おまけ4 トリック・オア・メリー
茜に会いに行く数日前のある日、世間はハロウィンで大いに盛り上がっていた。俺としては特に興味はなく芽凛衣も触れることはなかったので、無関係なこととしてその日を終えるはずだった。
しかし、何事もなく終わることはなく、ちょっとしたイベントというか、イタズラが待っているのだった。
学校が終わった後、芽凛衣が買い物に行くからとどこへやらに出掛けていった。きっとスーパーとかそんなもんだろう。
一緒に行こうと言ったが、彼女はそれを断って行ってしまった。珍しいこともあるもんだと思いつつ、仕方ないので家でゆっくりすることにしした。
ちなみに両親だが、今日は用事があるからと夕飯は外で食べてくるそうだ。なので夕飯は芽凛衣と二人きり。
せっかくなら楽しもうかと思った矢先のコレであり、とても手持ち無沙汰だった。無理矢理にでも着いていったほうが良かっただろうかと、今になって思ってしまう。
筋トレしながらそんなことを考えていると、ふとスマホが鳴った。画面にあるのは非通知。
いつだったがブロックしておいたはずなのだが、OSの更新で解除されてしまったのだろうか?
無視しても良かったが、なんとなくその電話を見てみると、聞こえてくるのはヒソヒソとした声。
内容までは聞き取れず、もしもしと繰り返すものの返答はなかった。
なんとなく怖くなって電話を切ると、再び電話がかかってくる。一体なんだろうかと警戒しつつ、不思議と電話を応対してしまう。
「もしもし……?」
『トリ……ア…リ…』
砂嵐のようなザアザアとした音が響く中、僅かながら何かを唱えるような声が聞こえてくる。その声には聞き覚えがあるものの、思考に靄がかかったように相手を思い出すことができなかった。
電話を切ろうにも、どうしてか引き込まれるようにそれができず、雑音だけが耳に残る。すると、電話の向こうからハッキリとした声が聞こえてきた。
『今日は、ハロウィンだね』
「あ?うん……で?」
『だから、せっかくだしハロウィンっぽいことしたいと思ったの』
「は?」
聞き取りやすくなった声で言われた内容に、俺は眉根を寄せて聞き返した。ハロウィンっぽいこととはなんだろうか?
思い浮かぶのは仮装だが、しかし電話口から話しかけられては意味がない。
『だからね、ほら……後ろを見て』
「っ!?」
電話口から告げられた言葉に、勢い良く振り向いた。しかしそこには誰もおらず、ふぅと溜め息を吐いた。
しかし、どこかであったような流れに、思わずゾッとして前を──
「やほ、トリック……」
「ぎゃあああああ!」
「ぐぅへっ!」
前を見ると、視界いっぱいに芽凛衣の顔があった。ビビり散らしていた俺は思わず彼女を突き飛ばし、その勢いで膝上から彼女が床に落ちた。
ゴツリと後頭部を打つ音が聞こえたが、このバケモンなら平気だろう。というか、気にする余裕は全くない。心臓が痛い。
「せめて普通に仮装してこい!怖くて仕方ないわバカ!」
「うぃちち……ごめんちゃい。ちょっとイタズラしようかなって思って」
ぶつけた頭をさすりながら、芽凛衣がてへぺろしてそう言った。ハロウィンぽいことって言って、まさかイタズラだなんて誰が思い付くというのか。
意表を突いてくるなマジ。
「ったく、床が傷付いたらどうする」
「だからわたしの心配しろぃ!」
床の無事を確認している俺に、芽凛衣がぎゃいぎゃいと騒ぎ立てる。いつぞやかに見たような光景である。
「知るか、脅かす方が悪い。それにどうせ頑丈だろお前は」
「心は弱いよ!」
「嘘つけ」
青崎や御天原をボロボロにしておいて、いったいどこが弱いというのか。自称されると信じられないのが人間である。
そんな俺を見て、芽凛衣がむくれて異議を唱えている。クソ、かわいいなこのやろう……
「じゃあもういーもん!ご飯作ってあげない!」
「そうか、じゃあ買ってくるよ」
「ほぇえ!?」
せめてもの抵抗だったのだろうが、それならそれでコンビニでも行けば良いのだ。ささやかな抵抗が効かないと知った芽凛衣は、目を見開いて驚きを表現した。
彼女の料理が食べられないのは残念だが、そういうことなら──
「わぁん、イタズラしてごめんなさい!更斗くんと一緒にご飯食べたいよぅ!」
目をバッテンにしながら、芽凛衣が抱きついて謝ってきた。可愛すぎる彼女をいじめるのも趣味じゃないとその頭を撫でる。
「ごめんごめん、俺だって同じ気持ちだよ。冗談だから、一緒にいような」
「わぁい!更斗くん大好き!」
ずいぶんと素直になっている芽凛衣に、思わず ふふっと笑ってしまう。どことなく幼い彼女の手料理が、今日も楽しみで仕方がない。




