おまけ ぐいぐい後輩
芽凛衣と茜の関係を知ってから数日後の朝、俺たちはとある人物に絡まれていた。
「おはようございます。また会いましたね、先輩♪」
「おはよう。弥園」
やたらと嬉しそうな様子で挨拶をしてきたのは、ひとつ下の後輩、弥園 喜美だった。そういえば、彼女は俺のことを好きだとかなんとか言ってた気がするけど……
「いやぁ、朝から先輩に会えるだなんて、今日は最高の一日になりそうですよ♪あっ、今日も素敵ですよ!」
「あす……ども」
先日、俺と芽凛衣が付き合っていることを知った弥園の叫びを聞いてから、ずいぶんと態度が変わってしまった。
なんかピンク色を放っているようにも見えるし、俺としては対応に困ってしまう。
「あれれー?なんか反応薄くないですか?やっぱり先輩のことだから、言われ慣れちゃってるんですかね」
「いや、ただ驚いてるだけだから悪しからず……」
首を傾げて、ぐいぐいと距離を詰めてくる弥園に、さすがにたじろいでしまう。普通に顔立ちを良いので、さすがに心臓に悪い。
美人は芽凛衣で慣れていると思っていたが、そんなことは全然なかったみたいだ。
「先輩も驚くんですね?あっそういえば、先輩と彼女さんってもうヤッたんですか?」
「こんなとこでなに言ってやがる」
人の往来……はないものの、それにしたって誰に聞かれてるか分からんというのに、なにを口走っとるのだコイツは。
まさか弥園まで、頭がピンク色に染まったのだろうか?
「とっくにヤッたよ。更斗くんの初めては私がいただきました♪」
「わざわざ答えんでヨロシ」
「ぐぬぬ羨ましい……!」
「そんでお前はなんで聞いたんだよ」
アレな質問に芽凛衣が無い胸を張って答えやがったので、思わず彼女の頭をはたいてしまう。そして弥園はなぜか悔しがるような素振りをしていた。
そんなんだったら言ってくれたら良かったのに。俺としてはそもそも期待してなくて、初めからないものと思ってたぞ。
「それはあれです、寝取られというか、先に好きだったのにってやつです」
「誰が薄い本を現実にしろっつった」
人差し指を立てながら答える弥園に、ジト目で睨みながら突っ込みを入れる。そこはせめて好奇心とか怖いもの見たさとか答えて欲しかった。
「だって、私からするとこの状況を楽しまないとやってらんないっすもん」
「イミフ過ぎる。それなら今度、俺のダチでも紹介してやろうか?」
一度目を逸らさせるなら、そっちの方が良いだろう。そう思ったが、弥園には響かなかったようだ。
「え、それってどうせ伊角先輩ですよね?あの人は別にいいです」
「なんでや」
素っ気ない回答に、ここにはいない恭平に同情してしまう。彼とて別に顔立ちは悪くないし、性格だって良い。
そんなに悪いとは思えないんだが……
「だって、私あの人のこと知らないですし」
「まぁそれはこれから知ってけば良いんじゃ?」
「なにより好みじゃないので」
「そりゃどうしようもないな」
知らないだけならいざ知らず、好みじゃないとなれば興味さえ湧かないだろう。思ったより深刻な理由であった。
好みで決めるもんじゃない!という人も世の中にはいるだろうが、それは難しい話だ。
例えて言えば、俺を主観とするならそれこそ御天原相手に付き合えと言うようなものである。今のところは興味がないってくらいなら、相手のことを知るうちに気になっていく可能性はなきにしもあらずだ。
しかし今の例であれば、どちらの立場に立ったとて不可能であることが分かるだろう。まぁ俺たちは過去に揉めているからかもしれないが、そうじゃなくても、例えば自分のパッと思いつく、ガチでどうでもいい人を思い浮かべても良いだろう。
自分の好みからかけ離れてる人を誰が好むだろうか?そんな人は少数であるし、もし今の例えが理解できないのなら自分がどうしても無理!という人を思い浮かべれば良い。
極端な例えだが、これが好みじゃないということだ。それなのに仲良くしろなんていうのは、酷な話だ。
つまり、良い相手は弥園自身に探してもらうしかないのである。
「そうですどうしようもないんです。そういうわこで、連絡先教えてください!」
「ここまで藪から棒が当てはまる状況もないな」
いきなり棒が突き刺さってくるように、弥園がスカートのポケットからスマホを取り出して、両手で可愛らしく持ちながら言った。
普通なら喜ぶところだが、俺に芽凛衣がいるので複雑である。
とはいえ、連絡先を交換したところでなにがあるわけでもないかと、素直に頷くことにした。
「分かったよ、ほい」
「ンミヒャー!ありがとうございます!」
メッセージアプリのアカウントを教えるために、読み取り用のコードを弥園に見せると、聞いたことのない悲鳴をあげながら、彼女は自分のスマホカメラで読み取った。
そして彼女すかさず、俺のアカウントにメッセージを送ってきた。大好きです!じゃないんよカワイイなこいつ。
「そろそろ行かないと、遅刻しちゃうんじゃないの?」
「あっ、そうですね!先輩、ありがとうございます♪それじゃ!」
俺たちはまだ少し余裕はあるものの、弥園はそうでもなかったようだ。まぁ俺も知っているので、今から中学校はやばいかも?
そのため、芽凛衣の言葉に弥園はハッして、すぐに走っていった。
俺は彼女のアカウントによろしくとメッセージを送って、スマホをポケットにしまった。
ちなみに、俺が芽凛衣になにも尋ねなかったのは、あくまで交友関係を広げるだけだからだ。
俺も芽凛衣も、そう簡単に他人に取られるような関係ではないからな。むしろ下手な束縛は、せっかくの恋人関係に軋轢を生むこともありうる。
だから、メッセージアプリのアカウントくらいは自由だし、芽凛衣も気にしてはいない。
ただ、すこし軽率だったと思うとすれば、それから毎晩 弥園のムフフな写真が送られてくるというところだろうか。芽凛衣よりエロい体つきしてやがる。
というわけで、送られてきた写真は全部消しておきました。血の涙を流してね。




