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第14話 筋肉は守るためにある

北部前線――左翼。

そこは、戦場の中でも最も激しい衝突が起きている地点だった。

怒号が飛び交う。

剣と剣がぶつかり、火花が散る。

魔法が空を裂き、爆音が大地を揺らす。

そして――

肉と肉がぶつかる、鈍い衝撃音。

ここはもう、日常ではない。

生き残るための場所だった。

ドゴォン!!

大地が砕ける。

トロールの拳。

振り下ろされた一撃が、獣王軍の巨体を容易く吹き飛ばす。

骨が軋み、肉が歪む。

それでも戦いは止まらない。

「前線維持しろ!!」

「押し返せ!!」

騎士団の怒号が響く。

冒険者たちの詠唱が重なり、火球や氷刃が次々と放たれる。

一瞬でも崩れれば、戦線は終わる。

ここは――踏みとどまる場所だ。

だが。

ズンッ。

その音だけで、空気が変わった。

現れた。

ひときわ大きな影。

異様な圧。

呼吸が重くなる。

獣王軍幹部――グレッグ。

その身体は、異常だった。

分厚い皮膚。

膨れ上がった筋肉。

そして――

壊れたはずの肉が、ゆっくりと戻っていく。

「……再生している!?」

冒険者が叫ぶ。

「ダメージが通ってないぞ!」

騎士の声に、焦りが滲む。

トロールが拳を振るう。

ドゴンッ!!

確かに壊れる。

だが――

ズズ……

肉が戻る。

骨が繋がる。

何事もなかったかのように。

「なんだあれは……」

誰も、答えられない。

その時だった。

前に出た影が、一つ。

トロール王。

静かに。

ゆっくりと。

だが確実に――前へ進む。

その目は、ただ一点を見ていた。

倒れた仲間。

傷ついた騎士。

流れる血。

「……グゥ」

低い唸り。

騎士が呟く。

「……あいつ……怒ってるのか?」

冒険者が聞き返す。

「分かるのか?」

騎士は、少しだけ迷ってから言った。

「……なんとなくだ」

トロール王が拳を握る。

筋肉が軋む。

一歩。

踏み出す。

ズンッ。

地面が沈む。

グレッグが笑う。

「いい体だ」

「だが――」

拳を構える。

「効かぬ」

次の瞬間。

激突。

ドォォン!!!!

力と力。

真正面。

トロール王の拳。

グレッグの腕。

ぶつかる。

衝撃が爆ぜ、周囲の兵たちが吹き飛ばされる。

騎士

「……正面から……!?」

冒険者

「無茶だ!!」

だが。

トロール王は、退かない。

一歩も。

ドゴンッ!!

もう一撃。

さらに。

ドゴンッ!!

殴る。

殴る。

殴る。

グレッグの肉が崩れる。

だが――

再生する。

何度でも。

「無意味だ」

グレッグが言う。

その瞬間。

トロール王の目が変わる。

怒りではない。

覚悟。

騎士が息を呑む。

「……あいつ……」

トロール王が踏み込む。

さらに深く。

距離を詰める。

逃がさない。

ガシッ。

腕を掴む。

グレッグ

「……!?」

引き寄せる。

力で。

無理やり。

至近距離。

逃げ場はない。

ドォン!!!!

全力の一撃。

再生する前に――

さらに。

ドン!!

ドン!!

ドン!!

連撃。

一切の隙を与えない。

騎士

「再生が……追いついてない……!」

冒険者

「押してる……!」

トロール王は止まらない。

ただ。

殴る。

守るために。

仲間を。

この場を。

ドォンッ!!!!

最後の一撃。

グレッグの身体が崩れ落ちる。

動かない。

再生も――しない。

沈黙。

トロール王は、その場に立ったまま動かなかった。

拳は、まだ握られている。

呼吸は荒く、重い。

肩が大きく上下する。

一歩、踏み出そうとして――止まる。

膝が、わずかに揺れた。

騎士が気づく。

「……あいつ……」

腕から血が流れている。

皮膚が裂け、筋肉が露出している。

それでも。

倒れない。

ただ、立っている。

騎士が、思わず呟いた。

「……あいつも限界じゃないか……」

トロール王は、ゆっくりと息を吐く。

重く、深く。

周囲を見渡す。

倒れた仲間。

傷ついた騎士。

そして――

小さく、頷いた。

その瞬間。

張り詰めていたものが、切れた。

ドスン。

トロール王の膝が、地面につく。

「……!」

騎士が駆け寄ろうとする。

だが――

トロール王は手で制した。

「……グゥ」

低い声。

大丈夫だ、と。

そう言っているようだった。

騎士は、足を止める。

そして、静かに言った。

「……勝ったのか……」

冒険者が呟く。

「今の……」

一拍。

「ただの殴り合いじゃない……」

騎士が頷く。

「……ああ」

視線の先。

トロール王。

「守るための戦いだ」

トロール王は何も語らない。

だが――

その背中が、すべてを語っていた。

遠くで、爆音。

戦場は、まだ終わらない。

だが――

確かにこの瞬間。

一つの勝利が、そこにあった。

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