対帝国軍会議 その①
朝食を食べてしばらくした後クリシュが屋敷にやってきた。
「昨日ぶりだね。ユヅキ君」
「国王自ら俺を迎えに来たのか?」
「この会議は私に取ってもとても重要でね。ここに居る君を含めた三人を案内するには私自ら迎えたほうがいいと思ってね。特に「魔女」殿は気難しい性格だからね」
確かにフィルナルドの性格は自己中心的だ。この国に欠かせない人材で有るらしいが。性格は手に余りそうだ。そんな事を考えているとフィルナルドが現れ口を出す。
「うぇーボクも会議に出なきゃダメなの? クリシュ? 堅苦しいのは苦手だって長い付き合いの君なら解るだろう?」
フィルナルドは嫌そうに話す。
「フィルナルドあまりわがままを言わない事です。クリシュ? 貴方がここまで来ると言う事は事態は深刻なのですね」
何処からか現れたエルセリアが話す。
「ああエルセリア。今回の件はオスティニア戦争以来の危機だと私は思っている」
クリシュがエルセリアに対して答える。
「オスティニア戦争以来の危機!? それは不味いですね。フィルナルド会議に出席する以外の選択肢は無いのは二つ名持ちの貴方なら解るでしょう? 行きますよ!」
「そこまでの事態なら仕方ないかー。嫌々だけど会議には出るよ。出るだけだけどね」
このオスティニア戦争とやら度々聞くがそれほど悲惨なものなのだったのだろうか?
まあ、異世界から転移した俺にはこの世界の十年も前の戦争は関係無いか。俺は戦争の内容を詳しく聞かず。ムツキと共に用意された馬車に乗ろうとする。
「申し訳ないが。ムツキちゃんは着いてこない方が良いだろう」
そう言いクリシュが俺達を止める。
「……どうしてだ? 理由が有るなら聞かせて欲しい」
俺はクリシュに尋ねる。クリシュは重く口を開ける。
「……今回の会議はオスティニア戦争の話題が出る可能性が高い。その会議にオスティニア人の生き残りの彼女にあまり聞かせない方が良いだろう」
俺は少し考え込む。オスティニア人のムツキに聞かせない方がいい話が出るかも知れない? それはムツキのトラウマをほじり出すかも知れないのか? ムツキが俺に耳打ちする。
「……ご主人……私なら……大丈夫……ご主人と……一緒なら……大丈夫……だから」
その声を聞き俺は再び考え込む。ムツキを連れて行くか?
いやここは止めて置こう。オスティニア戦争がどれだけ悲惨な物なのか異世界人の俺は知らないが。周りの大人たちが皆して暗い顔をする。それは余程の事があったと言う事だ。
それに前に聞いたオスティニア人特有の銀髪の髪を持つ者がほとんど殺されたと言う話も気になる。ムツキに辛い思いをさせるだけになるだろう。ムツキは着いてきたがっているが、ここは屋敷で待っていてもらおう。
「ムツキ悪いが。屋敷で待っていてくれないか?」
ムツキは悲しそうな表情をしていつも通り答える。
「…………解った……ご主人」
その会話を聞きクリシュが話す。
「話が付いたようだね。警備の者を屋敷に置いて行こうムツキちゃんの心配はこれで無いはずだ。ユヅキ君」
「ああ、解った」
クリシュが部下に指示を出しムツキが生活に困らない様に女性の兵士を数人屋敷に配置する。俺はそれを確認して馬車に乗り込んだ。
馬車の中には既にエルセリアとフィルナルドが座っている。
「では出発しようか」
クリシュの発言と共に馬車は城に向けて走り出した。馬車が走る間エルセリアとクリシュが話している。俺はその会話を横に居るフィルナルドがちょっかいを出してくるのを躱さずに受けながら聞く。
「クリシュ? 他の参加者は揃っているのですか?」
「ああ、エルセリア。教会の「雷鳴」と司祭以外は全員揃っている。後は私達で全員だ」
「そうですか。「雷鳴」はまだ戦場に居て参加出来ないのですか?」
「どうやら戦場に十刀聖騎士の一人のアルガスタ・オーズリーが居るそうでね。苦戦しているそうだ」
どうやら十刀聖騎士と言うのは余程強いみたいだ。俺はサンク・アーチと名乗る男にしか会ったことが無いが。ソイツも強かったのだろうか?
俺は出来れば十刀聖騎士と出会いたく無いと思った。十刀聖騎士と会うという事は同盟国に居る俺に取っては敵と会うという事になる。戦闘や面倒事など出来れば可能な限り無関係で俺は過ごしたい。
俺がそんな事を考えていると馬車が止まる。城に着いたのだろう。俺達は馬車から降りて城の中に向かう。そのまま廊下を抜けて昨日食事をした部屋に案内された。
机の周りには既に五人の人が居た。その中には見知った者も居る。
一人の男が俺に気が付くと話掛けてくる。そいつの事はこの前会った為知っている。
「よお! 久しぶりじゃあないか? ユヅキ・サヤマァァァ!!」
男は叫び笑いながらこちらを見る。俺は反射的に腰に差している木刀を握り構えようとする。
それに気づきエルセリアが俺の木刀を握る手を抑える。フィルナルドが男に話しかける。
「当然といえば当然来てるよね。キミの事。ボクあんまり好きじゃ無いんだよね」
ため息をしながらその男から離れた席にフィルナルドは座る。
「「魔女」様は相変わらず小さいようで、外に出ないから成長しないのでは?」
「次ボクの身長の事を話したら手加減はしないよ。喧嘩を売ったのはキミなんだから」
フィルナルドの魔法で出した風により男の頬から血が流れる。男は舌でその血を舐めとる。
「ユヅキ殿! 何が有ったか知らないがここは抑えて下さい!!」
エルセリアが俺を止める。それに気づき俺は無意識に握る木刀から手を離す。
「……ライネス面倒事を増やすな」
「はいはい。雇い主様」
クリシュと同じく気品溢れる男がライネスを止める。
目の前に現れた男は帝国で大量虐殺をしたライネス・クリューケントだった。




