三十八話 "再会"
幼馴染に会うために、彼女の家にやってきた俺と芽凛衣。その両親は快く出迎えてくれ、"これから茜に会いに行くから" と、俺たちを車に乗せて彼女に会いに行くことになった。
そして、事情の知らない俺のために、彼女のお母さんが説明してくれた。ひどく寂しそうな横顔を見て、俺は既に諦めにも近い感情を抱いていた。
「茜はね、二ヶ月前に亡くなったの。元々1型の糖尿病もあったし、そのせいで喘息と結核が同時にでちゃったから、喉と肺まで酷く傷付いてね。喉も狭かったから無呼吸もあったみたいで、余計に苦しかったでしょうね」
つまるところ、呼吸器系に大きなダメージがあったということだろうか。おばさんの言う通り、しんどかったにちがいない。
「でも、最後は眠るように息を引き取ったわ。本当は更斗くんのご両親にも連絡したかったのだけれど、お互い引っ越しちゃったし連絡先を知らなくてね」
「そう、だったんですね……」
おばさんから告げられた現実に、俺はひどく寂しい気持ちになった。とはいえ、悲しいのは幼馴染の……茜のご両親である。
「夏休みに入る少し前だったかしら、それくらいの時に意識を失って、二日も経たないうちだったわ。今から向かうのは、茜のお墓なの」
聞きたくなかった。だけど、現実なんだ。
窓の外に目を向けると、前方に霊園の看板が見えた。
車が駐車場に止められ、二人で外に出る。おばさんの案内でそこに行くと、紫崎家の名前が彫られた墓石がそこにあった。
ちなみに、おじさんは水を取りに行ったので今は離れている。
「茜はね、ずっと更斗くんのことを忘れてなかったよ。例え会えなかったとしても、素敵な人と出会って幸せになって欲しいって、そう願っていたの」
俺の手を握った芽凛衣が、ゆっくりと茜の想いを語る。彼女のお父さんが水を持ってきたところで、俺たちは枯れている花を新しい花に取り替えるために、花立てを手にとって蛇口の方へ向かう。
茜の両親が墓石を洗っている間、俺たちは花立てを洗う。
「結局、芽凛衣は茜のなんなんだ?まさか本当に妹ってわけじゃないんだろ?」
「うん。そこは少し長くなるから、帰ったらちゃんと話すね」
「……分かった」
隣で一緒に花立てを洗う芽凛衣に気になったことを尋ねると、そう返されてしまった。花立てを洗い終わり、水を入れてから墓に戻る。
花立てを元に戻し、おばさんがそれに花を添える。おじさんが線香に火をつけて、四人で並び手を合わせた。
長く離れていた幼馴染にやっと会えた。
できるならもう、一度笑い合えたらよかったな。
そんなことを考えながら、茜の冥福を祈り手を戻して顔を上げる。そしておばさんが、俺と芽凛衣の背中に手を添えた。
「それじゃあ、行きましょうか。家に仏壇があるから、そちらでも手を合わせてくれる?」
「はい」
俺は頷いて、それを合図に四人で車に戻る。歩いていると、向こうから俺と同年代くらいの女の子達が二人、こちらに向かってくる。
彼女たちはおばさんたちを見て あっと声を出した。
「「こんにちは」」
彼女たちは茜のご両親に向け、軽く頭を下げて挨拶した。その二人におばさんたちは笑顔で返す。
「こんにちは。いつもありがとうね」
その二人は、おそらく茜の友達だろう。芽凛衣も、仲のよかった人は俺以外に二人いたと先日聞いた。
彼女らはおばさんのお礼に いえいえと返し、俺と芽凛衣を一瞥して尋ねると。
「あの、この人たちは……?」
「私たちの娘で茜妹の芽凛衣ちゃんと、茜のお友達の更斗くんよ」
「こんにちは。お姉ちゃんがお世話になりました」
「……どうも」
おばさんの紹介に芽凛衣が頭を下げ、俺もボソッと挨拶にもならない言葉を出して頭を下げる。
「実は芽凛衣ちゃん、学校のことであんまり家にいなかったから、あなたたちは会ったことなかったわね」
「そう、ですね。茜ちゃんから話は聞いてましたけど、会ったのは始めてです」
辻褄が合っていないような気もする。同い年の妹というのも出来すぎだし、一度も会ったことがないというのも変な感じだ。
そもそも、そのときから芽凛衣がいたのかも疑問である。
「あの、少しだけ話、いいですか?」
おばさんと話をしていた女の子の相方が、俺にそう問いかけてきた。おそらく茜のことだろうと、俺は首肯で返す。
それならばと、茜のご両親は先に車に戻っていった。
茜の友達二人と、俺と芽凛衣の四人が残される。二人と二人で向き合いながら、俺に声をかけた茶髪の女の子が切り出した。
「あの、もしかして茜ちゃんが小さい頃に仲良しだったのって、あなたですか?」
率直な質問だが、芽凛衣からある程度の話しは聞いているので迷いはしない。
「えぇ。気が付いたら仲良くなってて、小学校に入る前に茜が引っ越すまではよく遊びに行ってました」
「そうなんですね。別れ際にプレゼントを贈ったって聞きましたけど……」
「あぁ、くまのぬいぐるみですね」
ちょっとだけ恥ずかしいことである。ぬいぐるみを贈ったというのに、人形だと勘違いしていたのだ。
僅かに羞恥心を再燃させながら答えると、二人は あぁっと驚いた表情をした。
「その、実はってほどでもないんですけど、茜ちゃんずっとあなたのこと覚えてたみたいですよ」
「そうそう。あの子モテモテだったのに、好きな人がいるからって告白も全部断ってて、いったいどんな人なんだろうって気になってたんです。会えて嬉しいです」
「そりゃどうも」
茶髪の女の子がぶっちゃけると、その相方である黒髪の子が続けた。なんとなく照れ臭くなって目を逸らすと、二人は優しく微笑んだ。
「っていうか、妹さんすごく美人さんですね。二人はどういった関係なんですか?」
「恋人です。お姉ちゃんから、更斗くんのことを頼まれたので、今は一緒に暮らしてます」
芽凛衣の告白に二人は目見合わせ、時間差で えぇっ!と声を上げたのだった。




