もう既に終わった事
同盟国から馬車から出て二日目、俺は帝国の東の植民地の近くまで戻ってきた。
「このまま作戦を開始するのか?」
俺は馬車の席で寝転ぶライネスに尋ねる。
「そう慌てるな。ユヅキ・サヤマ! 物事には順序って言うモノがある。行動に適した時間もな」
「なら、ここで時間とやらが来るまで待つのか?」
「いいや。長旅だったからな。攻め入れる前に最後の休憩を行う。作戦を開始したら、休む時間は無いからな」
そう言いライネスは一つの小山を指差す。
「あの山の上に一つの家が有る。家には元々は老夫婦が寂しく過ごしていてな、滅多に人がそこには来ない。老夫婦が殺された後も人が来ること無く。今でも老夫婦の死体はそこにある」
「どうしてお前がそんな事を知っている?」
「勿論、俺が老夫婦を殺したからに決まっているだろ? あそこは植民地を見渡すには丁度良い物件だったからな。一応殺して一か月様子を見たが人が来る気配も無かった。有り難く使わせて貰っている訳だ」
そう言いライネスは笑う。馬車は山を登りその家にまで着いた。外から見た所、家は荒れており手入れされていたであろう庭は雑草が生え散らかっていた。一目見ればとても人が居るとは思えない。
ライネスがその家のドアを五回叩く。
するとドアが開き中から一人の中年が現れた。中年はライネスを見て会話を始める。
「待っていましたよ。ライネスさん!」
「久しぶりだな。エイブン。早速だが俺が留守の間帝国の様子はどうだった?」
「一日前にアルガスタが戻ってきたぐらいで特に変わった動きは有りませんでした!」
「サンク・アーチの方はどうだ?」
「相変わらず見ていた限りでは屋敷から出た様子は無いです!」
「そうか、それは面倒だな。アルガスタの方はもう殺したも同然だが、サンクの方はどうやって殺すか……」
ライネスが何やら考え込む。だが俺には関係の無いことだ俺は自分に与えられた役目を果たすだけでコイツの作戦に進んで参加する気は無い。
「まあ、サンクの事は後で考えるか……。エイブン! アルガスタの婚約者はまだ生きているんだろうな」
「はい、生きてますよ! ライネスさん! まあもう声も上げなくなっちまってただの穴としてしか使えませんけどね。ここ数日俺の楽しめも減りましたよ」
エイブンが下品に笑う。
「てめえの下の事情なんてどうでも聞きたくもねぇよ。女はまだ生きているんだな? それなら良い腐って顔が解らなくなったら使い物にはならないからな」
そう言いライネスは家に入り隠し階段を使い地下に行こうとする。俺がそれを黙ってその場で見ているとライネスが俺に対して話しかける。
「なにボサッとしている? ユヅキ・サヤマ! 着いて来いよ」
「俺はお前の部下でも何でも無い、お前の指示に従うつもりは無いな」
「そんな事言うなよ、ユヅキ・サヤマお前にも見せて置こうと思ってな。今回の作戦の重要な協力者の一人の婚約者様をな」
俺は仕方なくライネスの後を着いていく。地下はとても暗く蝋燭の明かりのみが輝いていた。その部屋の奥に一人の全裸の女が見える。
その女は特に拘束はされていなかった。それも当然だろう女には足が付いておらず手も一本しか付いていなかった。その残った腕も手には指が薬指一本しか付いておらず、目は明後日の方向を向いていた。口からは言葉にもならない事をひたすら呟いている。
「ユヅキ・サヤマ。そう睨むなよ。これは今回の作戦に必要な事なんだよ。まあ一週間前にこうしたから今回の作戦の為にやった事では無いがな」
そう言いライネスは女に近づき触れる。すると女は爆破して頭と左手を残してそれ以外は消滅する。
「エイブン! 頭と左手を包んでおけ、左手の薬指は取れない様に丁寧に扱えよ! せっかく結婚が近いアルガスタの為にわざわざ残して置いたんだからな」
「はい! ライネスさん!」
エイブンは何処からか革袋を持ってきて女だったものを袋に仕舞う。
「ケビスが来たらこの手紙と共に渡せ! アイツは物忘れが激しいからな手渡す時にクインの実を一緒にアルガスタの屋敷に置くのを忘れない様に言って置け、俺は夜に備え少し寝る」
そう言いライネスはエイブンにポケットから手紙を取り出し投げ渡す。
「…………ユヅキ・サヤマ? いい加減、木刀を握るその手をどけて睨むのを止めろよ。この件はお前にはどうにも出来ない既に終わっていたことだ。そんなに気に病むなよ!」
ライネスが不愉快な笑みを浮かべながら俺の肩を軽く叩く。俺は直ぐに気が付く、こいつがこの光景を俺に見せたのはただの嫌がらせだ。
俺は無意識に握った木刀から手をどける。だがライネスを睨むのは止めなかった。
「そんなに気を張っていると後が持たないぞ。ユヅキ・サヤマ? 夜までは特にやる事は無い、今の内に寝て置いた方がいいぞ?」
そう言うとライネスは睡眠を取る為に一階の寝室に移動する。
俺はこれ以上このいかれた連中と同じ空間に居たくなかったため、家から出て外の空気を吸いに行った。




