帰宅
クリシュからオスティニア戦争の話を聞き終え、俺は屋敷に馬車に乗り戻る。辺り一面は既に暗く、道路照明塔の明かりだけが辺りを照らしている。
この国は俺が思うほど文明レベルが高く、現代社会に慣れ切った俺でも今の所不便な思いはしていない.
それは屋敷での生活や、馬車に乗りながら人々の生活を見れば解る。馬車が屋敷に到着すると俺は馬車から降りて屋敷の中に入る。
そんな俺を迎え入れるのはムツキだった。ムツキは屋敷に帰った俺に気づくとそばに近づいてくる。
「…………遅かった……ご主人」
ムツキは何時も通りの無表情で俺に話しかけてくる。
「ずっとここで待っていたのか?」
「…………フィルと……エルセリアが……帰ってきたのに……ご主人が……帰ってこないから……心配だった」
俺はそれを聞きムツキの手を触る。その手はとても冷たかった。フィル達が屋敷に戻ったのは俺より四時間ほど前だ。その間ずっとここで待っていたのか? 俺はムツキの事を考えた。俺が思う以上にムツキは俺に依存している。これからしばらくの間俺は任務の為に屋敷を少しの間離れる事に成る。帝国の東の植民地に戻る事に成る為、少なくとも四日以上は屋敷に居ない。
その間ムツキはおそらく今と同じ様に俺を待っているだろう。後でムツキに注意しなくてはな……。
「…………ご主人……夜ご飯出来てる……食べる?」
「ああ、食べる」
その言葉を聞き、ムツキは俺を食堂まで連れて行く。食堂には俺達二人だけで他に人は居ない。昨日とは違いとても静かだった。
「……今……温め直す」
そう言うとムツキはまだよそってない料理を温める。俺はその風景を見ていた。料理は鍋に入っている。鍋は火を使い直接温めているのでは無くどうやら温泉の時と同じく魔力の力を使い調理しているみたいだ。
ムツキはコンロに描かれている魔法陣に手をかざす。するとコンロが赤くなり、しばらくすると鍋がグツグツと言う音を立てる。
この様な細かい所に文明レベルの高さを窺える。火を使っていない為まだ子供のムツキでも簡単に安全に料理を作れる。この魔術コンロはこの屋敷以外にも使われているのだろうか?
もし他の一般家庭にも使われているのであれば、戦争中にも関わらずこの国には余裕が有ると思う。民間人の生活が安定していると言う事は国が安定していると言う事だ。そんな事を考えていると料理が温まったのかムツキが皿に料理をよそい。机に並べていく。
その料理を見て俺はムツキに尋ねる。
「この料理もしかしてムツキお前が作ったのか?」
「…………うん……エルセリアに……教えて貰いながらだけど……作った……昨日……ご主人が……美味しいって言ってたから」
俺は料理を箸を使い食べる。ムツキの作った料理はとても美味しかった。
「…………ご主人……美味しい?」
ムツキは少し緊張している様な顔で俺に尋ねる。俺はそれに答えた。
「ああ、とても美味しいよ。ムツキ」
その声を聞くとムツキは嬉しそうな顔をする。
「……ご主人が……喜んでくれて……良かった……これから……毎日作る」
「ああ、頼む。ムツキ」
ムツキは「うん」と言い首を縦に振りうなずく。俺が食事を食べている間ムツキは静かに俺を見ていた。
食事を終えると俺は自室に行く。部屋に戻っても特にやる事は無いが、かといって他にやる事も無い。
俺はやる事が無く自室のベッドで身体を横にしていた。
そんな何も無い時間を過ごしていると、ドアが荒々しく叩かれそのまま開けられた。
ドアを開けた人物はフィルナルドだった。
「ユヅキ! 今暇かい? 暇だよね! じゃあ着いて来て!」
フィルナルドがベッドに横になっている俺の手を引っ張り俺を何処かに連れて行こうとする。俺はベッドから立ち上がりフィルナルドに言う。
「まあ暇だが、そこまで慌ててどうしたんだ?」
「えへへ。それは着いてきたら直ぐに解るよ!」
フィルナルドは俺の手を引っ張るのを止めずに更に引っ張る。俺は仕方が無いし、やる事も特に無いため黙ってフィルナルドに引っ張られ、部屋を出た。
部屋を出てフィルナルドの後を着いて廊下を進む。フィルナルドは俺の手を握り、階段を上り二階に連れて行く。
着いた場所はフィルナルドの研究室だった。フィルナルドは研究室に俺を入れる様に引っ張って来る。俺は大人しく研究室に入った。研究室の中は昨日と変わらず、床には色々な魔術道具であろう物が雑に置かれている。
「まあ、とにかく座って待っていてくれたまえ。ボクは準備があるから少し離れるね!」
そう言うとフィルナルドは研究室から出て行き、俺は研究室に一人になった。




