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第9話 筋肉は語り合う

街道。

任務を終えた帰路。

穏やかな風が吹き、戦いの緊張はすでに解けていた。

セリアーナが大きく伸びをする。

「はぁ〜……終わりましたねぇ……」

フィオナも小さく頷く。

「ああ。被害も0。上出来だろう」

シエルは呟く。

「疲れた。」

竹助は静かに歩いている。

いつも通り。

カイシンは腕を組みながら、何かを考えていた。

「……スクワットとは……深いのう」

セリアーナ 「まだ考えてたんですか!?」

――その時だった。

ドン。

ドン。

ドン。

地面が、わずかに震える。

全員の足が止まる。

フィオナが即座に前へ出た。

「……何かいる」

視線の先。

木々の奥から、巨体が現れる。

ゆっくりと。

確実に。

魔王軍四天王――ダービル。

鎧を脱いだ上半身。

盛り上がる筋肉。

削ぎ落とされた無駄。

“完成された外側”。

セリアーナが息を呑む。

「つ、強そう……!」

フィオナが剣に手をかける。

「警戒しろ」

シエルが低く言う。

「……強敵」

空気が張り詰める。

完全な戦闘前。

その時。

ダービルが口を開いた。

「貴様か」

視線は、ただ一人。

竹助。

竹助は頷く。

「いかにも」

一拍。

「通りすがりの筋肉だ」

セリアーナ 「それやめてください!!」

だがダービルは笑わない。

真剣だ。

「確かめに来た」

一歩、踏み出す。

地面が鳴る。

「どちらの筋肉が上か」

セリアーナ 「戦うんですよね!?」

フィオナ 「来い」

シエル 「……殺し合い確定」

――だが。

竹助が、静かに言った。

「違う」

一拍。

「筋肉だ」

沈黙。

風が吹く。

セリアーナ 「……はい?」

フィオナ 「……どういう意味だ」

シエル 「……もう帰りたい」

次の瞬間。

ダービルが構えた。

胸を張る。

肩を広げる。

筋肉が膨れ上がる。

セリアーナ 「え!?え!?え!?」

フィオナ 「剣を抜いていない……?」

シエル 「……ポーズ?」

竹助も構える。

ゆっくりと。

静かに。

同じように。

セリアーナ 「なんで対抗してるんですか!?」

フィオナ 「まさか……これが戦い……?」

シエル 「……理解不能」

自然と、円ができていた。

誰も指示していない。

だが、誰もが一歩下がる。

本能が理解している。

――これは、何かが始まる。

だが、何かは分からない。

カイシンが前に出る。

「……ほう」

一拍。

「分からぬ」

セリアーナ 「でしょうね!?」

カイシン 「だが」

頷く。

「面白い」

フィオナ 「基準がおかしい!」

カイシンが手を上げた。

「始め!」

セリアーナ 「なんで仕切ってるんですか!?」

第一ラウンド

ダービル――フロント・ラットスプレッド。

広がる。

圧倒的な“面”。

「ハァッ!!」

その瞬間、背後から声が上がる。

「デカい!!広背筋」

「翼が生えてる!」

「壁だ!!」

いつの間にか集まっていた魔王軍の兵たち。

セリアーナ 「なんで増えてるんですか!?」

竹助――フロント・ダブルバイセップス。

静かに。

収束する力。

一瞬、沈黙。

そして。

「……キレてる」

魔王軍の一人が呟く。

「……仕上がってる……」

カイシン「ナイス上腕!!」

セリアーナ 「乗った!?」

カイシン 「キレておる!!」

フィオナ 「混ざるな!!」

シエル 「……終わってる」

第二ラウンド

ダービル――バック・ダブルバイセップス。

圧。

完成。

「分厚い!!」

「背中に鬼が出てる!!」

「腕の山が高い!!」

魔王軍が叫ぶ。

竹助――バック・ラットスプレッド。

静かに。

広がる。

均一。

整いすぎた背中。

「……なんだこれ」

「……翼が広がってる」

「すげぇ……」

セリアーナ 「敵が感動してますよ!?」

フィオナ 「……分からんが、差がある」

シエル 「……分かりたくない」

カイシン 「理想形じゃな」

セリアーナ 「何の!?」

ダービルの頬に汗が流れる。

「…やるな」

「これで最後だ」

最終ラウンド

ダービル――渾身のモストマスキュラー。

全身を圧縮。

極限。

「ォオオオオ!!」

「最強!!」

「頂点!!」

魔王軍、総立ち。

セリアーナ 「すごいですけど意味が分かりません!!」

竹助。

ゆっくりと。

横を向く。

――サイドチェスト。

静寂。

光。

優しく。

だが圧倒的に。

誰も、声を出せない。

そして。

「……綺麗だ」

魔王軍が呟く。

「……完璧だ」

「……美しい」

セリアーナ 「えぇ!?」

フィオナ 「敵が認めた……」

シエル 「……もうダメだこの世界」

カイシン 「……完成しておる」

ダービルの膝が落ちる。

「……俺は……」

震える声。

「何を……鍛えていた……」

竹助

「外側ばかりだ」

一拍。

「内側が、足りていない」

沈黙。

ダービルは笑う。

「……なるほど」

「インナーマッスルか」

「勝てないわけだ」

立ち上がる。

深く頭を下げる。

「鍛え直す」

「今度は――内側からだ」

竹助

「それでいい」

去っていくダービル。

その後ろで、魔王軍の兵たちが静かに道を開ける。

誰も敵として見ていない。

ただ、同じ“筋肉を知る者”として見ていた。

セリアーナ 「……敵ですよね?」

フィオナ 「……ああ」

シエル 「……たぶん」

カイシン 「……分からぬ」

セリアーナ 「でしょうね!!」

竹助は静かに言った。

「筋肉は」

一拍。

「語り合うものだ」

セリアーナ 「語り合ってません!!」

フィオナ 「……いや……語り合っていたのか……?」

シエル 「……分かりたくない」

風が吹く。

誰も理解しないまま――

ただ一つだけ、確かなことがあった。

この世界は今、

少しだけ――筋肉に近づいた。

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