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第12話 筋肉は獣を迎え撃つ

王都より北。

広大な平原の一角に――

急造の防衛拠点が築かれていた。

木材を組み上げたバリケード。

土嚢で固められた防壁。

即席の見張り台には、常に人影がある。

風が強い。

乾いた砂が舞い上がり、視界を曇らせる。

空は広い。

だが、その広さが――逆に不安を煽る。

ここはもう、日常ではない。

戦場の“手前”。

戦争の“入口”。

「資材もっと持ってこい!!」

「杭を深く打て!浅いと一瞬で持っていかれるぞ!!」

怒号が飛び交う。

冒険者。

王国騎士団。

そして――

トロール。

巨体の彼らが、黙々と資材を運び、防壁を築いている。

その腕は太く。

その動きは重い。

だが――確実だった。

人間よりも速く、そして正確に。

その光景は、どこか異様だった。

つい数日前まで、敵だった存在。

それが今は――同じ方向を向いている。

セリアーナは、その様子を見つめながら、小さく呟いた。

「……なんだか、変な感じですね」

一拍。

「トロールと一緒に、戦うなんて……」

フィオナは、即答した。

「もう味方だ」

短く。

だが、揺るがない声。

「ここで止める。それだけだ」

迷いはない。

決意だけが、そこにあった。

拠点中央。

簡易机の上に広げられた地図を囲み、数人が集まっていた。

フィオナ。

カイシン。

シエル。

セリアーナ。

そして竹助。

カイシンが顎に手を当てる。

「問題は進軍ルートじゃな」

「獣王軍の数はトロールの比ではない。それにスピードもある」

シエルが地図を指でなぞる。

「最短ならこのルート」

「でも、本能で動くなら変則もありえる」

フィオナが頷く。

「全てを防ぐなら――」

一拍。

「戦力を分散するしかない」

カイシン

「うむ。各防衛拠点に戦力を振り分けるしかあるまい」

セリアーナが不安げに言う。

「でも、それって……一つ一つが薄くなりませんか?」

フィオナ

「なる」

即答。

「だからこそ――ここが正念場だ」

その時だった。

竹助が、ゆっくりと顔を上げる。

「……何か来る」

空気が変わる。

フィオナ

「何がだ?」

竹助は、わずかに目を細めた。

「分からない」

一拍。

「だが、来る」

シエルが舌打ちする。

「……最悪」

カツン。

小さな足音。

誰も、気づいていなかった。

「へぇ」

背後から、声。

全員が振り向く。

そこに――

男が立っていた。

長身。

しなやかな筋肉。

無駄のない肉体。

そして。

獣のような、鋭い瞳。

ただ立っているだけで――

空気が歪む。

「準備してるじゃねぇか」

軽い口調。

だが――その一言で、場の温度が下がる。

フィオナが剣に手をかける。

「いつ入った」

男は肩をすくめる。

「さぁな」

一拍。

「気づけなかっただけじゃないか?」

シエルが一歩前に出る。

目が細くなる。

「……かなりの速さだ」

カイシン

「ただ者ではないのう」

男は、ゆっくりと名乗る。

「ヴァルグ」

「獣王軍幹部だ」

ざわっ――

周囲の空気が一段階、重くなる。

ヴァルグは、拠点を見回す。

「人間、騎士、トロール……」

「寄せ集めにしちゃ、悪くねぇな」

シエルがナイフを構える。

「見物だけで帰すと思う?」

ヴァルグは、笑った。

「試してみろよ」

次の瞬間。

消えた。

「来るぞ!!」

フィオナの声。

ガキンッ!!

火花。

フィオナが剣で受け止めていた。

「……速い!」

シエルが横から入り込む。

ナイフが閃く。

「動きは読める」

ヴァルグが紙一重で避ける。

「いいね」

「人間にしてはやる」

三者の高速戦。

視線が追いつかない。

だが――

“対応できている”

セリアーナ

「追えてる……!」

カイシン

「うむ、十分じゃな」

その時。

ドンッ。

空気が震えた。

竹助。

すでに間合い。

ヴァルグの動きが止まる。

ほんの一瞬。

「……なるほど」

後ろへ跳ぶ。

距離を取る。

「あんたが本命か」

竹助

「問題ない」

ヴァルグは笑う。

だが、その目は冷たい。

「確認は終わりだ」

一拍。

「勝てない相手じゃない」

「だが――面倒だ」

フィオナ

「何を企んでいる」

ヴァルグは、背を向ける。

「もう来てるぞ」

その言葉と同時に――

ゴゴゴゴゴ……

地鳴り。

大地が、震える。

全員が、顔を上げる。

地平線。

その先に――

影。

いや。

軍勢。

獣王軍団。

圧倒的な数。

圧倒的な質量。

空気が、重く沈む。

呼吸が、浅くなる。

その中央。

ひときわ巨大な影。

獣王。

セリアーナ

「……来た……」

フィオナ

「総員、配置につけ!!」

騎士団が整列する。

剣を抜く。

冒険者たちが武器を構える。

トロールたちが前へ出る。

壁のように。

そして――

竹助が、一歩前に出た。

風が吹く。

砂が舞う。

両軍。

対峙。

誰も動かない。

風だけが、吹き抜ける。

砂が舞い、視界が揺れる。

その静寂は――嵐の前触れだった。

セリアーナが、小さく息を飲む。

「……来ますね」

その声は、かすかに震えていた。

フィオナが前を見たまま言う。

「ああ」

短く。

だが、その一言には覚悟があった。

シエルが、肩を回す。

「数、多すぎ」

一拍。

「……分かれる」

カイシンが頷く。

「じゃな」

「この数を一箇所で受けるのは無理じゃ」

セリアーナの表情が、わずかに曇る。

「……別行動、ですか」

沈黙。

竹助が言う。

「問題ない」

一拍。

「すぐ終わる」

セリアーナが思わずツッコむ。

「それ、全然安心できません!」

だが。

少しだけ、笑っていた。

フィオナが振り向く。

セリアーナを見る。

「無理はするな」

「危なくなったら、すぐ下がれ」

セリアーナは一歩前に出る。

「フィオナさんこそです!」

「絶対、無茶しないでください!」

フィオナは、ほんの一瞬だけ驚き――

そして、小さく笑った。

「……ああ」

「約束する」

シエルが横から口を挟む。

「……自分の心配しな」

セリアーナ

「シエルさんもです!」

シエルは、ふっと視線を逸らす。

「私は死なない」

一拍。

「……たぶん」

セリアーナ

「“たぶん”やめてください!!」

カイシンが笑う。

「ほっほっほ」

「まあ、なんとかなるじゃろ」

セリアーナ

「軽すぎません!?」

その時。

ドンッ。

地面が、揺れた。

獣王軍が――動く。

フィオナ

「来るぞ!!」

全員の空気が、一瞬で変わる。

竹助が、一歩前に出る。

「行くぞ」

セリアーナが、強く頷く。

「はい!」

フィオナが剣を構える。

シエルがナイフを逆手に持つ。

カイシンが杖を軽く回す。

それぞれが、それぞれの戦場へ。

風が吹く。

戦いは――

すぐそこまで来ている。

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