20 男って滑稽で哀しい生き物だよな
鏡面の如く磨き上げられた床の上を、オレはコツコツと足音を立てて歩いて居る。
頭にメイドキャップを着け、エプロンドレス風のメイド服を着て、バタフライペルソナで顔を隠しつつややツンと顎を上げて、お客様の元に向かう。
「お帰りなさいませご主人様、どの様なご注文でしょうか」
オレが、四人のサラリーマン風の若い男性が座るボックス席に立って、注文を聞こうとすると、四人の男達は一斉にオレの足元の床を注視し出す。
鏡の様に磨かれた床には、オレのパニエに依ってフワリと広がって居るスカートの中が、映っていた。
オレはキッチリと足を閉じて立って居るため、穿いている白いニーソと太腿の上、幾重にも重なったパニエのフリルの奥に、ピンク色のレースで飾られた布地がチラリと覗いているのが見える。
「ご主人様、ご注文は?」
オレが再度聞くと、全員が一杯千五百円もするコーヒーを頼んだ。
しかも男達は、その間にも片時も床に映るオレのスカートの中から目を離さないで居た。
(はぁ…男って、滑稽で哀しい生き物何だなあ…)
オレはそう思わずにはいられなかった。
店の中には、オレ以外のメイドの格好をしたウエイトレスが、他に四人居る。
そしてお客は一応満杯で、大学生位から六十手前位の人までが、暴利なコーヒーや法外な軽食それに時間制限までも有るにも関わらず、それらを頼んでココに来てる。
しかも客は皆んな男ばっかりだ。
本当に…男って滑稽で哀しい生き物だ…と思う。
この店『Pメイド純喫茶』は一部好事家には有名らしく、客足が滞る事は無い。
何せ店名の…『Pメイド』のPはパンチラのP…なのだから男共が惹きも切らない訳だ。
オレがこの『Pメイド純喫茶』でアルバイトを始めて、今日のシフトで六回目だ。
学校の放課後、週三日四時から七時までの三時間と言う超時短な仕事だ。
時給千五百円と云う地方都市のウエイトレス業としては破格な給料に目が眩んでしまったのだ。
そのために…この通り客の男達に、スカートの中を覗かれると云う事になって居る。
(オレも滑稽で哀しい生き物だよな)と自嘲する。
********************
オレはこのところ月水金とバイトを入れ、火木土と千葉美波の護身術の練習を指導して居る。
そのため俊と遊馬とに禄に絡む事が出来ずに居る。
(う~む、オレは幼なじみの俊と遊馬とに昔の友情を温め直し、ひいてはそれ以上の感情を持ってもらおうと、ココの高校に転校したのに、これじゃ本末転倒になっているなぁ…)
そんな事を考え少し黄昏て居ると、新しいお客がドアを開けて入って来た。
オレは接客するためドアに向かうと…。
「やっぱりマコちゃんだ!」
「あっ…明…お、お嬢様、何方様かとお間違えではありませんか?」
オレは客が明里だと分かると、しどろもどろに成りながらもと呆ける。
「なぁに、そんな仮面一つで私を誤魔化せると思ってるの…それに放課後マコちゃんがこのビルに入るのを目撃されて居るのよ」
明里がそう言ってオレに詰め寄って来る。
「オレがこのビルに入るのを、目撃されて居たって」
オレが些か狼狽えてそう言うと。
「はい、わたいが小鳥遊さんの後を付けてこの目で、ココに入るのを見ました」
そう言って、明里の後から森谷千秋が出て来て言う。
「だって小鳥遊さんが悪いのです、最近ちっともわたい達をかまってくれなくて、すぐ帰るんですモノ」
森谷千秋がちょっと膨れっ面で言うと。
「まあまあ、コレでマコちゃんのバイト先も分かったんだから、私達がココに来れば良いのよ」
明里が森谷千秋を宥める様に言う。
「ダメだよ、ココは女子高生が来る様な店じゃあ無いんだから」
「え~っ、女子高生のマコちゃんがバイトしてるのに?」
明里にそう言われてオレは口籠る。
「あら、ココは純喫茶なんだから、女子高生だろうとお客様よ」
キャッシャー横の事務室のドアを開け、この店のオーナーである…三途の河原の奪衣婆…見たいな安達原清さんが出て来てそう言う。
安達原清さんはビクトリア朝パーラーメイドの服装を着て居るので…違和感が半端無い。
「小鳥遊さん、ちょっと休憩時間を上げるから、空いてる席にその娘達を案内して話して来な」
オーナーにそう言われてオレは、しぶしぶ明里と森谷を店内に案内する。
オーナーとオレがすれ違う時、オーナーが小声で言う。
「アンタの友達の女子高生、うちにバイトするように説得しな」
オレはそれを断ろうと振り返ると、オーナーはサッサと事務室に戻って行った。
明里達は店内を見回して言う。
「お客さんって、男の人ばっかり見たいね」
店内の男共も、客として入って来た女子高生二人に注目していた、何処か期待と情欲に満ちた目で…。
オレは明里と森谷のスカートの中を覗かれ無い様に、部屋の端を通り他の席から外れに有る席に案内した。
席に着くなりメニューを見た明里が、驚いて言う。
「コーヒーが千五百円⁉…ココはボッタクリ喫茶店なの?」
オレは溜息を吐き、オレの立って居るピカピカに磨き上げられた床を指差す。
「あっ、小鳥遊さんのスカートの中が、映って見えてる」
森谷千秋が素頓狂な声で言う。
「ココはオレ達メイドウエイトレスのパンチラを見るための店なんだよ」
オレは声を潜めて二人に言う。
「え~っなんでこんな店でバイトしてるのマコちゃん?」
明里が訝しむ様に言ってくる。
「まぁ…その…時給が良いんだよな…千五百円だから」
オレがちょっと躊躇しながら言うと。
「時給千五百円!…わ…私もバイトやろうかしら」
首都の深夜帯でも中々無い時給に、明里の目も眩む。
「オイオイ、パンツを男に見られるんだぜ、良いのかよ」
オレが少し慌てて言うと。
「別に…見られる以外エッチな事したりされたりする訳じゃあ無いなら…良いかも」
明里は事も無気に言う。
「わたいも大丈夫だよ」
森谷千秋まで追随する。
「でも…こんなお店、摘発されたりしないの、純喫茶と謳いながらこんな風俗店紛いの事をしていて?」
明里が声を潜めてヒソヒソと言う。
「あ~それな、以前オレも同じ事をオーナーに聞いた事有るけど…」
『何だって、警察に摘発されないかだって…それは大丈夫だよ、ココの県警察の本部長は、四十五年前の中学の頃にワタシが筆下ろしして、男にしてやった奴だから、ワタシには頭が上がらないから摘発何て出来ないよ』
その話しを聞いた時、オレの頭の中である絵面が思い浮んだ…ベッドの中でタバコを吹かす若いオーナーと背を向け丸くなってシクシク泣きながら…ボク汚されちゃた、もうお婿に行けない…と言う少年の図が。
その話しを明里に言うと、驚きつつも笑ってうんうんと頷いて居た。
「県警察の闇を覗いたみたいですね」
森谷千秋までもが、笑いながら納得顔で頷く。
ソレからしばらく明里達と話しをして二人は帰って行った。
そして次のシフトの時、店に行くと明里と森谷千秋までもがメイド服で居た事にオレはズッ転けたのだった。




