眠らない夜に
風呂場から出て俺達は用意されていた浴衣の様なものを着る。そして部屋に戻る際にフィルナルドとすれ違う。
「やあ。ユヅキお風呂は満喫できたかい? 一緒に入れなくて残念だよ!」
「ああ、久しぶりにゆっくりできた」
俺がそう言うとフィルナルドは俺とムツキを交互に見る。
「君たち一緒に風呂に入ったね?」
「……うん……入った」
ムツキがいつも通りの表情で答える。不味い。俺の感がこれから面倒な事になると告げている。
俺はムツキを置いてすぐさま自室に行くことにした。ムツキも自分の部屋の場所は知っている。問題は無い。
「ねえユヅキ! ボクと一緒にお風呂入らなかったのにムツキと一緒に入るってどういう事だい?」
だがそれに答える者は居ない。既に俺はその場に居なかった。俺の変わりにムツキが答える。
「……私と……ご主人は……兄妹……自然な事」
「ムツキ何時までもお兄ちゃんに甘えちゃダメだよ! 確かにユヅキは甘え安いけどそれに頼ってちゃあダメだ!」
「……フィルも……ご主人に……甘えてる」
「ボクは良いの! それよりフィルって呼ばないでユヅキだけが呼んでいるの」
俺は部屋に向かうまでの間その言い争いを聞いていた。言い争いは俺が部屋に入ってからも続いているのが遠くから聞こえていた。
部屋に入った俺は久しぶりに一人になった。そんな一人の時間で俺は考え込む。俺は無事に自分の住む場所と職をこの同盟国で手に入れた。
これで、この異世界でしばらくは大丈夫だろう。クリシュの私兵として働く事になったが。俺は能力で今までの戦闘を何とか切り抜けてきた。これからも能力を使えばこの異世界で無事に生きていけるだろう。
一人になると次々に考えが浮かんでくる。俺は元の世界の事を考えた。
あの世界には俺に残された物は何も無いが俺の両親と妹の墓が有る。唯一の最後の家族の俺が居なくなって墓を掃除する者はもう居なくなるだろう。
それだけが元の世界で俺が残した未練だ。この異世界のことや元の世界の事を考えていると何時も寝る時間になった。
俺に眠気が襲う。俺は「調節」で眠気を限りなく小さくする。可能な限りは寝るつもりは無い。眠れば悪夢が俺を襲うからだ。できる事ならばあの悪夢を見るのを避けたい。用意されているベッドで横になっていると部屋の扉を叩く音がした。
俺は立ち上がりドアを開ける。そこに立っていたのは枕を抱えた浴衣姿のムツキだった。
「……ご主人……寝てた?」
「いいや、起きてた。どうしたんだ? ムツキ?」
俺は部屋の中にムツキを入れ扉を閉める。そのまま俺達はベッドに座った。ムツキは少しの間黙り込みしばらくして声を出す。
「……ご主人と……一緒じゃないと……寂しくて……寝れない」
ムツキは目に涙を溜めて言う。ムツキと出会ってからずっと寝る時は隣に居たからな仕方ないか。
「しばらくは一緒に寝てもいいが、その内一人で寝ろよ」
「……うん……ご主人」
ムツキは枕に頭を乗せベッドに横になる。俺はその横に入る。ムツキが来たが俺が寝ない事に変わりは無い。
「俺だって何時までもお前と一緒に居られる訳じゃない。その内一人で寝る事にも慣れておけよ」
俺はムツキに言う。ムツキはそれを聞き困惑しながら言う。
「……ご主人……どこか……行っちゃうの? ……イヤだよ」
ムツキは語彙を強くして言う何時ものムツキとは違い強い感情が込められているのを感じる。
「仕事で帰って来れない時があるかも知れないからな……」
「……その時は……我慢する」
ムツキは俺に抱き着いてくる。俺は抵抗せずにそれを受け入れる。
「……ねえ……ご主人……ご主人は……私を置いて……何処かに……消えないよね」
抱き着くムツキの涙が俺に当たる。俺は少し黙り答えた。
「……ああ約束する。お前に黙って何処にも行かない」
俺はムツキの右手の小指を俺の右手の小指で握り指切りをする。
「……ご主人? ……これは?」
「これは指切りだ。俺の故郷で約束を誓う為にするんだ」
「……指切り……」
ムツキは右手の小指を見つめ言う。
「……うん……約束……約束した」
「ああ、約束だ」
ムツキは涙を止め寝息をする。安心したら寝たようだな。俺は寝るつもりは無い。ムツキを起こさない様に散歩でもしてくるか。
俺はベッドから降りようとしたがムツキは抱き着いていて離れない。仕方が無い為、俺はベッドで横になっている事にした。
「……ご主人……えへへ……恥ずかしい」
ムツキがそんな寝言を言っている。その寝顔はとても幸せそうなものだった。俺はそれを見つめる以外やる事が無く、そのまま朝を迎えた。ムツキが目を覚ます前にドアが大きく開いた。
「ユヅキ! おはよう。このボクが起こしにきたよ! 有り難く思いたまえ」
フィルナルドだ。朝からとても騒がしい。その声でムツキは目を覚ます。
「……フィル……五月蠅い」
ムツキが怒りながら言う。
「ななな、何でムツキが居るんだい!? 君たちの部屋は別だろう! それにその恰好君たち兄妹だろ!? 一体何を?」
フィルナルドが慌てながら怒っている。俺は俺とムツキの服装を見る浴衣がはだけている。浴衣を着たことがないからな当然だろう。
「は、破廉恥だよ! 兄妹でなんてとても!」
フィルナルドの誤解を解くのは面倒くさかったが、今度一緒に寝る事で何とか聞いてくれた。朝から疲れた。
俺は疲れを感じながら朝食を食べた。




