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第11話 筋肉は種族を超える

ロウゼル冒険者ギルド。

昼下がり。

酒の匂い。

依頼書をめくる音。

くだらない笑い声。

いつも通りの、平和な空気。

――そのはずだった。

バンッ!!

勢いよく扉が開いた。

息を切らした騎士団員が、転がり込むように飛び込んでくる。

「緊急報告!!」

空気が、凍る。

ガルドがゆっくり立ち上がる。

「どうした」

騎士団員は、叫ぶように言った。

「北部防衛ライン――突破されました!!」

ざわっ――

空気が一瞬でざわめきに変わる。

「は?」

「突破?」

フィオナの表情が変わる。

一歩、前に出る。

「何があった?」

騎士団員は息を整えながら答えた。

「トロールの軍団です!!」

セリアーナ

「えぇ!?」

カイシン

「……ほう」

騎士団員は続ける。

「数は……目測で百!」

「防衛任務についていた団員は、防衛を断念――撤退しました!」

沈黙。

重い現実だけが落ちる。

フィオナは、静かに言った。

「……正しい判断だ」

その声は冷静だった。

「無理に抵抗すれば、被害が増えるだけだ」

シエル

「……でも、その分こっちに来る」

セリアーナ

「王都に……!?」

ガルドが腕を組む。

「騎士団からの正式依頼とする」

騎士団員が深く頭を下げる。

「お願いします!」

「騎士団も再編成して向かいます!」

ガルドは頷いた。

「……分かった」

そして、振り返る。

「受けるやつはいるか?」

ざわつく冒険者たち。

「トロールか……」

「数が多いならキツいぞ」

「報酬次第だな……」

空気は、軽くない。

その時。

フィオナが、頭を下げた。

「頼む」

「今、止めなければ――王都に被害が出る」

その一言で。

空気が、変わる。

その時だった。

「問題ない」

竹助が立ち上がる。

セリアーナ

「行くんですね!?」

竹助

「筋肉が必要だ」

シエル

「……はいはい」

カイシン

「ほっほっほ」

フィオナは、まっすぐ頷いた。

「ありがとう」

「行くぞ」

――北部。

風が強い草原。

砂が舞い、視界が揺れる。

すでに戦闘は始まっていた。

「来るぞ!!」

冒険者たちが迎撃に出る。

トロール軍団。

確かに数は多い。

だが――

ザンッ。

「……え?」

一撃。

トロールが吹き飛ぶ。

ドゴッ!!

別の個体も沈む。

「……弱い?」

困惑の声。

「おい……なんだこれ……」

「抵抗してこないぞ……?」

違和感が広がる。

トロールたちは、攻撃しない。

ただ――

進む。

足を引きずりながら。

呼吸を荒げながら。

一体が膝をつく。

ドスン。

それでも。

歯を食いしばるように、立ち上がる。

そして、進む。

セリアーナ

「……怖いです……」

フィオナ

「……異常だ」

シエル

「……戦う気がない」

カイシン

「……逃げておるのう」

「押し返せ!!」

魔法が飛ぶ。

だが。

トロールは、倒れても立ち上がる。

ただ前へ。

前へ。

「弱い……のに……」

誰かが呟く。

――それでも、怖い。

その時。

「待て」

低い声。

戦場が止まる。

竹助だった。

ゆっくりと前へ出る。

セリアーナ

「竹助さん……!」

フィオナ

「不用意に出るな!」

だが、止まらない。

トロールたちを見つめる。

「……様子が違う」

一拍。

「戦う筋肉ではない」

シエル

「またそれ?」

竹助

「逃げている筋肉だ」

セリアーナ

「筋肉で分かるんですか!?」

カイシン

「……そういうことか」

セリアーナ

「なんで分かるんですか!?」

竹助が一歩踏み出す。

ドンッ。

空気が変わる。

全員、止まる。

トロールも。

冒険者も。

静寂。

竹助は腕を組む。

「王がいる」

「出てこい」

ざわ……

群れが割れる。

現れる。

トロール王。

圧倒的な巨体。

だが――

その目は、疲れ切っていた。

「……グゥ……」

セリアーナ

「言葉……通じませんよ!?」

竹助

「問題ない」

「言葉はいらない」

気づけば。

腕相撲の体勢。

セリアーナ

「なんでぇぇ!?」

フィオナ

「意味が分からん!!」

シエル

「……帰りたい」

カイシン

「始め!」

セリアーナ

「だからなんで!?」

ギギギギギ……!!

筋肉がぶつかる。

トロール王。

必死だった。

守るため。

逃げるため。

生きるため。

すべてを、腕に込める。

竹助。

静かに受ける。

そして――

ドンッ!!

決着。

「……理解した」

「獣王軍団に追われているな」

「お前たちは侵略ではない」

「逃げてきた」

トロール王の目が見開かれる。

そして――頷く。

セリアーナ

「当たってる!?」

シエル

「……なんで?」

カイシン

「筋肉じゃな」

セリアーナ

「もういいです!!」

竹助は拳を差し出す。

「争う必要はない」

一拍。

「敵は別にいる」

トロール王。

迷う。

震える腕。

そして――

握る。

その瞬間。

空気が変わった。

敵意が消える。

セリアーナ

「……握手……?」

シエル

「……いやもう何これ」

カイシン

「ほっほっほ」

「友情じゃな」

その遠く。

山の向こう。

獣の咆哮が、かすかに響いていた。

その日の夕方。

ロウゼル冒険者ギルド。

リーナ

「結果――被害ゼロ」

「戦果――友情」

沈黙。

「……えぇ?」

ガルド

「……分からぬ」

一拍。

「だが筋肉だ」

リーナ

「なんで納得してるんですか!?」

その日。

王都は知った。

筋肉は――

種族すら超える。

そして。

新たな敵が、近づいていることを。

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