浸食されし精神 その③
俺は確か任務の為に帝国の植民地に向かっていたはずだが。頭が痛む中起き上がる。頭が痛むので手で押さえようとした時、ジャラッと言う音がして俺の手は頭まで届かなかった。
俺は両腕を動かす、だが腕は少ししか動かなかった。手に金属の冷たい感触がする。
嗚呼何時もの悪夢か、俺は自分が何時の間にか眠っていた事に気が付く。一体何時の間に眠ってしまったんだ?
同盟国から出てから「調節」で眠気を減らしていたが作戦中に限界が来て眠ってしまったのか?俺は周囲を見渡した。それはこの夢に違和感を覚えたからだ。何時もなら暗い地下室の中、無月が殺され始めているはずだ。だがそれが無い。
俺は何時も悪夢で見る暗い地下室に居らず、何処か見覚えがある一つの家の中に手錠に縛られていた。そこには四人の家族が居て食事を取っている。それを俺は遠くから手錠に縛られ身動きが取れないまま見つめる。
「明日から海外に行くの忘れてないか? 準備はしているのか有月?」
「父さん。今は食事中だよ。母さんも何時も言っているだろ? 食事中は静かにしろって」
「お兄ちゃんもお母さんも考えが古いんだよ! 折角家族全員居るんだからもっと楽しくしようよ!」
「……無月。全くお前は…………」
その会話を俺は遠目で見て直ぐに、大声を出し必死に止めようとする。
「やめろ! その旅行に行けば酷い事になる!! 絶対に行ってはいけない!!」
しかし俺の声は届かず家族は会話を続ける。
「有月! お前も今回の旅行は期待して良いぞ! 一番高いホテルも取れたし、父さんは一度行ったことが有るが料理も美味しいしな!」
「…………でも父さん。そこ最近治安が悪くなってきたってニュースで見たよ。少し心配だな」
「もう、お兄ちゃんは心配性だな、もう旅行は決まって明日には出発なんだよ? 今更行かないわけには行かないじゃん」
「無月も父さんも警戒心が無さすぎるよ。母さんからも何か言ってやってよ」
「父さんの休みなんて滅多に取れないのだから、そんな事は考えず楽しみましょう」
「母さんまで…………。もう仕方が無いな」
「やーい! お兄ちゃんの負けー!」
そんな会話を俺は遠くから聞く、俺は必死に手と足を動かそうとする。しかし手錠は何時の間にか手枷に変わり、足には足枷が付けられていた。
俺は必死にその枷を外しその家族の、俺の家族の旅行を止めようとする。足を動かす、手を動かす。声は枯れる程出した。
しかし家族には届くことは無かった。家族の食事が終わると同時に辺りが暗くなり、何時もの地下室に場所を変えていた。
目の前には殺人鬼が居る。既に両親は悲惨に殺されており、人の形をしていない。次はお前の妹の番だ。殺人鬼は目で俺に伝える。殺人鬼は泣き叫ぶ無月に両親を解体した巨大な肉切り包丁を見せて妹の反応を楽しんでいる。
「助けて! 助けて!! お兄ちゃん!!」
愛しい妹の助けを求める叫び声が俺に聞こえる。妹の眼には大量の涙が零れ落ち、恐怖で失禁をしながら抵抗をしている。
俺はそれを何時も見ているそれを見て必死に枷を解こうとする。だが外れる事は無い。それでも諦めずに枷を外そうとする。
俺が枷を外そうとしている間、妹は両親と同じく陵辱の限りを尽くされていた。殺人鬼は穴と言う穴を犯すとそれでは満足しないと言う様に包丁を使い穴を新しく作りそこも犯す。それは荒々しい物だが、妹を簡単に殺さない様に妹の全てを絞りつくして楽しむ様に丁寧に非道の限りを妹に尽くした。
俺はそれを見ている事しか出来なかった。妹の目は解体される中、常に俺を見てずっと俺に助けを求めていた。俺はそれに答えられずに…………。もう喋らなくなった無月に俺はひたすら謝る。
「すまない……すまない……。俺は…………またお前を見殺しに……すまない」
無月に対する謝罪の言葉は尽きる事は無い。殺人鬼は俺を殺そうと近づいて来る。俺は近づいて来る、殺人鬼を睨みつける。俺はこの殺人鬼を殺したい程憎んでいる。妹と両親に謝罪をさせながら後悔させる様に殺したい。だが、それが叶わないのを俺は知っている。
この後俺は殺人鬼に殺されずに銃を持った一真に助けられる。妹を殺した殺人鬼を復讐するべき人物を一真に奪われると言う形でだ。
勿論殺人鬼が一真に殺されなくても拘束された俺が殺人鬼を殺す事は不可能だろう。それでも、殺人鬼を殺す事は妹と両親を殺された俺に残された最期の希望だった。それを失った俺の人生は悲惨な物だった。日本に戻り孤児院に引き取られ、妹の居ない生きる意味の無い人生を無駄に過ごしてきた。俺の人生に希望はもう無く、ただ流されて生きていた。
殺人鬼が俺の目の前で妹と両親を殺した包丁を俺に見せつける。包丁は血とこびりついた肉だらけでもうまともに使用は出来ず切れ味も悪いだろう。
この後、殺人鬼は一真に殺される……そのはずだった、殺人鬼は包丁を俺に自慢する様に見せると俺から離れて別の方向に行く。
おかしい? 何時もの悪夢と違う? 俺は殺人鬼の行く方向を見るそこには一人の少女が居た。その少女を俺は知っていた。
銀髪の髪の毛、銀に輝く瞳、死んだ時の妹と同じぐらいの身長。それは異世界で出会った少女、ムツキだった。これは夢だ! 現実では無い! 俺は目の前の光景を目をつぶり見ない様にした。
これは現実では無いだから生きているムツキが殺される事は無い。俺は目の前に見えた光景を見なかった事にした。もう俺の心は限界だった。きっとムツキが死んだら俺の心は完全に壊れるだろう。
それが何故だか俺には解らない。ムツキと俺は他人だ家族では無い。なのにムツキが殺されたら俺の心が完全に壊れると俺は心で理解した。目をつぶり決して開けない。それが俺に出来る最後の抵抗だった。
そんな俺に小さく声が聞こえた。俺を呼ぶ声だ。
「…………ご主人」
その声を聞き俺は慌てて目を開ける。そこには無月と同じくムツキが殺人鬼に殺されそうになっているのが見えた。
俺はこの後どうなるか知っている。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も見てきたからだ。すぐさま俺は自身を縛る枷を外そうとする。そんな俺に話しかける声が聞こえた。
「お兄ちゃんは私を助けなかったのにあの子は助けるの?」
妹の無月の声だ。そんなはずは無い。無月は殺されてもう喋れない。俺は慌てて無月だったモノを見る。そこには首だけになって血だらけの無月が俺に話しかけている。
「お兄ちゃんは私の事なんてどうでも良くて、あの子の方が大切なんだ」
「違う! 俺はお前以外の事なんて!!」
バラバラの無月が俺に近づいて来て動けない俺に絡みついて来る。
「じゃあお兄ちゃんはあの子が殺されるのを私が殺されてるのを見ている様に見れるよね?」
無月が俺の耳元で話しかけてくる。俺はそれに答える。
「ああ、勿論だ! お前以外はどうでも良い!! だから無月俺を無力な俺を許してくれ!!」
黙ってムツキが殺人鬼に殺されようとするのを見ていると頭に声が聞こえた。
「…………ご主人……必ず……帰って来るよね?」
「…………私の……答えは……こうです……はい、ご主人様!」
「……誰? …………助けてくれたの?」
ムツキとの思い出が一つまた一つと俺の記憶に蘇る。俺にはもう何も解らなくなっていた。
耳元で愛らしくささやいてくれる無月、目の前で殺されるムツキ。二人の夢月とムツキが重なって見える。それを見て俺は考える事を完全に捨て、ただ名前を叫んだ。愛しい名を…………。
「無ツキィィィィィィィーーーーーーーーーーー!!!!」
その時俺を縛る何かが全て外れた気がした。
「…………ん。それで良いんだよ。…………ユヅキこれで貴方は完全に馴染んだ」
何かが聞こえた気がした。だがそんな事はどうでも良い。俺は殺人鬼に向け走り腰から木刀を抜き切りかかった。




