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35 小鳥遊真琴さん…私と…結婚しないか

正月二日にオレは、初売りの福袋が目当てで県庁所在地の街まで、出て来ていた。

この日のためにオレは、動き易い格好をして居る。

黒い丸首セーターに灰色のジャンパーを羽織り、赤いチェック柄の巻スカートでニーハイにバッシュ靴を履いてる。

昨日の振り袖に比べれば、遥かに動き易い格好だ。

それと言うのも明里と恵美姉ぇに、福袋売り場は女の欲望渦巻く戦場だと、脅されて来たからだ。

大型店舗が朝十時に開くと、シャッター前で陣取って居た老若男女が一斉に店内に雪崩込んで行く。

オレもその流れの中に居て、福袋売り場へと足早に進む。

そして福袋売り場に着いた時…そこは、明里や恵美姉ぇの言う通り戦場だった。

若い女の人達が福袋を取り合ってクロスカウンターで殴り合って居た、中年位のおばちゃんが同年代位のおばちゃんを、ウォール、オブ、ジェリコを決めて攻めて居る。

方や黒い鍔広帽に黒いコートを着た、地獄(アンダー)墓堀人(テイカー)の様な大柄なおばちゃんが別のおばちゃんをパイルドライバーで葬って居た。

そうかと思えばコチラでは、七十代位のおばあちゃんが、次々と襲い来るヒャハッーなおばちゃん達を、軽く触れただけで次々と投げ飛ばして居た…きっと合気の達人なのだろう。

オレも初売り福袋を求めて、WWEのレッスルマニアをも凌ぐ、この熱い戦場に飛び込む事決意を固める…五体満足で帰還出来るか、或いは今生の別れとなるか、神のみぞ知るだろう……。

何て事は無く…皆さん普通に列に並んで平穏に福袋を買って行って居た。

どうやら明里と恵美姉ぇに(からか)われた様だ。

オレも福袋を手に入れると、直ぐ次の店の福袋売り場に向う。

そうやって目当ての福袋売り場を三〜四件周って、一応目当ての福袋をゲットした。

ソレからオレは、さすがにちょっと疲れたので、近くの公園のベンチで一休みをする事にした。

(我ながら正月二日に、初売り福袋を求めて走り周るとは…)

オレはやや自嘲気味に笑う。

昔の男の子だった頃のオレだったら、今頃は俊と遊馬とで遊びに出掛けて、こんな風に買った物の袋を両手に持って走り周ったりはして無いだろうな。

そんな事を考えつつ一休みして居ると。

「か〜の女ぉ、一人ぃ〜?」

「何かいっぱい買い込ん出るねえ、俺達が持ってやろうか?」

「俺達とカラオケ行こうぜカラオケ」

如何にもチャラい風の男三人が、オレに声を掛けて来た。

(ああ~、ウザイ奴らが来やがった)

オレは内心ウンザリしなが、ら無視を決め込む事にした。

そうすると、奴らはオレが無視して居る事を、言い返せないで居る気弱な女の子とでも誤解したらしく、ベンチに座るオレを囲む様にして来た。

「へぇ~美人だねえ彼女、何歳かなぁ大学生?イヤ高校生かなぁ?」

「なにィ…ひょっとして芸能人とか、こんな綺麗な娘この辺じゃあ見かけないもんなあ」

「おごるからさあ、俺等と遊びに行こうぜ」

オレの周りでゴチャゴチャと、チャラい男達を何か五月蝿く言いかけて来る。

我慢出来無くなったオレは、福袋を持ってベンチから立ち去ろうとしたら。

「荷物、俺等が持って行ってやるぜ」

そう言って福袋の幾つかを、男達が奪って行った。

「私はもう帰りますから、荷物をお返し下さい」

オレは出来るだけ穏便に、下手に出て言うと。

「まあまあそう言わずにさあ、ちょっと俺等と遊んでから帰っても良いだろう」

そう言って男達は、福袋を返してくれない。

(こんな正月二日に暇を持て余して居る様なチャラい男に、女の子がホイホイ付いて行く訳きゃあ無いだろうが)

オレはそう思って、内心ブチギレ掛けて居たので、こいつ等全員ブチのめしてやろうかと思った時。

「やあ、真琴ちゃん待たせたね」

そう言って背後から声が掛かり、振り返るとそこには…梅木響也が居た。

突然現れた、スーツ姿の一見好青年に見える男に、チャラい男達は威嚇する様に言う。

「何だぁお前は、関係無い奴は引っ込んでろ!」

「そうは行かないね、彼女…真琴ちゃんは私の知り合いでね、今日はここで待ち合わせをしてたのだよ」

チャラい男の一人の威嚇に、まるで動じる事も無く梅木響也は言った。

「ああん、それがどうした、この女は俺が…」

「あっ…よ、よせ…相手が悪い」

別の一人が響也を知って居たらしく、慌てて凄んで居る男を止めに入る。

「コイツ、梅木家の跡取り息子だよ」

「う…梅木家⁉」

凄んで居る相手が梅木響也だと分かった瞬間、男達の態度が豹変する。

身体を小さくして、頭をペコペコと下げ始めた。

オレの福袋を敬々(うやうや)しく響也に渡すと、オリンピック短距離選手並みのスピードでチャラい男達は消えて行った。

響也は、渡されたオレの福袋を差し出しながら、ややバツが悪そうに言う。

「久しぶり…小鳥遊真琴…ちゃん」

「一応、礼は言うよ、ありがとう…強姦魔」

オレが睨みつける様にして言う。

「辛辣だなぁ…まあ仕方無いか、あの時は私も些か頭に血が上って居たからなぁ」

響也はますますバツが悪そうにして言った。

「頭に血が上ったって、それで女の子をレイプしょうとした言い訳になるか!」

オレが食って掛かる様に言うと。

「ふぅ…君の言う通りだ、何なら今から警察に訴えるかい、そうするのなら私は大人しく罪を認めて刑に服するよ」

響也が一息溜息を吐くと、諦めた様に肩を落として言うので、オレは少し困惑する。

「な…何を企んで居るんだ!」

オレが(いぶか)る様に言うと。

「何も企む何て…イヤ、君に頼みたい事は有るけどね」

「この後に及んで、オレに頼みたい事ぉ〜?」

オレは更に胡散臭気にして言うと。

「こんな所で立ち話しも何だから、何処かに一緒に行かないかなぁ」

響也がさも困った様に言うが。

「また何処ぞに連れ込まれて、一服盛られるのはゴメンだぜ」

「イヤイヤ、もうそんな事はしないよ、不安だったら安達原の店でも良いよ」

響也は困って懇願するかの様に、オレにむかって言う。

「『Pメイド』の店は七日までお休みだよ…分かった、その辺のカフェで良いよ」

オレはしぶしぶ妥協した。

オレと響也は、珍しく正月二日に開いてるコーヒー店を見つけて入った。

店内は上品で落ち着いたインテリアの店で、客はそこそこ入って居たが、BGMとして流されて居たジャズに聴き入って居る様だった。

オレと響也は、近くに人の居ないボックス席に座る。

響也は、何かを言い難そうにして、オレを見て居るが…。

オレは自分から響也に言葉を掛けて、水を向ける気が無いので、無言で向かい合って居た。

運ばれて来たコーヒーは、中々に美味かったので、オレは少しホッコリとして居ると。

「小鳥遊真琴さん…私と、結婚しないか」

響也のその言葉に、オレは盛大にコーヒーを吹き出して(むせ)た。

響也はちゃっかりと、メニューで吹き出したコーヒーを防いで居た。

「ななな、なにを言ってるんだぁ⁉」

オレは慌てふためき、辛うじてそう答えた。

「私と結婚してくれないか、と言って居るのだが」

響也は少し苦笑気味に言う。

「イヤだから何故そうなる、オレと結婚したいって…オレの事は調べて知ってるんだろ」

オレは響也に詰め寄る様に言うと。

「ああ、もちろん…君の特殊な経歴を知った上で、言って居るのだが…(まさ)しく欠点は誰にでもある…てね、もっとも私は欠点とは思って無いけどね」

何時ぞやの、オレの突っ込みを持ち出して、少し(からか)う様に言う。

「最初はレイプ未遂で今度は求婚って、なに考えてんだよ、あんたは」

怒りや呆れを通り越して、オレは半分諦めた様に言うと。

「最初は弟が君の事を訴えて来てね…まあどうせ原因は弟の方に有るんだろうとは思って居たのだけれど、一応ここら辺の土地では有力な家と知られた我が家に、対立する事を厭わ無いって、どう言う事だと思って調べ始めたんだ」

響也が経緯を話し始めて。

「そして真琴さんの特異な事情を知った時、私は天啓を受けた様な衝撃を感じたんだ」

「て…天啓?」

オレが訝る様に言い返すと、響也は笑って頷いた。

「そのため(いささ)か事を焦って、あんな暴挙をしてしまったんだよ私は」

「焦ってか何かは知らないが、そのためレイプされかけた何んて、はた迷惑もいいところだ!」

オレは憤慨して言うと。

「まったくその通りで、一言も無い」

響也は意気消沈した様に頷垂(うなだ)れた。

「何でそんなに焦らなきゃいけなかったんだ」

響也の頷垂れた姿に、ちょっと心を動かされたオレは、響也に聞いた。

「貴女は知らないだろうけど、私は後三年ほどで梅木家の総領に就任する事になる」

響也はやや重々し気に言うが。

「はぁ…?」

オレには、梅木家の事情等には興味が無いので、曖昧に相槌を打つ。

「私が梅木家総領になると、次に求められるのが…早期に結婚して梅木家を継ぐ後継者を作る事だ」

「はあ〜?つまりその後継者とやらをオレに生まそうと言う事かぁ」

オレは呆れる事さえバカらしく思えて来た。

「そう私は…貴女との間に子供を作るべきだと天啓を受けたかの様に思ったんだ…」

響也は熱い情熱を瞳に宿らせて、オレを見つめながら言って来る。

オレは正直ドン引きした。

「小鳥遊真琴さん、私と結婚してくれ…そうすれば私はきっと君を大事にするよ、そして梅木家は一応かなりの資産家なので、贅沢も出来るし、名家の嫁と言う箔も付くよ」

「し…資産家だとか、名家の嫁だとかと言われても、それで幸福になれる物でも無いだろうが…富と名声が有っても、年老いて子供の頃に遊んだソリの絵柄を今際の際に言い残して死ぬ事も有るかも知れないし」

オレはまた突っ込みを入れる。

「ローズバット…市民ケーンだね、そのオールド映画に含蓄がある所も私が貴女を気に入った所なんだよ」

響也はテーブルを飛び越して、オレに迫る勢いで言って来る。

「とっ、兎に角!オレは未だ十六歳で法的にも結婚何て出来無いので、そんな話しは無しで‼」

オレはそう言い放って、荷物を持ちそそくさとコーヒー店を飛び出した。

店内に残った響也は、オレの後姿を見送りながら…一人語ちた。

「小鳥遊真琴…私は諦め無いからな」

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