第10話 筋肉は王に認められる
ロウゼル冒険者ギルド。
昼下がり。
いつも通り騒がしい空間に――
一人の騎士が立っていた。
白銀の鎧。
整った姿勢。
王国騎士団。
フィオナ・レイグラント。
リーナが首をかしげる。
「フィオナさん? どうしたんですか?」
フィオナは一歩前に出る。
そして、まっすぐ竹助を見る。
一拍。
ほんの少しだけ――嬉しそうに。
「王命だ」
ざわっ――
空気が揺れる。
「勇者タケスケ・ウチト」
「王への謁見を許可する」
沈黙。
セリアーナ
「えぇぇぇ!?」
ギルド中がざわつく。
「王!?」
「マジかよ!?」
「ついにか……!」
フィオナは続ける。
「四天王二人を退けた功績」
「王が直々に確認される」
そして、小さく。
「……誇らしいな」
セリアーナ
「フィオナさん……!」
シエル
「……顔に出てる」
フィオナ
「出ていない」
*
王城。
白亜の大広間。
玉座の前。
竹助たちが並ぶ。
セリアーナは緊張で震えている。
「こ、ここが王城……!」
カイシンは腕を組み、呟いた。
「……相変わらず大きいのう」
*
謁見の間。
玉座に王。
周囲には王国騎士団。
張り詰めた空気。
王が口を開く。
「勇者タケスケ・ウチトよ」
「報告は受けている」
一拍。
「……理解はできておらぬが」
セリアーナ
「ですよね!?」
王は続ける。
「魔王軍四天王を二人退け」
「盗賊団を壊滅……いや更生させた」
わずかに言葉を選ぶ。
「……事実か?」
竹助は頷く。
「筋肉だ」
沈黙。
王は目を閉じる。
そして――
「……そうか」
セリアーナ
「早い!?」
*
王はゆっくり立ち上がる。
「そなたは危険だ」
空気が一瞬で張り詰める。
だが。
「だが――必要な力でもある」
視線が真っ直ぐ向く。
「この国のために力を振るうか?」
竹助は即答する。
「問題ない」
一拍。
「筋肉は、裏切らない」
王は、わずかに笑った。
「……そうか」
*
――その時。
「待ってください」
扉が開く。
一人の男が入ってくる。
Aランク冒険者――ザッコス。
魔法剣士。
剣と魔法の融合。
だが、その本質は――魔法。
「王よ」
「こんな男を認めるのですか?」
セリアーナ
「出た……!」
シエル
「テンプレ」
フィオナが鋭く睨む。
*
ザッコスは続ける。
「筋肉など、認めぬ」
「全て何かの間違いだ」
セリアーナ
「全部事実です!」
ザッコスは笑う。
「ならば――」
剣を抜く。
「確かめさせてもらおう」
フィオナ
「待て! 王の御前だぞ!」
王が手を上げる。
「良い」
一拍。
「私も気になっていたところだ」
「見せてもらおう」
空気が変わる。
*
ザッコスの剣に魔力が走る。
炎、水、風、雷。
複数属性が同時に重なる。
「……見せてやる」
「これがAランクだ」
踏み込む。
速い。
魔力で強化された脚。
床が砕ける。
斬撃。
炎が爆ぜる。
だが――
当たらない。
「……っ!?」
視界がズレる。
そこにいるのに――捉えられない。
*
ザッコスは距離を取る。
「なら――!」
詠唱。
魔法陣展開。
上空に無数の氷槍。
「降れ!!」
セリアーナ
「す、すごい……!」
フィオナ
「この密度……さすがAランクだ」
カイシンが静かに言う。
「……あのレベルの魔法はな」
一拍。
「通常、数種類しか扱えぬ」
「だが――あの男は違う」
「やりよる」
セリアーナ
「さすがカイシン様!」
シエル
「……お前はどうなんだ?」
セリアーナ
「カイシン様はどんな魔法でも最高クラスですよ!」
フィオナ
「え!?」
シエル
「……おまえ、本当に強かったんだな」
カイシン
「……あれ? 疑っておる?」
*
氷槍が降り注ぐ。
だが。
竹助は動かない。
拳を軽く振る。
ドンッ。
空気が震える。
氷槍が――消えた。
「……は?」
セリアーナ
「えぇぇ!?」
フィオナ
「消した……?」
シエル
「殴って?」
カイシン
「……筋肉じゃな」
セリアーナ
「それで納得しないでください!!」
*
「まだだ!!」
雷撃。
だが――
バチン。
拳一つ。
雷が消える。
「……嘘だろ……」
*
「なら……これで!!」
全魔力を剣に圧縮。
空気が悲鳴を上げる。
カイシン
「……複合魔法か」
フィオナ
「一撃必殺……!」
シエル
「……まともに食らえば終わる」
セリアーナ
「竹助さん……!」
「終わりだぁぁぁ!!」
*
だが。
竹助は動かない。
拳を引く。
腰を落とす。
そして――
寸止め。
*
ドンッ!!!!!!
衝撃。
空気が爆ぜる。
ザッコスの身体が揺れる。
――鎧が弾けた。
――服が裂けた。
魔力が霧散する。
剣が落ちる。
*
沈黙。
ザッコスは立っている。
――全裸で。
セリアーナ
「きゃあああああ!!」
フィオナ
「隠せ!!」
シエル
「……またこれか」
王
「……えぇ」
*
ザッコスは震えていた。
だが、それは恐怖ではない。
「……軽い……」
「……なんだ……これは……」
竹助が言う。
「余分なものを削ぎ落とした」
「本質だけが残る」
*
ザッコスは目を閉じる。
そして、笑う。
「……そうか」
「俺は……頼りすぎていた」
「装備に」
「そして魔法に」
拳を握る。
「一からだ」
振り返らない。
全裸のまま歩き出す。
「鍛え直す」
*
セリアーナ
「服!!」
フィオナ
「誰か止めろ!!」
シエル
「……もういいだろ」
王が頭を抱える。
「……なんだこれは……」
*
竹助は静かに言った。
「筋肉は」
一拍。
「正直だ」
*
王はしばらく黙っていた。
そして――
深く息を吐く。
「……分からぬ」
一拍。
「だが」
頷く。
「必要だな」
宣言する。
「勇者タケスケ・ウチト」
「そなたを、正式に認める」
セリアーナ
「やりました!!」
フィオナは静かに頷く。
誇らしげに。
シエルはため息。
「……やっぱりこうなる」
*
その日。
王国は認めた。
勇者でも。
魔法でもない。
――筋肉という存在を。




