滅びた国
「今回の作戦は一般人の犠牲は出さないはずだろ?」
俺はライネスに問い質す。それに対しライネスはにやつきながら答える。
「ユヅキ・サヤマ! 今回の作戦では一般人の殺害は許可されていない。だがな、今拘束している女は今回の作戦が始まる前に捕まえた。つまりは命令違反にはならないという事だ」
「そんな屁理屈が──」
「問題は無いさ! 相手は敵の幹部の一人の婚約者だ。一般人とはとても言えないよな? 帝国軍の情報を十刀聖騎士アルガスタから聞いている可能性もある。拷問を掛けて情報を聞くもよし、人質にしてアルガスタの首を取りに行くにも使える。とても理に適ってるだろ? 余す事なく使える。骨まで使える優秀な俺達の敵さ」
俺には会ったこともない十刀聖騎士アルガスタの婚約者がどのような立場か解らない。そのためライネスにそれ以上何も言えなかった。
俺の任務はライネスにクラスメイトの能力の情報を教えるだけだ。コイツと必要以上に関わる事は無い。
「ライネスさんはこういう人だからな。慣れて置いた方がいいぜ! 坊主!」
ライネスの部下が俺を馬鹿にする様に話す。俺はそれを無視した。
「そんなに睨むなよ。ユヅキ・サヤマ! 俺達は仲間なんだ。そんなに俺を殺そうとする程の熱い眼差しで見ないで欲しいな」
ライネスが俺に話しかけてくるがそれも無視する。コイツ達と話していても時間の無駄だ。俺は目を閉じそれ以上のライネスとの会話を拒絶した。
「無視するとはつれないなぁ、まあいい。そんな事よりもケビス! お前は先に東の植民地に行き、クインの実を売って来い! 植民地に入れる通行許可証を持っているのはお前だけだからな」
「ライネスさん? 今回は北東の時と違い民間人の犠牲は出さないはずじゃあ?」
「保険だよ、保険。一応準備はして置いた方が良いからな。俺だって教会に指名手配されたくは無いが、万が一がある。撒いて置いて損は無い」
「わかりました! ライネスさん!」
ライネスと部下の会話が終わると馬車が森の途中で止まる。部下の一人が他の馬車に乗り移り帝国の東の植民地を行く道をそのまま向かう。それに反し、俺達を乗せた馬車は別の道を行く。
「どういう事だ。こっちは帝国に行く道じゃ無いだろ?」
俺はライネスに尋ねる。
「ああ? お前は異世界人だから知らないのか? あの道は教会の許可のある者達しか使えない。許可が下りるのは教会関係者か商人しか無理だな。俺達みたいな日陰者は別ルートを通るしかない。だが森の北の方は戦場でな、余り派手には動けない」
馬車は森を抜けて一つの大きな国に入る。その国は他の国と違う所が有った。人が一人も居なく、遠くから見ても家や城などが大きく欠けている。人の代わりに道には人の骨がそこら中に落ちている。
人の骨が無い場所は見渡す限りは無かった。
「ようこそ。ユヅキ・サヤマ! ここは俺の故郷のオスティニア国だ! いや、元と言った方が良いかな?」
ライネスは大きく笑いながら俺に言った。
「お前は俺に故郷を見せたくてここに寄り道したのか?」
「なんだ、冗談も言えるじゃあないか? いいや寄り道じゃあ無い。ここを通り植民地まで行く」
馬車は骨などを踏みつけながら先を進む。
「ライネス・クリューケント。オスティニア戦争の事はクリシュから聞いた。お前はこの国を自分の国を見て何とも思わないのか?」
「故郷と言えど思い入れは無いな! この世界は争いに満ちている。この国が滅びたのも自然な事さ」
ライネスは何ともないと言う普通な顔で答える。
「お前にも両親が居たんだろ? なら何かこの国のこの風景に感じる事の一つぐらいあるだろ」
「ああ、俺も人の子さ、当然両親が居た。俺が十の頃かな? 帝国がこの国に攻めてきた。当時の俺達は突然の事で何が起こったか解らなかったよ。後で帝国との戦争がこのオスティニア国にまで来たと知った。父親は軍人だったからな。そのまま戦場になったこの国で死んだよ。腹に子供が居た母を残してな。俺達は帝国に蹂躙されて俺の母親も友達もその時皆死んだよ」
ライネスが昔を懐かしむ様に言う。
「それなら、何故平気で人を殺す? 帝国を憎んでいるからか?」
俺はライネスに尋ねた。
俺にはライネスと言う人物が良く解らない。俺にはコイツが妹と両親を殺した殺人鬼と同じに見える。
殺人鬼が俺の妹と両親を殺した理由や動機は解らない。だがコイツがオスティニア戦争で家族を殺された事で狂ったなら、帝国の人を殺すのも、人を簡単に殺すのも多少は理解できる。
「いいや、帝国には感謝しているさ! あの戦争の中、人の死体を食って生き長らえていた俺はある日、帝国兵と出会った。その時武器も無く子供の俺はそこで死を覚悟した。だが俺は死ななかった。死んだのは帝国兵の方だった。爆発音と共に帝国兵は身体が吹っ飛んだ。その時俺は能力者に目覚めたんだ。その時の事は今にも思い出せる。神に選ばれた様な幸福な気分だったさ! まだ子供の俺に大人共! いや年齢問わずに恐怖した! 俺はそれから手当たり次第に殺した。男、女、子供、大人、老人、赤ん坊。色々殺した! 反応はどれも違い一期一会のモノだった。だが一つだけ同じ所が有った。どいつも最後は悲鳴を上げ目の前俺の事を考えて、俺の事だけを考えて死んでいった! 俺の幸福は途切れる事無く続いた。ある時が来るまでな」
そう言うとライネスは俺の事を見る。その眼は見たことのあるものだった。
「──ユヅキ・サヤマ! お前が俺の絶頂を止めたんだ」
ライネスは笑いながら言う。だがその眼は笑っていなく今にも俺を殺そうとしているのが解る。その眼は俺の妹と両親を陵辱し、とても人の死に方とは思えない殺し方をした殺人鬼と同じ眼だ。
俺には解る。コイツはライネス・クリューケントは環境のせいで人殺しになったのでは無い。コイツは生まれたときから殺人鬼になるべきして生った人間としてクズ以下の男だ。
俺は目の前のライネス・クリューケントを無意識に睨んでいた。




