最終話 メリーさんとこれからも
芽凛衣と茜の関係を知ってから、気が付けば肌寒い季節に突入していた。振りかえるとあっという間に感じる時間だったが、芽凛衣との関係はどんどん深まっていくばかりだ。
彼女との時間は幸せであるばかりで、不満などあろうはずもなかった。
ただ強いて言うならば、怖い話とかホラー映画とかを見たとしても、芽凛衣の存在があるからなにも怖くないといったところか。おかげでホラーもので怖いと思うことも楽しむこともできないが、そんなことは些細なことだ。
芽凛衣のルーツはホラーのソレだが、やっていることは どピンク真っピングなのだ。これではホラーどころかドスケベである。
あれこれ思い返すと笑いと共に鼻血も出そうになるが、日常なんてこんなもので良いのだ。
どちらかというと、俺たちのことよりも周囲のほうが色々と大変であった。例えば弥園は好き好きと好意でどついてくるし、御天原が実は恭平に助けられたことがあったりとか、再び茜の家に行ったときに彼女の友人二人と仲良くなったりと、色々である。
弥園はなんかもう、朝に出待ちしてきて抱きついてくるし、連絡先を教えてくれとぐいぐいくるし、教えたら教えたでお色気写真やら動画やら送ってくる。好きでいてくれるのは嬉しいが、いい加減あっち向けあっち。
暴走しきった彼女に戦々恐々としている。
恭平は恋人を欲しがっていて、御天原からアプローチを受けて超乗り気であったが、彼女が俺にバチバチ敵意を抱いていたことを知るとすさまじい速度で冷めていた。
なんでも "俺のヤンチャに付き合ってくれた親友の方がずっと大事だ、今でも感謝してる" ということらしい。恥ずかしいことを臆面もなく言えるその男気に、どうして恋人ができないのが疑問である。
まぁ恭平の良さを知る女の子がいれば、恋人なんぞ遠からずできるだろう。身近な人間を大切にできるのなら、必ず寄り添ってくれる人はいるはずなのだ。
その想いが強くなったのが芽凛衣なわけだしな。さすがに彼女はイレギュラーすぎるから例えにならないけどね。
っていうか弥園と恭平が付き合えよ。なんで二人して別にいいっすみたいな空気なの?
仲は悪くないけれど、残念だがお互いに好みではないらしい。じゃあ仕方ない。
そして、茜の友人たちだが、彼女たちと再び会ったのは、茜に顔を見せにいったその帰りだ。
ふた月は離れていたというのに、俺たちのことを覚えてくれていたらしい。まぁ俺も分かったけどさ、だって可愛かったんだもん。
それから時間を取って、茜のこと聞いた。彼女らが知るその姿を。
なんでも、茜は普段から周りに心配をかけないように、いつも元気に振る舞っていたらしい。だから、茜が入院したと聞いた時はみんな驚いたのだとか。
元気に振る舞っていたのは、誰かに頼って弱みを作りたくないかららしく、付け入ってくる輩を避けるためらしい。しかし友人である彼女ら二人には、素直な姿を見せていたのだとか。信頼されていたんだな。
二人が茜と知り合ったのは中学の時らしいが、三年間ずっと一緒にいるくらいには仲良しで、高校も同じところを選んだらしい。
だが、進学後もずっと一緒だとワクワクしていたところで、夏休み前のお別れはとてもショックだったみたいだ。
二人が茜の身体について知ったのは、中学三年のときらしい。その時は体調が悪いわけではなかったが、それでもたまに、人知れず疲れていたような顔をしていたのだとか。
それだけでなく、本人からも話してくれたみたいで、俺のこともそのときに聞いたようだ。ずっと寝込んでいた過去と、その隣で寄り添っていた俺。茜は、そんな俺が今でも忘れられなかったらしい。
寄り添っていたと言われると少し恥ずかしい気持ちになるけど、覚えてくれていたことは素直に嬉しいし、好きでいてくれたことにも喜んでしまう。俺もチョロい男である。
高校に入ってしばらく、急激に体調が悪化した茜のお見舞いに行くと、なにやらくまのぬいぐるみを胸に抱いていたらしい。
きっとそれは、俺が贈ったものだろうと、そう確信した。ずっと大切にしてくれていたことは、芽凛衣から聞いていたから。
そんなこんなで、文化祭やハロウィンも終えて落ち着いた今日この頃、相変わらず芽凛衣とは仲良くさせてもらっている。
両親も彼女のことは気に入っており、家でも学校でも楽しくやっている。
「更斗くん、お弁当持った?」
「あるよ」
「ゴムは持った?」
「持ってても使わねぇから置いてくぞ。学校でなにやるつもりだ」
そんなやりとりをしていると、母さんは苦笑いで俺たちを見ていた。恥ずかしいところを見られてしまったぞまったく。
「二人とも仲良しさんね。さ、いってらっしゃい」
「「いってきます」」
母さんに見送られながら、俺たちは手を繋いで家を出る。鍵は母さんが閉めてくれるので、芽凛衣の少しばかりひんやりしたその手を引いて、振り返ることなく歩きだした。
「更斗くん」
「ん?」
歩きだしてしばらくすると、芽凛衣が俺を名前を呼ぶので歩きながらそちらを向く。彼女の頬はほんのり赤く染まっていた。
「大好きだよ」
わざわざ言うまでもない、分かりきっているその想い。だけどなぜか、芽凛衣の中には茜を感じた。
なぜか懐かしい気持ちになった俺は、口角を上げて、繋ぐその手を少し強くした。
「俺も大好きだよ、芽凛衣」
二人でひとつのその名前を呼ぶと、彼女はとても嬉しそうにニッコリと頷いた。




