51 DT達の暴走(スタンピード)
バサリと床に、小物入れをオレは落としてしまった。
ファスナーが半開きだったので、取り出し口からリップクリームやティシュに常備してる衛生用品等が、転げ出てしまった。
そしてそれらの中に、赤くて丸い形をしたゴム製品が三個ほど含まれて居たのだ。
「あらぁ~、マコちゃんもそう言う時のために、ちゃんと用意してんだぁ」
転げ出たゴム製品を見て明里が言うと。
「そうですよ、乙女のエチケットとして、何時でも大丈夫な様に持って置く物ですからね」
千秋までもが同調する様に言い。
「私も母に持たされています、師匠も女が持って置くべき最後の守り品を、ちゃんと用意されてんですね」
千葉美波もそんな事を言った。
丁度オレと明里と千秋に美波で、昼休み時間のお弁当タイムの前に、皆んなでお手洗いに行脚しに行こうとして、教室を出ようとして居るところだったのだが。
だから教室には、明里達以外にもクラスメイト達が何人か居て、そのゴム製品が目撃されたのだった。
オレは素早くゴム製品と他の品物を、小物入れにしまい込み、そそくさと明里達と教室を出た。
手洗い場で明里達と駄弁りつつ、他の女子グループとの外交儀礼をこなして教室の前まで帰って来ると、何やら騒がしくなって居た。
そしてたまたま教室から出てきた女生徒が、オレを見つけると近付いて来て言った。
「小鳥遊さん、今は教室に入らない方が良いわよ、男子達に見つかると大変な事になるかも」
そう言われてオレは困惑し、明里達と顔を見合わせる。
オレ達は、恐る恐る教室に近づき中を覗くと、一部の男子達が阿鼻叫喚の体で騒ぎながら侃々諤々の言い合いをして居た。
「コンドーム!コンドーム!!間違い無くコンドームだったぞ!!!」「コンドームをあの娘が持って居るなんてぇ~っ」「う…嘘だぁーっ、あの清純な真琴さんが、もう処女じゃあ無い何て〜っ!」「いやぁ~女何て、裏で何してるか分かった物じゃあ無いぞ」「だよなぁ〜、コンドームを持って居るってこたぁ…当然男とヤルために持って居るんだよなぁ!」「男とヤルためにって、つまり小鳥遊さんは経験者と言うことか」「経験者どころか、あの美貌なら男なんてぇ選り取り見取りだろうなぁ」「かなり経験豊富何じゃ無いのか」「つまり見掛けによらずビッチだということかぁ!」「当然”ピーッ“はもちろん“ピーッ”も“ピーッ”さえも、何処かの男に開発済じゃあ無いのかぁ!」「それじゃ俺達も、頼べばヤらしてくれるんじゃあぁ〜」「ボクはDTは小鳥遊さんで卒業したい」「小鳥遊さんが帰って来たら、俺達皆んなで土下座してヤらしてくれと頼もうか!」「きっと床に頭を擦り付けて頼べば、イケるかもぉ!」
何だか変な方に、男子達の意見が纏まり出して居る様だ。
「あっ小鳥遊さんだ!」
教室入口に身を秘そめて見ていたオレ達を、目敏く見つけた男子が叫んだ。
その声に騒いで居た男子達が、一斉に教室入口を見る。
男子達の目は、欲望と怒りと何処か悲しみと失望に染まった目を、オレの方に向けて来る。
オレはその目の圧力に、思わず退避ろいだ。
そして男子達はスタンピードの如く、オレに向かって押し寄せて来る。
「小鳥遊真琴さあぁ~ん、オレ達のDTを卒業させてくれええぇ〜〜っ!」
オレは脱兎の如く逃げ出した。
教室から、溢れ出る様に男子達が出てきて、オレを追いかけて来る。
「真琴さぁ〜ん、ボクをオトコにしてくれ〜っ」「一発だけ、一発だけでいいから!」「挿れても腰を動かさ無い様にするから」「先っちょだけでも良いからぁ〜っ」「アソコがダメなら口でしてくれーっ」
手前勝手な事を言いながら、十数人に男子達がオレに追い縋って来る異様な光景が、昼休みの学校の廊下に繰り広げるられた。
そして…その事態の光景の話が、たちまち学校中に噂として広まった…かなり尾ヒレが付いて。
「三年で可愛いって評判の女子が、三年男子達の集団にに追われて居るってよ」「何でその女子が追われて居るんだ?」「それが、何でもその三年女子がDT男子達と鬼ごっこをして、捕まえたDT男子のDTを卒業させてくれるって言ったそうだ」「DTを卒業!?」「それってつまり、捕まえたらS“ピーッ”をさせてくれるって事か!!」「しかも鬼ごっこの鬼役は、あの小鳥遊真琴だと云うんだぜ」「た…小鳥遊真琴って言ったらこの学校一の美少女だって言われてる女子じゃあ無いかよ」「俺もその鬼ごっこに参加して来るぜ、あの美少女とヤレるならよ」
そんなこんなで、何時の間にかクラスの男子以外の男子達も加わり、百人近い男子達に追われる事になった、オレは兎に角逃げ回ったのだ。
新校舎から旧校舎、体育館に部室棟それから中庭に校庭まで…兎に角オレは学校中を逃げ捲くった。
途中で騒ぎを聞いて駆け付けて来た先生達も居たが、暴徒と化したDT男子達を止める事は出来ず、踏み潰されて行った。
やがてオレは、流石に体力も尽きて来て、このままではDT男子達の暴徒に捕まるのは時間の問題となった。
(ダメだこのままでは、あの性欲に駆られた暴徒達に捕まる…そんな事になったら、男性経験人数0人から一気に100人オーバーになってしまう)
そんな事を思ったら、オレは恐れ慄いて全身に戦慄が走ったが、如何せんもう足に力が入ら無かった。
ヨタヨタと廊下の角を曲がった途端、オレは横から腕を掴まれて部屋の中に連れ込まれた。
入った部屋は保健室で、オレを連れ込んだのは養護教諭の久遠寺芽衣子先生だった。
保健室の中には明里や千秋に美波も居て、力無くヘタリ込んだオレを抱え込む様に迎えてくれた。
芽衣子先生はオレを保健室に入れると直ぐにドアに鍵を掛け、廊下側の窓のカーテンを引き室内灯を消す、それから口に指を立てて言った。
「声を出さないでね」
廊下をドドドッと駆けて来る男子達の足音が響いて来た。
角を曲がるとオレの姿が無い事に気付き、ザワザワと騒ぎ出した。
「オイッ真琴さんが居なくなったぞ!」「バカなこの廊下は一本道だ、見失う理由が無い」「何処かの教室に隠れて居るんじゃあ無いかよ」「よし皆んなでこの辺の教室を探そう!」
そう言うなり、辺りの教室を開け放って探してる物音が聞こえて来る。
「ここは保健室だよな」
そう言う声がドアの向こうから聞こえて来て、ドアノブがガチャガチャと回される音がする。
「なんだぁ、鍵が掛かって居るぞ」「カーテンも閉まって居るし、電気の灯りも消えてるから留守何じゃ無いのか?」「イヤイヤこう言う所が返って怪しいだろう」「それじゃドアを蹴破るか?」
そんな会話がドアの向こうから聞こえて来た時。
「おおーい、西側の廊下に小鳥遊さんが居たぞーっ」
まるで俊の声音の様な、そんな声が何処からか聞こえて来た。
「西側だってぇ!」「ここからどうやって西側の廊下に行ったんだぁ?」「そんな事はどうでも良い、西側の廊下に行くぞーっ!」
それからドヤドヤと大勢の足音が、西側に向かって去って行った。
「はあぁ~っ、た…助かったぁ〜」
オレは息を吐きながら、前のめりに崩れ落ちた。
「中々に面白そうな事になって居るわね、小鳥遊真琴さん」
そんなオレに、相変わらずドコのキャバクラのホステスかと云う格好に白衣を羽織った、久遠寺芽衣子先生が言った。
「面白そうどころじゃあ無いですよ!」
オレは些か憮然として言う。
「それで、何故こんな騒ぎになって居るのか、話を聞かせてくれるかしら?」
前のめりにヘタリ込んで居るオレを見下ろす様に、久遠寺芽衣子先生は聞いて来た。
明里達に助け起こされて、保健室のベッドに座り直してから、オレは小物入れからコンドームがこぼれ落ちたところから説明すると。
「本…当に、面白い事に、なって居るわねぇ〜」
芽衣子先生はクスクスと笑いながら言って、オレは更に憮然とした表情になる。
「それで先生、こんな騒ぎになってどうすれば良いのですか」
明里もやや渋い顔をしながら芽衣子先生に言うと。
「なぁ〜に、放っといてもその内静まるでしょが…でも当分は、小鳥遊さんに筆下ろしを頼み込む様な男子達が、後が絶えないでしょうねえ」
芽衣子先生は事も無げに言う。
「そっそんなぁ〜、オレはそんな鬱っとおしい事なんかになりたく無いですよ、大体に何故オレがたまたまコンドームを持って居たからって、こんな騒ぎになったりするんだぁ」
オレがさも困惑してる様に言うと。
明里がヤレヤレと言った風に肩を竦ませ、千秋が溜息を吐き、美波が困った様に微笑み、芽衣子先生は呆れた様にオレを見た。
「マコちゃんは、自分の立ち位置を分かって無い見たいねぇ」
明里が頭を横に振りつつ言うと。
「お…オレの立ち位置?」
オレは聞き返した。
「マコちゃんは自分が結構可愛いって、分かって居るわよねえ」
明里がオレを見ながらそんな事を聞いて来た。
「あ〜うん、まぁ一応はソコソコは良い感じなのかな…くらいには思って居るけど…」
オレがそう言うと。
「あのねえ…マコちゃん、この学校の女子で一番の美少女は誰かと生徒達に聞いたら、八〜九割の生徒が小鳥遊真琴って答えるわよ」
明里が真剣な顔でそう言った。
「はぁ、オレがかぁ~?」
オレはちょっと訝る様な顔で言うと。
「マコちゃんは自分が元男の子だと云う事で、ちょっと自分の容姿の自己評価を低く思って居るのかも知れないけど…マコちゃんってこの学校の男子達の憧れのアイドルなのよ!」
オレは文字通りハトが豆鉄砲を食らった見たいな顔になった。
「ははっ、ひと昔前のアイドルに彼氏だの男の影が知れると、スキャンダルになったりしたアレかぁ…つまりは落ちた偶像と云う訳なのね」
芽衣子先生は笑いを堪える様に言う。
「何だよそれは、大体落ちた偶像ってどう言う意味だよ」
オレは困惑でちょっと言葉を荒く言うと。
「小鳥遊は男のペニスの亀頭にあるカリって、何故有るのか知っているかしら?」
芽衣子先生の突飛押しも無い質問に、オレは目を白黒させる。
「アレはねぇ…生物学的に説明されてるのが、膣の中に出された他のオスの精子を搔き出すために付いてると言われて居るのよね…つまりペニスがそんな形状になるくらいに、オスはメスに自分の精子だけを受精させたいと思って居るのよ」
「あ…はぁ、そうなんですかぁ」
オレが今ひとつ分かって無い様に言うと。
「つまりそれ位にオス…男は自分の気に入ったメス…女に自分だけの精子を受け入れて、自分の精子で受精させたいと思う様に作られてるのよね」
芽衣子先生がオレに聞かせる様に説明する。
「それは何と無く分かります、何と言うかオレが女の子になってから、男子がオレに向ける目と云うか態度と云うか、何かを女の子としてのオレに求めているのは感じてましたけど…でも今迄はこんなに明ら様に男子達が欲望に囚われて、暴走するのを見た事が無いですよ」
オレがそう言うと、明里や千秋に美波までもが微妙な表情になって、フルフルと頭を振った。
芽衣子先生もちょっと困った顔になる。
「真琴さんが性転換したのは中学一年生の秋だったわよね、それなら男子の思春期の初め頃は分かるんじゃないの…女の子に変な事を言ったりやったりして嫌われたくは無かったでしょう」
芽衣子先生の指摘で、小学校でのオレのやらかしで、明里に嫌われた黒歴史の思い出が蘇って来た。
「ましてや貴女は、全校男子の九割近くが認めて憧れられてる美少女なのよ、男子達の殆どが嫌われ無い様に、出来るだけ良い印象を持たれたいと思ってたでしょね…そんな憧憬の対象…つまりアイドルだった貴女が、男とSEXをする時に必要な避妊具を持って居た、男子達のあこがれと云う妄想の中の聖処女たる貴女が、見知らぬ誰か他の男の性器を受け入れて淫蕩な女と成り果てた事に、絶望と消沈に見舞われてそして自分達の憧れと望みを裏切った怒りが湧いて来て、最早処女では無いのなら自分達の欲望で汚し思いを吐き出しても良い筈だと暴走仕出したのでしょね」
芽衣子先生が一気に捲し立てる様に言うと。
「えっ、あっ、そんな、でもそんな…事言われて…も」
オレは些か混乱して、言葉が続か無かった。
「まぁね、真琴さんからしたら、そんな理不尽極まり無い理由で追いかけ回されたら、堪らないわよね」
芽衣子先生がちょっと慰める様な表情で言う。
「しかし先生、このままじゃあマコちゃんがコレから学校に来るのにも支障が出ませんか?」
明里が芽衣子先生に相談する様に言うと。
「そうですねぇ…もう一度小鳥遊さんが憧れるアイドルに返り咲いたら、あるいは暴走は収まるかも知れませんね」
芽衣子先生がちょっと考えて言った答えるは、中々実現するのは難しくそうに思えたのだが。
「それって………すれば、良くないですかぁ」
千秋が思い掛けない提案をした。
「確かにそれなら、今の騒ぎをかなり収める事が出来るかも知れませんね」
芽衣子先生が頷き。
「確かにやる価値はあるかも」
明里も同意した。
「俊さんと遊馬さんが偽の掛け声で、暴走男子達を他に誘導してる今なら出来るですよね!」
美波がオレを真っすぐに見て言って来る。
「幸い目的の部屋は、この校舎の二階に在りますから、今がチャンスですよねぇ〜」
千秋は、自分の提案に皆んなが乗ってくれたのが嬉しいのか、ニコニコしながらオレを見る。
オレはと云うと…ちょっと…イヤかなり恥ずかしくて嫌な感じなのだけど、他に良い案が思い付か無いので、不承不承に同意した。
保健室のドアを少し開けて、廊下に男子が居無い事を見極め、それからオレと芽衣子先生と明里達とで廊下に出た。
辺りを警戒しつつ廊下を進み、二階に上がる階段の所まで来た時。
「あっ小鳥遊さんだ、お~い小鳥遊さんを見つけたぞーっ」
廊下の反対側の奥から来た男子に見つかった。
オレ達は慌てて階段を上がり二階に上がる。
階段を上がって廊下の突き当たりの部屋が目的地で、オレ達はそこに向けて猛然とダッシュした。
暴走の男子達がワラワラと、階段を上がって二階にやって来る。
オレは先程逃げ回ったせいで、まだ足元が心もと無い。
五十メートルも無い廊下を、明里と美波に支えられて走る。
ズンズンと男子達が迫って来るが、間一髪で目的の部屋に飛び込んだ。
直ぐドアを千秋が施錠して、部屋の中の機材の電源を芽衣子先生と明里が入れて行く。
ドアの外からは男子達がドアを叩く音がする。
「小鳥遊真琴さーん、オレ達をオトコにしてくれよう」「もう処女じゃあ無いのだろう、だったら俺達ともSEXしょうぜ〜っ」「ぼくの筆下ろしをお願いしますよ、真琴さぁ〜ん」
DT男子達の身勝手な声が、ドアの外から聞こえて来る。
機材が立ち上がり、オレにマイクが渡された。
ここは放送室で、コレからオレは全校に放送をする事になって居るのだ。
オレは唾を飲み込み、一息吐いてからマイクに向かって言った。
『私は、小鳥遊真琴は、未だ処女です!』
オレの放送が全校内に流された。
放送室のドアを叩いていた音が静まる。
『私が持って居た避妊具は、女の子同士の間で流行ってるおまじないで、本来の用途で使うつもりはありません』
ドアの外の男子達は、何やらザワザワと話し合ってる様だ。
オレは更に放送を続けた。
『もう一度言います、私は未だ処女です、男の人とSEX何てした事は有りませーーん!』
オレは放送機材の出力いっぱいで全校内に言い放った。
オレは恥ずかしさで、今にもぶっ倒れそうだった。
ドアの外のざわめきが少しずつ収まり、やがて男子達は一人また一人と解散していき…最後に数人が残った。
残った数人の男子達が、放送室のドア越しに声を揃えて言った。
「小鳥遊真琴さん!貴女を不当に辱め追いかけ回して、すみませんでしたぁ!!」
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次の日…。
昨日の騒ぎは何だったのかと云う位に、平穏だった。
もっとも昨日の騒ぎの中心に居た男子の幾人かは、生活指導の先生にコッテリと絞られて、自宅謹慎を言い渡されたそうな。
オレはと云うと…何時もと変わら無い様に登校して来たが、何だか周りの男子達のオレを見る目が変わった様に思えた…イヤ、変わったのはオレが周りの男子達を見る目が変わったんだろう。
だってオレが、周りの男子達の憧れの女の子だった何て…そしてオス達が求める受精させたいメスだった何て…オレは、何と無くは気付いて居たのだろうけど、無意識に避けて気付か無い振りをして居たんだだなぁと思ったからなぁ。
オレは俊や遊馬と、そして他の男子達と、コレからどう接して行けば良いのか、ちょっと困惑中なのだ。




