ!!

フィオナが、受け止める。

火花が散る。

衝撃が腕を伝う。

「……速いな」

ヴァルグが笑う。

「だろ?」

連撃。

一撃。

二撃。

三撃。

さらに。

四。

五。

六。

斬撃の嵐。

常人なら、認識すらできない速度。

だが――

フィオナは、すべて受ける。

キィン!!

ガキン!!

ギィン!!

火花が連続して散る。

衝撃が、地面を削る。

だが。

足が――わずかに下がる。

騎士

「押されてる……!」

フィオナの呼吸が、荒くなる。

(速い)

(重い)

(だが――)

踏み込む。

剣を振る。

ガキンッ!!

ヴァルグが受ける。

その目が、わずかに細くなる。

「やるな」

フィオナは止まらない。

踏み込む。

斬る。

受ける。

斬る。

真正面。

ただそれだけ。

騎士

「団長……!」

フィオナの目は、揺れない。

「退かない」

一拍。

「それが、騎士だ」

ヴァルグの口角が上がる。

「いいね」

その瞬間。

さらに加速。

“見えない”領域。

騎士たちの視界から、完全に消える。

だが――

フィオナは、動かない。

剣を構える。

呼吸を整える。

心を、沈める。

「来い」

一瞬。

気配が――右。

(そこだ)

踏み込む。

ドンッ!!

カウンター。

ヴァルグの身体が、わずかに揺れる。

「……っ!?」

フィオナは、その隙を逃さない。

さらに一歩。

踏み込む。

「守るために――」

剣を振り上げる。

全身の力を乗せる。

「退かない!!」

ドォンッ!!!!

直撃。

ヴァルグの身体が吹き飛ぶ。

地面を転がる。

砂煙が上がる。

静寂。

やがて。

ゆっくりと、起き上がる。

だが――

足が、動かない。

「……はは」

小さく笑う。

「速さだけじゃ……足りねぇか」

フィオナは剣を向けたまま。

一歩も引かない。

ヴァルグは、その姿を見る。

そして――

ゆっくりと、膝をついた。

ドサッ。

倒れる。

動かない。

沈黙。

騎士たちが、息を吐く。

「……倒した……」

フィオナは、剣を下ろさない。

視線は前。

戦場の先を見ている。

「まだ終わっていない」

一拍。

「次に備えろ」

その背中は――

誰よりも強く。

誰よりも揺るがなかった。


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