三十七話 動けない幼馴染
芽凛衣がウチの両親と顔を合わせて次の日曜日。両親共にすっかり彼女と仲良くなって、今日まで平和な日々を過ごしていた。
そして約束の日とも言える今日、幼馴染である紫崎 茜の元に、芽凛衣の案内でやってきた。
俺の住んでいる街から乗り換えを経て、電車に乗ること約二時間。海岸沿いである俺の住む街と違い、内陸部である隣のその県はそれなりに賑やかな雰囲気であった。
昼過ぎに駅を降りて、バスに乗ること約二十分。バスから降りて、手土産を片手に小綺麗な一軒家を目の前にしていた。
たぶんそれなりにお金持ちだわこれ。ひえー。
「ここが茜の家だね。更斗くん、インターホン押したげて」
芽凛衣に背中を押され、その言葉のままに門にあるインターホンを押した。
ピンポーンとよく聞くベルの音が鳴り、数秒としないうちに女性の声で応答があった。
『はい』
「すみません、汐丸 更斗といいます。茜さんに会いに来ました」
『え、更斗くん?ちょっと待ってて下さいね!』
用件を率直に伝えると、応対してくれたその女性は驚いた声でそう言った。
それからすぐに玄関の扉が開かれて、声の主が顔を出した。美人なその女性の顔には見覚えがあり、彼女が幼馴染の母であることはすぐに分かった。
「久しぶりね更斗くん!こんなに大きくなって、随分と精悍な顔つきになったわね!」
「おっお久しぶりです」
おばさんというには美人すぎるが、その人物は俺の頭を撫でながら、興奮したように出迎えてくれた。その様子に少し驚いてしまうが、悪い気はしない。
「芽凛衣ちゃんもおかえりなさい。まさか探している人って更斗くんのことだっのね」
「うん!せっかくならサプライズしようと思って、内緒にしちゃった!」
親密そうにやり取りをする二人。ちなみに芽凛衣は幼馴染の妹なので、当然ながら出迎えてくれた人とは親子関係である。
「そうなの、でもちょうど良かったわね。今から茜のところに行こうと思ってたから、更斗くんも芽凛衣ちゃんも一緒にいらっしゃい」
「はい、お願いします」
幼馴染のお母さんがそう微笑んで、俺と芽凛衣の背に手を添えて家に上げる。落ち着いた色合いのリビングに通されたところで手土産を渡して、ウチとは比べものにならないほどふかふかのソファに、促されるまま腰を下ろした。
「今お父さんが準備してるからまっててね」
「はい」
「はーい」
これから幼馴染に会えるということで、ほんの少しドキドキしている、動けないと芽凛衣が言っていたので、もしかしたら入院中なんだろう。
飲み物を渡され、それに口をつけてゆっくりと待つ。まぁ、緊張しているのでゆっくりというのは努めてといったところだが。
「ねぇ更斗くん」
「ん?」
暑い外の余韻と、緊張を落ち着かせるために冷たい飲み物を半分ほど飲んだところで、芽凛衣から名前を呼ばれた。
その様子は神妙で、なんとなく不安な気持ちになる。
「心の準備をしててね。きっと、すごく驚くことになると思うから」
「…………うん」
どこか寂しげな様子の芽凛衣からそう言われ、思わずドクリと心臓が跳ねる。そして過るのは、最悪のイメージ。
誰もそんな様子を見せなかったことに、なんとなく楽観的になっていた。
でも、芽凛衣が見せた様子は、俺が予想していた雰囲気と合致していて、急に現実味を帯び始める。
それからすぐに、用意のできた幼馴染のお父さんが来て、穏やかに挨拶を交わした。おじさんも俺が小さいときのことを今でも覚えていて、ベッドの上にいることの多かった幼馴染と、仲良くしていたことを今でも感謝をしてくれているらしい。
それから車に案内されて、芽凛衣と一緒に後部座席に座る。ここも大きめで、中も外もこだわったような車に思わず圧倒されかける。
「お父さんは会社の役員さんだからね」
どうりでお金持ちな訳である。話を聞けば、その会社は世界に名だたる車メーカーであった。そういえば、乗せてもらった車の種類もそのメーカーのものであった。
乗り心地は抜群で、オプションもガッツリ付けていることが窺える。詳しくはないが、もしかしたらフルかもれない。
発進したときの揺れも穏やかで、乗り心地は最高であった。これから向かうのは、長らく会えていなかった幼馴染。
しかし、入院しているはずの人物のお見舞いといには、手荷物が少なかった。帯びた現実味が段々と強くなり、不安に苛まれる。
「茜はずっと更斗くんに会いたがっていたから、きっと喜ぶわ。でも、芽凛衣ちゃんから詳しい話は聞いてないわよね?」
「はい。今は動けないってことしか知らないです」
「そう……なら、話をしなきゃいけないわね」
寂しげに見せたおばさんの横顔に、俺の予想は現実であると思い知らされた。




