キミにあげる贈り物
俺は研究室でただ椅子に座りフィルナルドを待っていた。五分ほどするとフィルナルドは研究室に戻って来る。手にはコートの様な物を持っている。
「待たせたね。ユヅキ! これ着てみてよ!」
そう言いフィルナルドは手に持つ黒いコートを俺に手渡す。俺はそれを受け取り身に纏う。
「うんうん、サイズも昨日計ったからぴったしだね! 似合ってるよ。ユヅキ!」
フィルナルドは頷きながら話す。
「計ったって、何時の間にだ?」
「それは勿論、キミがお風呂に入っている時だよ。その時に服のサイズを測ったんだ」
ちっとも罪悪感など無い笑顔をフィルナルドは俺に見せる。俺はそれに突っ込むのも面倒なので特に触れずにいた。
「どうして、俺にこのコートを着せたんだ?」
「フフフ。それは勿論キミにそのコートをプレゼントする為さ。キミ半袖だろ? まだ今は冬だ。身体を冷やしたら風邪を引くよ! キミは明日から任務の為、帝国まで行くんだろ? そしたらその半袖じゃ持たないよ」
俺の服は学生服のズボンと洗濯して白に戻った半袖のシャツだ。「調節」で寒さを感じない様にしているが、能力を解けば冬の寒さが俺に襲い掛かるだろう。俺は有り難くコートを貰う事にした。
「ありがとう。大切に使わせてもらう」
「うんうん、大切に使ってね! そのコートはキミに合わせて作ったよ。そのコートはある程度なら血を弾くし、ボクが手間暇かけて魔力を込めたからね。ある程度の攻撃なら防げる特別性さ!」
自身満々にフィルナルドは言った。
「どうして俺にここまでしてくれるんだ? 能力者が嫌いなんだろ?」
「それは勿論ボクがキミに好意を抱いているからだよ。確かにボクは能力者が嫌いだ! 大嫌いだ! でもねユヅキ、キミは初対面のボクに敬意を持って接してくれた。ボクはこの見た目だからよく子供扱いされるのさ。でもキミはボクを大人と見て接してくれた。だからボクはキミが能力者でも好意を持って接するよ! ボクはキミに死んでほしくないからさ」
フィルナルドはそう言い放つ。
「ライネスはさ、とんでもないヤツだよ。アイツは人を殺す事を何とも思っていない。呼吸をするのと同じ感覚で人を簡単に殺せる。そんなヤツと一緒に行動するという事はいつ死んでもおかしくない危険を抱えるという事なんだ。ホントはあんなのとキミを関わらせたくない。でもキミは行くんだろ?」
「ああ、それが俺の仕事だからな」
俺は即答する。今回の任務は俺にとってこの世界で初めての、いや人生で初めての仕事と言えるだろう。
生活するには金が必要だ。金を手に入れるには自分で働き金を稼ぐ必要が有る。この世界に、いや元の世界でもそうだが俺には親族が居ない。俺を養ってくれる人物は居ない。なら俺は自分で動き働くしかないのだ。
「そうかい。キミならそう言うと思ったよ。キミが死なない様にボクに出来るのはこれぐらいだよ。ボクはさ、キミと一緒に色んな所に遊びに行ったり、美味しいものを食べたりさ。まだやりたい事が沢山有るんだ。だからさ、どうか死なないでくれよ」
「俺は最初から死ぬつもりは無い。コート有り難く使わせてもらう」
俺はそう言いフィルナルドの研究室から出ようとする。するとフィルナルドに呼び止められる。
「ユヅキ! キミが帰ってきたらさ。ボクの秘密を教えるよ! だからさ死なないって! 生きて帰って来るって約束してくれないかい!」
フィルナルドはそう俺に言う。フィルナルドの顔は何時もと違い真剣な表情だった。
「ああ、約束する。必ず生きて帰ると」
俺はフィルナルドにそう言った。
「ぜったい! ぜったいだからね!」
俺はフィルナルドに背を向けて自室に戻った。
自室に戻った俺は再びベッドに横になった。横になっていると考えなくても良い事が浮かんでくる。暇になると俺は無意識に無月の事を考える。無月とは無月が死ぬまでの間、常に一緒だった。
俺達はとても仲の良い兄妹だった。
今でも目を閉じると近くに無月が居る様な気がする。気がするだけだ。勿論近くに無月は居ない無月は殺されもう二度と会う事が出来なくなったからだ。
俺は無月の事を考えない様にする。でも直ぐに無月の事を考えてしまう。楽しかった時の事、喧嘩した時の事、一緒に遊んだ事、そして無月が死んだときの事。浮かんできては考えないようにするのを何度も何度も何度も繰り返す。だが最後には無月が殺され必ず死ぬ。
そんな何時もの時間を過ごしているとドアが優しく叩かれる。俺はドアを開けた。そこには枕を持ったムツキが居た。
もうそんな時間か。
俺はムツキを部屋の中に入れた。




