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守りたい約束

 俺はベッドで横に成りながら、同じくベッドで横に成っているムツキに話す。


「ムツキ、俺は明日から仕事の為しばらく屋敷に居ない」


「…………私も……着いていく」


「今回の仕事は危険な物らしい、お前を連れていけない」


 俺はムツキにそう告げる。今回の作戦にはムツキを殺そうとしたライネスが居る。出来ればアイツにムツキの姿を見せたくない。

 ムツキは考え込み、しばらくしてから口を開けた。


「…………わかった……ここで……待ってる」


 思ったよりすんなりとムツキは屋敷で待っていると俺に言う。


「この屋敷に戻って来るのは少なくとも四日以上は掛かる。今日見たいにずっと待ってなくてもいい」


「……わかった」


 ムツキは二つ返事で答えたが多分、いや間違いなく飼い犬が主人の帰りを待つ様に待っているだろう。俺はエルセリアとフィルナルドに余りにも酷い状態なら止めて欲しいと頼んでおいた。フィルナルドは兎も角、エルセリアは信用の出来る人だ。出会って間もないが態度や行動で彼は信頼できる人物だと、俺は感じた。

 俺が屋敷を留守にしている間ムツキの心配はしなくても良いだろう。そんな事を考えているとムツキは俺に話しかけてきた。


「…………ご主人……必ず……帰って来るよね?」


 目に涙を溜めてムツキは俺に言う。それに対し俺は一瞬、昔無月が俺が出かける時に似たような事を言っていたのを思い出した。俺は無月とムツキが重なって見えたのを振りほどき、昔無月に言った言葉と同じ言葉をムツキに言う。


「ああ、必ず帰って来る。そんなに心配するな」


 そう言い俺はムツキの頭を優しく撫でた。ムツキは目に溜まった涙を手でふき取り俺に優しく微笑む。嗚呼同じだ。無月が昔見せた反応と全く同じだ。俺はその反応を見て、自身の中に複雑な感情が込み上げて来るのを感じる。


 何処か昔を懐かしみ嬉しいような。自身の妹の名前を名付けた少女が妹と同じ反応を見せた事に妹を感じた事による無月に対する自身に対する軽蔑感。そんな事を知らずに目の前で俺に依存するムツキに対する罪悪感。それらが俺に襲い掛かる。


 ムツキが俺に依存しているのは俺が無月とムツキを無意識に同一視している事にあるだろう。俺はこの小さな少女に無意識の内に妹と重ね、死んだ妹の様に振る舞って欲しいと思っている。


 俺はそんな自分自身に吐き気を覚える妹は既に殺され死んだ。無月の変わりなど世界の何処にも、世界が変わっても存在しないのだ。


 自分自身のそんな考えに耐え切れず俺は吐き出す為に目の前の少女に言おうとした。


「なあ、ムツキ。俺はずっとお前の事を──」


 そこから先の言葉を俺は吐き出せない。目の前の少女を妹の変わりにしようとしていた。俺は自身のその感情に嫌気が差し、目の前の少女に謝罪しようとする。だが理由が解らないが口に出せない。


「…………どうしたの……ご主人?」


 ムツキが不思議そうな顔をして俺に尋ねる。俺はその顔を見て口に出そうとした言葉を完全に飲み込んでしまう。


「……いや、何でも無い。気にしないでくれ」


 俺がそう言うとムツキは俺をいきなり抱きしめてくる。俺はそれに戸惑いムツキに聞く。


「ムツキ。どうしたんだ? 急に」


「…………昔……私が寝れない時……育ててくれた人が……こうしてくれた」


 そう言いムツキは俺の頭を優しく撫でてくる。


「…………ご主人……全然寝てない……みたいだったから」


「俺が寝ていないの気づいていたのか?」


「…………うん」


 ムツキは手を止める事無く、俺を寝かせようとしてくる。俺は抵抗せずに受け入れる。

 ムツキの体温を俺は直に受ける。ムツキの胸が俺の顔に当たる。そこから心臓の音が聞こえる。暖かい何処か懐かしい感覚だ。俺はムツキの心臓の音を聞き、そこに人が生きているのを感じた。それは当たり前の事なのだが。俺にはとても懐かしい感じがする。人が目の前で生きている。そんな当たり前の事を俺は今まで考えられなかった。


 両親が無月が目の前で殺されて、俺は自分が生きている。他者が生きていると言う事を無意識で考えない様にしていたんだろう。心臓の音を聞き俺はそこに生きている人間が居る事を五年ぶりに思い出す。


 すると「調節」で無理やり抑え込んでいた眠気が一気に襲い掛かる。眠ればまた両親と無月が殺されるだろう。でも、ムツキの暖かさを感じて。それでも良いと俺は思った。


 普段の俺なら例え夢でも無月が殺される光景など見たくない。だから俺は能力を使い何時か限界が来ると思っていても眠気を抑え、寝ない様にしていた。そのムツキの暖かさと共に寝れるなら俺は悪夢を見ても良いと思った。


 薄れ行く意識の中で耳元に声が聞こえた。その声はとても優しくまるで天使が俺だけの為にささやいてくれたみたいだった。


「…………おやすみ」


 その声を聞くと俺は意識を完全に手放した。その日俺は悪夢を見なかった。

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