作戦前の不安
エルセリアとの稽古を終え俺は夕食を取った。その時にフィルナルドが何時になく深刻そうな表情で俺に話しかける。
「ねえ、ユヅキ? 後でボクの部屋に来てくれないかい?」
「……別に構わないが」
「ぜったい来てね。待っているから……」
そう言いフィルナルドは食事を終え食堂から立ち去る。俺も食事を食べ終えてから他にやる事が無い為フィルナルドの後を追った。
フィルナルドの部屋の前に着いた俺はドアの前に立ちノックを三回する。すると扉の奥からフィルナルドの声が聞こえた。
「…………入っていいよ」
その声を聞き俺はフィルナルドの部屋の中に入った。
「用事って何だ? 食堂ではダメだったのか?」
俺の問いを無視しフィルナルドは話す。
「……ユヅキ、今回の作戦で意識不明になったんだってね?」
「ああ、そうだが?」
「それなのにまた東の植民地に行き、帝国と戦うんだろう?」
「どうして、その事を知っている?」
次の作戦の事を知っているのは会議室に居たクリシュ、一真、ライネスそして俺だけだ。俺は次の作戦の事をまだムツキにも伝えていない。
「クリシュから聞いたんだ、いや作戦に参加してくれないかと頼まれたんだけどね。そこでキミが参加すると知ったよ。キミは前回の作戦で意識不明になったのにまた危険を冒してまで何故また戦うんだい?」
何故戦うか? その言葉に俺は考えず即答した。
「それが仕事だからだ」
「……仕事かい? 仕事なら他に良い仕事が有るだろう? 命を掛けてまで死ぬかもしれないそんな仕事に価値は有るのかい? 他にも安全な仕事なら有るだろう? 何ならボクがクリシュに言って頼んでも良いよ。キミにもっとマシな仕事をさせる様にって、クリシュは人にしては善人な方だ。きっと良い仕事を紹介してくれるさ」
「俺はクリシュに頼まれこの仕事をしている。帝国に対する能力者としてここに雇われ住まわせてもらい。食事を貰っている。恩が有る。そう簡単には行かない」
「それでもクリシュは命に関わらない仕事をくれると思うよ。それに君は能力者だ。一人で生きていくなら困らないはずだ」
確かにその通りだろうクリシュは王としては甘さが有る、頼めば命に関わらない仕事を貰えるだろう。それに俺は能力者だ。能力を使えば生活には困らない程度には暮らせるだろう。
「確かにそうだな」
「だろう? ボクがクリシュに頼むよ。キミをこの作戦から外すように。危険な仕事をしないようにとね」
そう言いフィルナルドが部屋から出ようとする恐らく今からクリシュに言いに行くつもりだろう。俺はフィルナルドの手を掴みそれを止めた。
「どうして止めるんだい? これはキミの為なんだよ?」
「…………この作戦が失敗したらどうなる?」
フィルナルドが考え込み、そして答えた。
「……そうだね。作戦が失敗すると言う事は、異世界転移者の能力者が三十名近くがのさぼる事になるだろうね。それと帝国の研究している魔術兵器とやらが使われるだろう。戦力は帝国に大分上を行くだろうね」
「帝国が武力を増したらこの国は持たないんだろ? オスティニア国の様に」
俺はオスティニア国の跡地の事を思い出す。あそこは風化した骨達が未だ埋葬されず数えきれない程有る。能力者が七人であの有様だ。それが三十人近いとなると話さなくても結果は解るだろう。
「あの国を見たのかい? 酷い有様だっただろう? 人間は何時の時代も愚かな物さ。ボクが生きて来た限り、いや生まれる前から戦争、戦争、戦争さ。それ以外の事を争い以外を知らないのかな」
フィルナルドが何処か遠い目でそう言う。その眼は幾つもの地獄を見て来たようなモノだった。
「その言い方、随分長い間争いを見て来たみたいだな」
「ああ、長い間見てきたさ。この世界は常に争いが絶えず人が死に続けて来た。人以外も多く死んだよ。この世界は血に染まって出来ている。呆れるほどにね。殺し、殺され、また殺しその繰り返しさ。世界が出来た時から地上の中央に存在する帝国が絶えず戦争を仕掛ける事により争いは止まることなく人やあらゆる種族が殺され殺した。それに千年前に突然現れた魔王の存在により争いは泥沼と化した。もうこの世界は亡びの道を自ら進んで歩み続けているのさ」
それに疲れ果てたと言う様にフィルナルドは俺に寄りかかる。
「ねえ、ユヅキ? キミが帰ってきたらボクの秘密を教えるって言ったよね?」
俺は作戦前のフィルナルドの会話を思い出し答える。
「そんな事も言ってたな」
「今教えるよ。ボクはね──ハーフエルフなんだ」
そう言い長い髪に隠れた耳を俺に見せるその耳は先が細くなっていた。




