29 遊馬にもチャンスをやらないと、不公平だろ
「ま…真琴!今度の日曜日に映画を見に行かないか」
授業が終わり帰り支度をして居る時に、俊がオレにそう言って、映画のチケットを二枚差し出して来た。
「今度の日曜、良いよ特に予定は無いから、遊馬にも声をかけようか」
オレがそう言って、隣のクラスに居る遊馬のところに行こうとしたら、手を掴まれて俊に止められた。
「ゆ…遊馬は呼ばない、ぼ…ボクと真琴の二人で…行きたいんだ」
俊が耳まで真っ赤になりながら、俯き加減に俊がそう言う。
オレは俊のその様子にちょっと驚き、それから少し微笑んで言った。
「わかった…二人だけのデートだね…」
オレのその言葉を聞き、俊は更に顔を真っ赤にして口をパクパクさせながら、何か言おうとするが…声を発する事が出来ず逃げる様に教室を走って出て行った。
走り去る俊を見ながらオレはヤレヤレと言った感じで肩を竦めた。
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ボクはこの日のために、アニメ映画では無くて普段見ない様な、恋愛要素の多い実写映画のチケットを二枚買ったんだ。
真琴は…いや真は、ボクが小学一年の頃、人見知りが強くてクラスで一人ぼっちだったボクを、半ば強引に連れ回して皆んなの中に入れる様にしてくれた、恩人で大の親友だった。
その親友との暫しの別れの後、まさかあんな綺麗な女の子になって、再びボクの前に現れる何て…。
ボクは、恩人で親友の男の子に、今では違う感情を持って居る。
それは親愛なのか憧憬なのか、或いは…まだボクにも良く分からないが、ただ女の子になった真琴は、ボクに取って特別なのだ。
ボクと真琴との待ち合わせ場所は、何時も行く近くの町では無く、電車で少し離れた県庁所在地の町にした。
そこなら知り合いと会う事が少ないと思ったからだ。
その町にちょっと大きな公園があり、ソコの大きな銀杏の木の下を、待ち合わせ場所にして、落ち合う事にしたんだ。
ボクに取って特別な女の子とのデートは、特別にしたかったんだ。
その特別な女の子が、待ち合わせ場所の銀杏の木の下で、待ってくれて居た。
彼女は何時もハーフアップにして居る髪を一部三つ編みにして、それを後に回して大きなリボンで止めて居る、何時もよりちょっとおしゃれな髪型にしてる。
赤茶色のシックなワンピースに白く丸い襟が付い居るのを着て、袖口がファーになった上着を羽織って居た。
手にはワンピースと同じ色の手袋をして小ぶりなバッグを持って居て、足は黒のストッキングでローファーのストラップシューズを履いて居る。
銀杏の葉が舞い散る中に立つ彼女を見つけた時、ボクはその幻想的な風景にただ言葉を失った。
彼女がボクを見つけ、微笑みながら小走りにボクに向かって走って来る。
その時ボクの中の、未だ名状し難い感情の輪郭が、ハッキリした気がした。
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オレは待ち合わせ場所にやって来た、普段ボサボサ頭なのを撫で付けて、臙脂色の厚手のフード付きコートを着た、オタクにしては頑張った格好をしてる俊を見つけ、駆け寄って行った。
「来たね、俊」
「ゴメン、待たせた?」
「いや、時間通りだよ」
そしてオレと俊とで顔を見合わせて、何だか擽ったい様な恥ずかしい様な、変な感じがしてお互いクスクスと笑い出した。
映画の時間まで、未だちょっと間があるので、オレと俊とで公園を散策する事になった。
公園の木々はすっかり色づき、足元の石畳の上は落ち葉でいっぱいだった。
サクサクとオレが落ち葉を踏む音がする。
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サクサクと真琴が落ち葉を踏む音がする。
秋もかなり深まった公園はちょっと肌寒く、人っ子一人居ない、後幾日もしない内に初雪が落ちて来るだろう。
ここの土地はソコソコ雪が積もる土地なので、冬になると一面の銀世界になる。
そうなったら新雪を、真琴と一緒に踏むのも良いかも知れないと、ボクは思った。
ボクが真琴を見ると、真琴もボクを見てニコッと笑ってくれる。
ボクは勇気の有りっ丈を振り絞って、真琴の手を握った。
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俊の奴がオレの手を握って来た。
オレは最初は少し驚いたがまあコレくらい、いいかと思い握り返して俊を見て、微笑んだ。
俊は何とも照れくさそうにして居たが、手は離そうとはしなかった。
俊と握った手は、手袋を通して暖かさが伝わって来て、何だかオレをホッコリとさせた。
公園を出てしばらく歩くと、何処からとも無くクリスマスソングが流れて来た。
(まだ一月近く間があると言うのに、気が早い事だ…)
等とオレは思い、それからクリスマスソングに誘われる様にオレと俊は商店街に入って行った。
オレと俊は本屋で新刊のマンガやラノベが出てないかチェックして、玩具店でガンプラやフイギュアを見て周った。
普通のデートコースとはちょっと違うが、オレと俊にとってはコレが最適なコースなのだ。
映画の前にお昼を過ぎたので、お腹を満たそうとファーストフード店に入る
御当地ハンバーガーとポテトにナゲット、コーラを頼み、席に付いて食べた。
ナゲットは、お互い違うのを頼んだので、二人でシェアしながら食べる。
コーラをを飲んで一息付き、マッタリしてると、何だか本当にデートしてるみたいだ…イヤみたいだじゃ無くてデート何だけど、まあオレと俊とはちょっと特殊な間柄だからなぁ…。
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時間になったので、ボクと真琴で映画館に入った。
映画は、新進の脚本家が、フト立寄ったホテルに飾られて居た昔の女優の写真に興味を持ち。
調べて行く内に、自分と接点がある事を知り、ある方法で時間を越えて過去に跳んで会いに行き。
その女優と愛し合う様になるが、些細なミスから現代に引き戻されると言うストーリーだった。
ジョン·バリーのロマンチックな曲と相まって、ボクはラストではボロボロと泣いてしまったのだ。
上映場を出ても涙が止まらないので、ロビーのベンチに座って落ち着くのを待つ事になった。
「俊が映画で、こんなに泣く何て意外だね」
そう言う真琴も、目頭が赤くなって居たが、涙迄は流して居なかった。
「いやこの映画のラストは反則だよ、あれで泣かない何て出来ないよ…」
ボクがグスグスと鼻を啜りながら、手で涙を拭いていると。
真琴はハンカチを出して、ボクの涙を拭いてくれた。
その時ハンカチから、得も言われない香りがするのをボクは感じた。
それは石鹸や香料の匂いだけで無く、何だかムズムズする様なそれでいてホッとする様な…そうそれは女の子の匂いだった。
その匂いを嗅ぎボクは今更ながらに真琴は女の子何だと思った。
ボクは改めて真琴の顔を見ると、ソコにはかつて一緒に遊び転げ回りイロイロバカもやったヤンチャ坊主の男の子の面影が、有るにはあるが…でも良く見るとそれは紛れも無く綺麗で優しげな女の子の顔だった。
「な…何かな…オレ…私の顔に何か付いてる?」
ボクが真琴の顔を凝視したため、真琴はちょっと居た堪れない風に目を泳がせて聞いて来た。
「あっ…いや…な…何でも無い…よ」
ボクも思わずドギマギして答える。
ボクと真琴との間に、ちょっと変な雰囲気が漂ったので、互いに外方を向いて呼吸を整えようとした…その時。
「おやっ、小鳥遊真琴ちゃん、じゃないか」
突然、真琴を呼ぶ声がしたので振り返ると、梅木響也が立って居た。
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「君もこの映画のリバイバル上映を見に来たのかい、やはり良い趣味をしてるね」
そう言って響也は近寄って来る。
オレは一瞬身を硬くして、少し震えが来た。
するとスッとオレの前に俊が立ち、響也を遮ってくれた。
「そ…それ以上真琴に…近付か無いでもらえますか」
俊は精一杯の虚勢を張って響也に言う。
「おっと、失礼…デート中だったんだね、大丈夫何もしないよ」
響也は少しバツが悪そうにして言った。
「この映画を選んだのはボクだよ、それよりあんたは何故ここに居るんだ、不同意性交未遂で警察に捕まってもいい筈なのに」
俊が顔を顰めて言い。
「ソコは安達原家のおかげさ、警察沙汰になると梅木家として黙ってられ無くなるから、穏便に済ましてくれたんだ」
響也は肩を竦めて言う。
「安達原オーナーがそんな事、随分とあんたの家と関わりが有るのかな?」
オレが響也を睨みながら言うと。
「私の家がかつて六角家に仕えて居た頃の同輩だったそうで、今でも色々関係や因縁が有ってね、梅木家として疎略には出来ない一族何だよなぁ…現に私もコレで安達原の婆さまには頭が上がらなくなったし」
響也はさも嫌そうに言う。
「兎に角梅木家としてはもう君達に何もしないよ…弟にもさせ無い様にする、安心して良いよ…まぁ私個人としては小鳥遊真琴ちゃんには興味は尽きないけどね」
そう言って、含み笑いをしながら響也は去って行った。
オレはホッと一息吐いて緊張を解き、俊がオレを労る様に肩を抱いてくれる。
映画館を出ると、空は茜色に染まって居た。
そろそろ帰る頃合いかと思って居たら、俊がオレの手を引いて、待ち合わせをした公園に戻って行く。
待ち合わせにした銀杏の木下まで来ると、俊はオレに向き合い何か言おうとして居る。
オレはやや怪訝な顔をして、俊が話し出すのを待った。
ヒラヒラと間断無く銀杏の葉が舞い落ちて来る中、如何ばかりかの時が過ぎた時。
「ボクは…真琴…さん、に言いたい事が有るんだ」
俊は散々躊躇した後、意を決した様に口を開いた。
「実は今日までボク自身、自分の気持ちに確信が持て無くて…でもこの銀杏の木下に居る真琴さんを見た時、ようやくわかったんだ!」
何時に無く真剣な面持ちで俊は言う。
「真琴さん、ボクは君が女の子として好き何だと」
一瞬突風が吹いて銀杏の落ち葉が舞い上がる。
乱れ舞う銀杏の葉はオレの心中を表す様だった。
俊の告白を聞いて、オレの中では色んな感情が渦巻いたのだ。
嬉しい…もちろん、でもそれは女の子として男の子に好かれたと言う喜びなのか…当初の思惑通りの、自分を異性として意識させて、何時か子供を持つための相手としてなのか…そもそもオレは俊に異性として好意を持って居るのか。
事ここに至ってオレは、俊の告白に答える事に躊躇した。
「あ…ありがと…俊、でも…」
オレが答えを逡巡して居るのを見た俊は、酷く落胆した様な顔をする。
「でも…遊馬にもチャンスをやらないと、不公平だろ…」
「えっ」
「遊馬も友達何だから、俊もそう思うだろ」
オレの、苦し紛れの言い訳とも取れる言い分に、俊は困惑した顔で頷いた。
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オレはマンションに酷く疲れた様な顔をして帰って来た。
出迎えてくれて恵美姉ぇが怪訝な顔をする。
「なぁに、出掛ける前はあんなに喜々としてたのに、私に髪の毛を三つ編みにしてくれと言ったり、普段あまりしないメイクをしたり、下ろしたてのワンピースを着たりと燥いで居たのに?」
「あ…うん、イロイロ有ってね」
オレは言葉を濁して、自分の部屋に引いた。
オレは自分のベッドに倒れ込もうとしたが…下ろしたてのワンピースがシワになる事が嫌なので脱ぐ事にした。
ワンピースを脱ぐと、今日のために気合いを入れた下着姿になる。
それはシュミーズ、ブラジャー、ショーツ、三点揃いの下着で、最近はバイト代のおかげで中々の高級品なのだ。
絹とサテンと豪華なレース刺繍に彩られた下着で、いわゆる勝負下着なのだが…。
それらも脱いで真っ裸になり、それからようやくベッドに倒れ込んだ。
「はあぁあぁあ〜〜〜っ」
オレは長いながぁ〜い溜息を吐いた。
真摯にオレを見て、好きだと言ってくれた俊を思い出す。
たちまち頭に血が登り、身体が火照ってドキドキと胸が早鐘を打つ。
(嬉しいか…嬉しいな…男に好きだと言われて嬉しがる何て…オレの心は完全に女になったのだろうか?)
オレは自分の股間に手を延ばした、すると指先が濡れるのを感じる。
(ハハッ、身体の方は男を受け入れる準備がもう出来てる様だな)
オレは苦笑しながら濡れた指先を見る。
(しかし…オレの幼なじみの親友は俊だけじゃあ無いんだよな…遊馬にもチャンスをと言うのはウソじゃ無いんだが…)
オレは遊馬にどうチャンスを与えるべきか、思い巡らすが…。




