守るべき者の為に
「エルセリアさん俺に剣の稽古をしてくれませんか?」
朝食を食べ終わった俺は庭で素振りをするエルセリアに話しかける。
「剣の稽古? 何か心境の変化でも有りましたかな? 一度打ち合ってから考えさせて貰ってもよろしいですかな?」
「ええ、構いません。お願いします」
俺は腰から木刀を引き抜きそのまま構える。それに合わせエルセリアが木刀を構えた。
「何処からでもどうぞ」
エルセリアのその言葉を聞き、俺は木刀を振るう。勿論「調節」の力を使ってだ。俺の身体能力は「調節」で上昇しないと普通の中学生以下だ。それを能力を使い補う。
数回木刀が当たる音が周囲に鳴る。俺の剣は我流とも呼べない程酷く雑なものだ。
適当に目の前の敵に「調節」で上昇した身体能力で剣をひたすら振るうだけの簡単な物。それらは剣の達人のエルセリアの前では赤子の手を捻る様に簡単に受け止められる。それでも俺は諦めずに木刀を我武者羅に振るう。その俺の木刀ははじかれ、俺の喉元にエルセリアの木刀が当たる直前で止められる。
「前より良くなりましたね。剣の腕は前と同じ物ですが覚悟が違う。ただ目の前の敵を受け流すモノでは無く、剣に自身の意思を感じます。前の作戦で何か心の変化でも有りましたか?」
「解らない。でも守りたいものが出来ました」
「ふふ、良いでしょう。剣の稽古をしましょう」
「お願いします」
しかし剣の稽古は始まらずエルセリアは何やら考え込む。
「どうかしたんですか?」
「いえ、それが。私弟子など取ったことが無いため何を教えて良いのやら…………」
「俺は剣の事は知らず全くの素人です。教えて頂けるならなんでも構いません」
「そうですか。それなら私が師匠に学んだ時と同じ事をしましょう」
「エルセリアさんにも師匠がいらっしゃたんですか?」
「酷い師匠でしたよ。今も変わらず元気なのが憎たらしいですね…………。それでは始めましょうか」
エルセリアが木刀を構える。俺はそれを見て木刀を構えた。
「師匠が言うにはこの修業は敵の殺気を感じるそうです。今から私はユヅキ殿が防げない速度で攻撃を繰り返すので、それを避けるか防ぐかしてください」
言い終えると同時にエルセリアが木刀を見えない速度で振るう。俺は急ぎ「調節」で眼を強化して見えるように合わせる。身体能力もそれに合わせ目に見えた木刀を思いっきりはじく。
「ほう、今のを防ぎますか! ユヅキ殿は能力者でしたね? それは能力による物ですか?」
「ええそうです。俺は能力を使い身体能力を上げる事が出来ます。それより、これは剣の稽古に入るんですか?」
エルセリアが振るう木刀をひたすら回避するか防御するこれでは剣の腕が上がらない様に思える。
「ユヅキ殿は剣が上手くなりたいのでは無く。強くなりたいのでしょう?それならば問題は有りません。さて今度は貴方の能力の上を行きましょうか」
そう言いエルセリアが再び木刀を振るう。その速度は既に上昇させた眼でも捕えられない。「調節」はまだ使える。俺は更に動体視力と身体能力を上げてその木刀を防ぐ。
「ほほう! 今のを防ぎますか! 流石は能力者と言うべきですね。この老いぼれ楽しくなってきました! それでは次行きますよ!!」
エルセリアの木刀の速度が更に増して俺に襲い来る。その速度は能力で上昇しきった俺の眼でも見えない。
嘘だろ? 俺の通常時の百倍は身体能力を上げているんだぞ!? それを汗一つ流さず軽々と振るうのか? 目で見えなければ木刀を防げない。だがこれ以上動体視力を延ばすと身体能力の上昇分の能力が無い。身体能力を捨てたら回避は先ず不可能だ。俺は仕方なく動体視力の上昇を捨て全て動体視力の上昇に回し、防ぐのを止め回避する。
「そうそれで良いのです。目で見ると一手遅れるそれならば見ないで躱したり防げば良いのです」
「それ、相当無理言ってますよ」
「ほほほ、私も師匠に同じ事を言いました。師匠が言うには気を感じれば見る必要は無いそうです。そうしたら隙無く攻撃をしたり。防御が出来るそうです」
「俺にもその気を感じろと?」
「ええ! その通りです! それでは本番です。更に速度を上げますよ」
これ以上、上がるのか? 俺の「調節」での上昇はもう無理だ。攻撃が飛んでくる方向で何となく回避するしかない。俺は回避できず直撃する。その衝撃で吹き飛ぶ。
「さて、もう終わりですか?」
「…………続き、お願いします」
俺とエルセリアの稽古は夕食まで続いた。




