おまけ3 みんなの茜、あなたの芽凛衣
前回、茜の元に行ってからふた月ほどが経過した。あれから文化祭などもあって期間が空いてしまったが、ようやく茜と会うことができる。
彼女へのお供え物を手に、俺と芽凛衣の二人で紫崎家にやってきた。
おじさんがいなかったため墓参りはできなかったが、それでも茜に向けて仏壇にて手を合わせ、そのあともおばさんとお話しして帰路に着いた。
そして最寄駅の近くへとバスでやってきた俺たちは、下車して周辺を散策する。そんな中、とある人物と会ったのた。
「あ、こんにちは!」
声をかけてきたのは、茜の友人の女の子たちの茶髪の方であった。相方の黒髪さんもおり、二人を見てすぐに思い出した。
恥ずかしながら、ちょっとだけ忘れていたのである。
「あぁ、こんにちは」
「こんにちは」
わずかに逡巡を挟む俺と違い、芽凛衣はペコリと頭を下げてスムーズに返す。茶髪の子はニコッと返し、黒髪の子は軽く頭を下げた。
茶髪さんは積極的な雰囲気だが、黒髪さんはそうでもないようで、彼女は一歩引いた雰囲気である。まぁ人それぞれだよね。
「茜ちゃんに会いに来ました?」
「もちろん……そういえば、そっちの茜はどうでした?友達関係とか」
せっかくならと、気になっていたことを聞いてみる。俺の知る茜は、あまり誰かと関わることができてなかったので、友人関係が気になったのだ。
ベッドで横になっていた彼女しか知らず、それも遠い過去の話。それでも、笑顔の茜はよく覚えている。
「そうですね……私たちは中学の時に会って、それからずっと一緒でしたけど、それ以外の子達とはそんなに関わらなかったです。元々警戒心が強かったのか、社交辞令以上の関わりはしない子でしたね。それでも、私たちは高校まで一緒でしたけど!」
口元に指を添えて考えた茶髪さんが、思い出しながら答え、胸を張ってふふんと得意気に言った。それを聞いて、芽凛衣のことを考えてみる。
彩斗や三陰と初めて顔合わせしたときのことを考えると、芽凛衣は警戒心がそれなりに強い。
なんとなく、それが茜とダブっているように思えた。
「だから、する前も入院してからも、私たち以外には元気に振る舞ってましたよ。高校に入ってから梅雨になる前に入院しまたけど、それでも人気者だったなぁ……だからみんな、驚いてましたし心配もしてました」
目を細めながら、茶髪さんは続ける。そんな中、彼女の相方はというと、芽凛衣のことをじっと見ていた。
「だけど茜ちゃんは、あんまり弱味というか付け入る隙というか、関わるタネを作りたくなかったらしくて、だから元気に振る舞ってました。でも、あの子がそれを教えてくれたのは、私たちには素直でいたいからみたいで」
少しだけ恥ずかしそうに笑いながら、彼女はそう告げた。どうやら茜は、二人のことをとても信じていたようだ。
「だからちょっとだけ、自慢だったんですよね。茜ちゃんと仲良しだったこと。だからお兄さんのこともちょっと気になってたり──」
「──茜ちゃん?」
俺たちの会話を裂くように、芽凛衣をじっと見ていた黒髪さんがそう言った。俺たちはそれが気になって、会話を止めて彼女を見る。
彼女が見ているのは芽凛衣だ、ではなぜ茜の名を呼んだというのか。
芽凛衣は優しく微笑んで返し、フルフルと横に首を振った。
「違うよ、私は芽凛衣。茜はお姉ちゃん」
芽凛衣はそう言って、俺の手を握ってくれた。その温もりから感じたのは、茜だった。
いつか握った彼女の手が、今になって思い出として甦る。そんな芽凛衣を見て、茜の名を呼んだ黒髪さんは はっとした。
「そっそうだよね。ごめんなさい」
「いいよいいよ。更斗くん、そろそろ行かないと、電車来ちゃうよ」
優しく手を振って返した芽凛衣が、俺に体を寄せた。言われたとおり、スマホを見るともう少しで電車が来る時間だった。
二人と軽く挨拶し、また会おうと連絡先を交換してお別れした。
黒髪さんはきっと、芽凛衣の内にいる茜に気が付いたのかもしれない。
更斗たちが帰ったあと、紫崎家の大人二人は、その後ろ姿を思い浮かべていた。実の娘が亡くなり、そのあとすぐに現れたもう一人の娘と、二人の娘を大切にしてくれた少年のことを。
「芽凛衣ちゃん、幸せそうだったわ、ね」
二人は当初こそ芽凛衣の影響を受けて、彼女を次女だと思い込んでいたようだが、実はすぐにそれも解けていて、彼女が茜の妹でもなければ、自分たちの娘でもないと理解した。
それでも二人が芽凛衣を娘として接しているのは、彼女の気持ちに合わせようと思ったからである。そして、芽凛衣はその事に気付いてはいなかった。
「茜の分、芽凛衣が更斗くんと一緒にいられるといいな」
妻の言葉に夫が微笑んで返す。二人にとって、もはや更斗は娘を託せる存在であり、もはや息子同然にも思っていた。
「早く二人の子供が見たいわねぇ」
「はは、孫を見るにはまだ気が早いさ」
気が早くも、更斗たちの子供を楽しみにしている妻に、夫は穏やかに笑って返すのだった。




