浸食されし精神 その②
圭とか呼ばれた女が俺に何らかの能力を使い攻撃したのは確かだ。俺は身体を重くする能力により地面に突っ伏されたまま考える。
女の攻撃それは俺には見えなかった。何か目に見えない塊の様な物が俺の全身にぶつかってきた。それは解る。
だがそれなら俺の「狂気爆弾」による「自動防御」が発生しないのは可笑しい。「自動防御」は俺に触れた瞬間に自動的に爆弾に変え俺に当たる前に爆発すると言う物だ。
例え見えなくても触れさえすれば爆破は可能だ。だが「自動防御」は発動せず女の攻撃は俺に直撃した。何故だ?
「へへへ! 何だよ! 調子に乗ってるわりには効くじゃあねェかァァァ!!」
春馬がそう言うと俺に向けて石を投げつけて来る。能力を使用しているみたいで石は通常の速度の十倍以上の速度で飛んで俺に当たる。
だが石は俺に当たる直前に爆破した。「自動防御」には問題は無いようだ。なら何故女の攻撃は俺に当たった?
「ちっ! コイツじゃあ無理か…………。なら圭もう一発やってやれェェェ!!」
「任せて! 春馬!」
春馬が圭に指示を出す。それと同時に俺に向かって何かが飛んでくるのを風で感じる。だが目ではそれが何か確認できない。
俺は身体を重くされている為、回避できずその攻撃をもろに受けて吹っ飛ぶ。俺の身体は一度宙に舞う。ある程度宙に浮くと地面に思いっきり叩きつけられた。
これは身体を重くする能力による物だ。それにより俺は再び地に縛り付けられる。俺は口から血を吐き捨て考える。
厄介だ。俺を地面に縛る身体を重くする能力。それと正体不明の攻撃をする女の攻撃。この二人の能力は俺にとってとても面倒な物だ。重くする能力により俺は手を動かすぐらいしか出来ない。それに正体不明の攻撃をする女の攻撃。これは俺の「自動防御」を無視して攻撃してくる。
他は雑魚だ何時でも殺せる。優先順位は俺を重くする女、次に謎の攻撃をする女だ。それ以外の順番はどうでも良い。先ずは最後の一人の能力を探る事から始めないとな。
「最高だぜェ! 最高ゥ! 圭お前の空気の塊を出す能力は俺達を見下すコイツには通用するぜェェェ! もっとだァ! もっとやっちまえェ!」
「春馬? そんなに慌てなくても良いぢゃん。私達健介のヤツが能力を手に入れてからろくにストレス発散出来てないし! 簡単に殺したらつまんないょ」
美輝が春馬に抱き着きそう伝える。やっぱりだ。こいつ等馬鹿だ!
俺は心の中で大きく笑う。この春馬とか言った男は余程知能が無いらしい。こっちが能力を探る前にペラペラと自分から仲間の能力を喋りやがる。
こいつ等素人だ。能力戦の恐ろしさはおろか殺し合いをただの遊びと勘違いしてやがる。自分が圧倒的上の立場に居て絶対に死なないと思っていやがる。
それは好都合だ。そのような連中ほど死ぬ前は良い表情を俺に見せてくれる。だが殺すには一つ問題が有る。
圭の能力は解った。どうやら空気の塊をこちらにぶつける様だ。だが空気って何だ? 聞いた事の無い言葉だ。少なくとも俺の居るこの世界の言葉では無い。なら異世界の言葉か? 俺に異世界の知識など無い。敵に聞いても答えるとは思えない。
ここはユヅキ・サヤマに聞くしか選択肢は無い。俺は近くで倒れているユヅキ・サヤマに話しかける。
「おい起きろ!! ユヅキ・サヤマ!! お前の出番だ! 起きやがれ!」
「…………すまない……すまない…………無月…………俺は…………お前を」
だがユヅキ・サヤマは俺の声を聞かずに何やら誰かにひたすら謝っている。俺は舌打ちをする。異世界人って言うのはどいつもこいつも使えない。簡単な仕事一つこなせやしない。
俺は今すぐユヅキ・サヤマを蹴りつけたいが、身体が重くされている為身動きは取れない。仕方が無いならやれる事は一つだ。
「…………その、空気って言うのは何なんだ?」
俺は春馬に聞く。俺の見た所コイツは馬鹿だ。敵が弱っているのを見れば調子に乗りペラペラと話すだろう。俺のその読みは当たった。
「へへへ! この原始人! 空気の事を知らないんだってよォ!!」
そう言い春馬は爆笑する。それに続き春馬の仲間達も笑う。
「ええマジ!? 空気の事も知らないの?」
「春馬さん! 異世界人ってバカばっかっすよ! これ俺達この世界取れるんじゃないっすか! 能力に勝てない雑魚ばっかですし、知能も無い! もう春馬さんこの世界の王になれますよ!!」
「この世界の王! それも悪く無いなァ! こいつ等を虐め抜いて殺したら俺は王になるぞォォォ!!」
春馬がそう言うと周囲の連中が歓声を上げる。
「春馬が王になるなら私は王女ぢゃん!」
「勿論だ! 美輝ァ! それにお前らもだ! これからは贅沢三昧! 逆らうヤツは皆処刑だァ!」
そんな世迷言を言っている連中に俺は再び聞く。
「それで空気って何なんだ?」
「ああん? まあいいお前の様な原始人に分かりやすく教えてやるよォ! 俺は優しいからなァァ! 良いか? 空気って言うのはなァ! この世界の身の回りに何処にでもある目に見えない物だァ! 原始人にもこれで理解できるだろォ!?」
なるほど魔力の様な物か、魔力は目に見えないがこの世界の何処にでも存在するらしい。それと同じで空気と言うのもその辺に有るのか魔力は触れる事が出来ない。でも空気は触れる事が出来る。それで俺に攻撃をした。それなら殺り方は出来た。後は奴らが完全に油断するのを待ち。そこで仕掛けを使うだけだ。
「さてと続きと行こうかァ!! 舞と圭はそのままそこの原始人をボコれ! 俺はそこで寝てる地味野郎をボコッて遊ぶ事にするぜェ!! 蒼生ィ! 能力を弱めろォ! 反応がねェとつまんねェからなァァァ!!」
そう言い春馬はユヅキ・サヤマの頭を思いっ切り蹴ろうとする。
不味いな、足手纏いと言えど作戦協力者だ。ユヅキ・サヤマを殺されるのは俺の同盟国内での立場を崩す。
だが身体が動かない以上は俺に出来る事は無くユヅキ・サヤマが蹴られるのを黙って見ているしか無かった。春馬の蹴りがユヅキ・サヤマに直撃した。
しかしユヅキ・サヤマにダメージは無くその場で誰かに謝罪を繰り返すだけだった。
「…………おい蒼生ィ! 俺は能力を弱めろと言ったよなァ!? 何でこの地味野郎は何も反応が無くダメージも無いんだァ!?」
「あれ? 弱めたんですけどね? それに俺の「浸食されし精神」にダメージを与えない何て効果無いっすよ! 能力弱めたんでもう一度蹴って見て下さい!!」
春馬はその言葉を聞き再び地に倒れるユヅキ・サヤマに頭に向かって思いっきり蹴る。
しかしユヅキ・サヤマには何の反応は無くただ謝罪を繰り返すだけだ。
「すまない……すまない……すまない無月…………俺は……俺は」
謝罪の勢いは収まらずに更に増すばかりだ。
「どうなっていやがる!? 蒼生ィ!! 能力は弱めているハズだろ!?」
「可笑しいですよ! 春馬さん!! 今俺は能力を完全に解きました!! それなのにこの地味野郎の精神は落ちるばかりで元に戻らないです!!」
奴らには見えないらしいが俺には解る。ユヅキ・サヤマの周囲に負の気配が流れているのが。戦場でよく見た事がある。一度その気配を纏ったものの末路はろくでも無いものだ。自身の欲望のまま行動して最後には必ず全てを無くして不幸のまま死ぬ。
ユヅキ・サヤマの負の気配は勢いを増し続けた。




