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キミの平穏の為に

「…………ハーフエルフ?」


 俺は聞き馴染みの無い言葉に戸惑う。孤児院でゲーム好きな子供がそんな単語を言っていたような気がする。だが俺は無月が死んでからゲームに触れた事すらなく、何もせず生きて来た。突然出て来た単語に俺は戸惑う。


「それって人種とかの違いか?」


 俺のその言葉にフィルナルドも戸惑う。


「キミ、ハーフエルフの事知らないの? キミ異世界の人間だったね。エルフって異世界には存在しないの?」


「全く知らない。存在しないと思う」


 その俺の言葉に考え込みそして何かを決断した様に答える。


「ハーフエルフって言うのはね。人間とエルフのハーフの事を言うんだ。当然人間とエルフは別の種族だからね。人間とエルフでさえ争いが絶えないのに、そのハーフなんて嫌われものさ。どっちにも所属できずに虐げられる存在さ」


 俺はエルフの事を全く知らなかったが、黙ってフィルナルドの話を聞くことにした。


「当然ボクも虐められたよ。幸いボクはエルフ側で幼年期を過ごせたからまだマシな方だけど、それでもボクに対する差別は無くならなかったんだ。ある程度成長したボクは里を出る事にしたよ。そこにボクの居場所は無かったからね。幸いボクは魔術の才能が有った。生活には困らなかったけど何処の国にもボクの居場所は無かった。ボクがハーフエルフだと知ると皆離れてね。里に戻ろうともしたけどボクの育った里は帝国に滅ぼされ焼け野原になってたよ」


「……帝国には行かなかったのか?」


「帝国は駄目だね。あそこは人間以外一切認めないからね、人間なら取り合えずは生きて行けるけど、種族が違えば皆殺しさ」


 俺はこの世界の事を全く知らないが帝国は魔王討伐を目指していたし多種族に厳しいみたいだ。そんな国が一番力を持ち戦争を続けているのだからこの世界は俺の想像以上に酷い有様なのだろう。それはオスティニア国の跡地からも想像がつく。


「さて、話を続けようか里が滅びた後もボクは居場所を求め旅を続けたよ。でもこの地は争いばかりで平穏に暮らせる場所が中々見つからない。そんな時ここアストージ国の先代の王と出会ったんだ。先代はボクに一つ頼んだんだよ。それはこの国を守る為にエルフであるボクの力を貸して欲しいとその代わりボクに安心して暮らせる住処を与えると、ボクは悩んだ。確かに住処は欲しい。その時のボクは一人旅に疲れてたからね。でもこの同盟国は先が見えなかった。まあこの世界に先が有る国なんて無いのかもね。ボクは悩んだ結果この同盟国で暮らす事にしたよ」


「それで、それからどうしたんだ?」


「住処が無くなったら困るからね。先ずボクは同盟国にある程度の力を付けさせる事にした。魔道具によってね。ボクは自分が戦場に出てわざわざ国の為に死にたくないしその義理もないしね。代わりに一般人でも魔法を使える様に魔道具の研究をし与える事にした。それでも帝国とは五分五分いやそれ以下かな。帝国は数が多く、こちらは少なかった。ボクは自室に篭りひたすら魔道具を作り続けたよ。その間先代が死にクリシュが王になった。ここに来て五十年、一人部屋に篭り魔道具をひたすら作り続けた。そんな時キミが来たんだ! キミはボクの見た目で判断せずに敬意を持って接してくれた。今までどんな人間もボクを子供扱いするかハーフエルフと知り差別するか、ボクの力だけを見る事しかしない者しか居なかったが、キミだけは違ったんだ!!」


 俺はその言葉に重たさを感じる。ムツキが俺に対する依存とは違い、長い年月孤独に過ごしてきた人間が出す重い孤独感だ。フィルナルドのそれが俺に重く絡みついて来る。


「どうしても、また帝国に行くの? ユヅキ? 今度は死んじゃうかも知れないんだよ?」


「俺が行かないとこの国が滅ぶかも知れない。俺にここ以外の居場所は無い。戦う以外に選択肢は無い」


 その言葉を聞きフィルナルドは目からハイライトを消し俺を下から見つめる。


「滅んでも良いじゃないか! キミの命より大切な物なんてないよ! そうだ! 二人でさ。旅をしようよ。こんな国なんて放って置いてさ。ボクは色んな所を旅したからキミに色んな物や色々な食事を紹介できるよ! 一人だと耐えられなかっけどキミと二人なら耐えられるよ? 何時かさ、旅をして平和な所を見つけそこで家を作って二人で住もうよ。ボクはハーフエルフだからキミより先には死なないけど、キミがもし死んでもボクは必ずキミの後を追うよ。キミを絶対一人にさせないよ! どうだい一緒に行かないかい?」


 フィルナルドのその言葉一つ一つが俺に重く圧し掛かる。一度敬意を払って接しただけで人はここまでになるのか? それほどまでにフィルナルドの孤独は長く辛いものだったのだろうか?


「悪いがそれは出来ない。俺にはムツキが妹が居るからな。ムツキを一人には出来ない」


「どうしてだい? キミは異世界転移者でムツキとは会って間もないはずだよ? どうしてそこまで入れ込むのかな?」


「俺はムツキに救われたんだ。今度は俺がムツキにアイツに居場所を与えてやりたい」


 それを聞きますますフィルナルドはエスカレートする。


「ボクはムツキが一緒でも構わない。キミがムツキと一緒じゃないと嫌だと言うならそれでも構わない! だからボクと一緒に旅をしないかい? ボクはキミを失いたくない。帝国と戦い続けたらキミは何時か死んでしまうだろう! ボクにはそれが耐えられない! やっと会えた。ボクをボクとして接してくれる人なんだ!! 絶対に逃がさない!!」


 フィルナルドが俺に抱き着いたまま離さない。旅をするそれも俺に取っては別に良い事かも知れないと俺は思った。俺はこの世界の事を知らなすぎる。お陰で今、帝国とクラスメイトと戦うハメになっている。


 何処か平和な所を見つけてそこでムツキとフィルナルドと暮らすのも悪くないとは思う。


「確かに旅をするのも悪くないかもな……」


「そうだよね! じゃあ早速行こうよ! 全てを捨てて!!」


「だけど断る」


「何で?」


 不思議そうにフィルナルドが俺に聞く。


「この世界は争いに満ちているんだろ? ならその平和な所を見つけても争いの火種が降りかかるかも知れない」


「その時は別の平和な所を探せばいいんだよ! この世界は広いんだ! 何処かボクらが安心して暮らせる場所があるはずだよ!!」


「帝国はお前が生まれる前から争い続けているんだろ? 帝国が力を付けた以上戦火は増々広がる。その分平和な場所は無くなる」


 それを聞きフィルナルドは押し黙る。


「俺は帝国を叩く。これは誰かに命令されたからじゃない。ムツキの居場所を守る為だ。ムツキを守るためなら俺はなんだってする。フィルナルド、お前と同じくな」


「考える事は同じだけど手段は違うのかい。ボクは逃げる為にキミは戦う為に……。キミは強いね……」


「俺は強くない、失ってばかりだ。だからもう失いたくない」


「そうかい。キミを止めるのは無理みたいだね。ならその作戦、ボクも参加させて貰うよ」


「戦争に参加して死ぬのは嫌だったんじゃないか?」


「イヤさ! でも、キミを失う方がもっとイヤだ!! だからさ、もう少しだけ……もう少しこうしてて良いかな」


 そう言いフィルナルドは俺に対する抱き着きを強める。俺はそれを受けいれ、フィルナルドの頭を撫でた。

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