三十九話 茜と芽凛衣
茜が既に亡くなっていたことを彼女のお母さんから聞かされ、そのまま霊園に来た俺たちは茜の墓参りに来た。
掃除と黙祷をして車に戻っていると、彼女の友達を名乗る二人とばったり会って、話がしたいと言われたのだ。
そして五分ほど会話をした後、穏やかな空気感のままお別れをして、俺たちは車に戻る。おじさんの運転で紫崎家宅に戻り、おじさんは今から用事があるからとここでお別れになった。
彼は今日俺がやってきたことに対するお礼と、芽凛衣を俺に託すと伝えてくれた。俺もお礼で返し、これからもよろしくと頭を下げておじさんを見送るのだった。
家に上がらせてもらい、茜の仏壇があるという部屋に案内された。本当は俺が訪れたときにすぐ案内したかったようだが、おじさんは予定を控えていたので、少しばかり急いでいたために墓参りを優先したようだ。
俺と芽凛衣は仏壇の前に正座して、りんを鳴らし黙祷を捧げた。もしまた来ることがあるなら、その時は茜の分のお土産をもってこよう。
夕方になり、俺たちは家の玄関に立っておばさんと向き合っていた。早いとこ帰らないと、家に着く時間が遅くなってしまう。
「二人とも、今日は本当にありがとね」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「ありがとね、お母さん」
おばさんのお礼に、俺は頭を下げ、芽凛衣もお礼で返す。
「芽凛衣ちゃんも更斗くんも、また遊びに来てちょうだい。茜もあなたたちが来たら喜ぶと思うわ」
「はい。また来ます」
優しいおばさんに、俺たちは頷いて返す。おばさんに見送られながら紫崎家を後にし、行きと同じルートで帰宅した。
俺たちを照らす夕日は少しだけ雲に隠れてて、眩しすぎない、優しい茜色が差していた。もしかしたら、茜が俺たちを見送ってくれているのかもなんて、柄にもないことを考えながら電車に揺られるのだった。
俺たちの手は、いつの間にか強く繋がれていた。
すっかり日が暮れて、家に着く頃には月が夜空をささやかに照らしていた。家に上がるといい匂いがして、もうすぐ夕飯ができると分かる。
「ただいま」
「二人ともおかえりなさい。もうすぐご飯できるから、お風呂沸かしといてくれる?食べたらすぐ入っちゃいなさい」
食事の用意をしている母さんがそう笑いかけてくる。
夕飯前に風呂を沸かし、ご飯を食べてからすぐに風呂に入った。もちろん芽凛衣と二人で。
寝間着に着替えて、俺と芽凛衣は横に並んでベッドに腰を下ろす。話すのは、茜と芽凛衣の関係性についてだ。
「私は、茜の持っていた人形なんだ。人形だった私が芽凛衣なったのは、更斗くんに初めて電話をしたあの日の二日前。そして、茜が深い眠りについてから、亡くなったのが二日後。その二日間に私は、あの子から更斗くんのことを知って、あの子の分だけ更斗くんを幸せにしたかったんだ」
俺の目を見ながら芽凛衣は滔々と語る。茜が亡くなったのはもしかして……
「茜はお別れしてからもずっと、更斗くんのことを覚えてたの。ずっとずっと大好きで、だからこそ諦めきれなかったあの子は、いつかきっと体調を治して会いに行こうって夢見てた。更斗くんの幸せを願っていたけど、本当はその隣に立つのが自分でいたいって思ってた。だから、茜が亡くなったあの日、私は更斗くんに電話をかけたんだ」
「やっぱり、あの日が茜の……」
「うん、命日なの。茜が意識を失ってすぐ、私は自我を持った。そしてその二日の間に更斗くんのことを知って大好きになったんだ」
もしかしてと尋ねた俺に、芽凛衣は頷いて続ける。返す言葉なんて、持ち合わせてはいない。
「人形だった私は、茜の持つ更斗くんへの気持ちで芽凛衣になったってことだね。だから私は、出会う前から更斗くんが大好きだったの」
ある意味、芽凛衣は茜なのかもしれない。そんなことを思った。
生まれ変わりといって差し支えないだろう。
本来なら、あまりに突飛な話に信じることはできないはずだった。しかし、芽凛衣との出会いや彼女の異質性を考えれば、今さら疑うこともでもない。
なんなら、ストンと腑に落ちたくらいだ。やっと知ることのできたことに、俺は充分納得していた。
「なんか、説明が分かりにくいよね。私もどう説明しようかずっと悩んでたんだ。もし分からないことがあるならいくらでも聞いてね」
「ありがとう、大丈夫だよ」
困ったように笑う芽凛衣に、俺は彼女の頭を撫でて返した。




