愚者の糸 その②
俺の能力を使えば一真の糸の能力を一時的になら無力化するのは簡単だ。
だが、その後の決定打になる攻撃は俺には無い。現在の俺の攻撃手段は木刀による攻撃、自身の身体を用いた素手による攻撃ぐらいだ。
一真が能力を使い出す糸を能力により無力化しながら俺はチャンスを待つ。
「有月もう諦めろ。俺の愚者の糸はとても燃費の良い能力だ!お前がいくら俺の糸を無力化しようが、俺は幾らでも糸を出せる。俺の能力の限界が来る前にお前の能力の限界が来る。諦めてその女を置いて、この場所から逃げ! 同盟国に行け!」
一真が俺を説得するように話しかけてくる。だがその説得を聞くつもりは俺には微塵も無い。
ここでムツキを置いていき同盟国に行くのは簡単な事だ。だがそれを行うという事は自分を頼るムツキを見捨てるという事になる。
無事に同盟国に着いたとしても、ムツキを見捨てた事を見ない振りにして日常生活を送ることが俺にはできるのだろうか?
いいや、出来ない。例え勝ち目が薄くても俺にはムツキをムツキの眼を裏切る事は出来ない。
手に握る木刀に再び力を込める。
「……どうやら。その女を置いてく気は無いようだな」
「長い付き合いだ。言わなくても簡単に解るだろ?」
「なら力ずくでも有月。俺はお前とその女を引き離す!!」
一真の糸が俺に襲い掛かる。俺は木刀でそれを受けて能力でその糸をバラバラにする。
「おい。カズマいつまでグズグズやっている? 異世界転移者どもの能力を知るにはお前の情報が必要だ! こっちの作戦の準備は終わった。早く決着を付けろ! 作戦ってのは速度が重要だ! 速度が落ちると同時に作戦の成功率はどんどん下がっていく!」
ライネスが俺たちの戦闘に口を出してくる。それと同時にもう一人の男が何処からか話しかける。
「愚図愚図している確かにその男の言う通りだな! 何故愚図愚図と戦う必要が有る? 火を操る異能力者と糸を操る異能力者戦えばどちらが有利か簡単に解る。勿論それは火の異能力者の方が有利だ! 火の異能力の力を持ってすれば糸の異能力者の糸など、身体に糸が振れる前に簡単に燃やし尽くす事が出来るだろう。ならば何故火の異能力を使用し糸を燃やそうとしない? 火の異能力を使うには何らかの条件が有るのか? いや、それとも…………」
何処からか現れた異常者が家の屋根の上から俺達を観察しながら俺達に聞こえる声で話し続ける。
「……誰だ! お前は、その黒髪から見るに異世界転移者か? ならば……」
突然現れた異常者にライネスは話しかける。その声と同時にライネスは異常者に向けて石を投げつける。だがその石は異常者に当たる事は無く謎の宙を浮く黒い塊に防がれる。その黒い塊たちは異常者を守る様に姿、形を変えながら異常者の周囲に浮き続ける。その数は増すばかりだ。
「自己紹介が遅れたな。爆発の異能力を使う者よ! 我の名は御子神冥界だ! だが我の名を覚える必要は無い。それは我の異能力の力、「変幻自在な色」の凄まじさに我の名を覚えることが出来ないだろうからな! さあ爆発の異能力者よ。我の異能力の力の実験、検証のための実験体になって貰おうか!」
そう言い異常者はライネスに向けて自分の周囲に舞う黒い塊を槍状の形に変え真っ直ぐにぶつける。
「異世界転移者ってのは皆こんな風に好戦的なヤツか? カズマお前見たいに目の前で人が死んでるのに何とも思わない論理観が欠けている異常者しかいないのか?」
ライネスは向かってくる黒い槍を爆破させながら話す。
「カズマ! コイツの能力を今すぐ教えろ! その為に俺はお前を仲間に入れたんだぞ!」
俺と戦闘中の一真が糸を繰り出しながら忙しそうにライネスの質問に答える。
「そいつはクラスメイト達が自分の能力を披露する中、自身の能力を一度も見せず教えなかった数少ない例外だ! 俺はそいつの能力を知らない!」
「使えないなぁ! 能力を教えるから仲間に入れろ! そういう約束だったよな?」
黒い槍たちが再生し、再びライネスに襲い掛かる。それをライネスは躱し。黒い槍に触れ爆発させる。すると周囲の黒い槍も同時に爆発する。
「今の二回の攻撃で爆発の異能力、貴様の能力の事が少しづつ解りかけてきたな! 我の異能力「変幻自在な色」は一色で一つの物体となっている。それは例え複数の槍になっていようと一つの物体として扱われる。その槍を一つずつ爆破していくのでは無く全て同時に、それも一つ残らず時間差なく爆発したという事は貴様の爆発の異能力を使った爆破は物体一つずつに作用するのでは無く。例えその物体が離れていても、一つの物と扱い発動するようだな! それは屋敷に事前に置いて置いた我の「変幻自在な色」が同時に爆発した事からも解る。更に最初の爆発の攻撃はノーモーションで発動したのに関わらず。二度目の槍の攻撃は自分の身体を使い避けた。その後、槍にわざわざ触れて爆発した。二度目の攻撃から貴様の爆発の異能力の発動には触れる事が必要なのが解る! だが最初の攻撃は触れずに爆発させた。それは何故なのか? それは貴様が最初に投げた石の存在に有るのだろう。その石は「変幻自在な色」で受けた。恐らく石に触れた物を爆破する。そのような事も可能なのだろう! つまり貴様の爆発の異能力は触れた物を爆発するのと、触れた物を爆弾にし、その爆弾にした物に触れた物を爆発させる事が出来る! そうなのだろ!!」
異常者は自信満々にこちらにも聞こえる声で長々と話す。
「……俺の能力の発動条件が解った程度で自身を持つなよ。俺はこの能力のみを使用し一国を落とした。能力のタネなど最初からこの世界の住人なら知っている事だ! だが人々は俺の事を恐れ、恐怖し、泣いて叫び最期には俺の名前を呼び許しを請い俺の事を考えながら死んでいく!!それがどういう事かお前にも教えてやるよ!」
ライネスは石を再び異常者に投げる。その石は途中で爆発し砕ける。砕けた石は散弾のようになり、異常者に襲い掛かる。
「「変幻自在な色」よ、「防衛」しろ!」
散弾は異常者にぶつかることは無かった。異常者の周りの黒い塊が壁のような形に変化し、散弾を防ぐ。
「……だが、石は壁には命中した! 爆破する!」
黒い壁は爆発音を出し、爆発する。だが何の問題も無かったかの様に異常者の周りに黒い塊は発生する。
「その能力、一見すると無敵の様に無限に発生するが実はそうでは無い! 能力は能力者の精神力を使用し発動する。無から有を出す生産系の能力ならば更に精神力を使う。お前の能力どこまで持つかな!
異世界転移者!」
ライネスは再び石を散弾にし投げる。その手にはまだ沢山の石があった。




