開戦の音
同盟国に向かうための東の門に向かう途中でムツキが俺に話しかける。
「……ご主人……さっきの人……倒さなくて……よかったの?」
ラクギリヤのことか、木刀を落として無防備にしたのだから、そのまま気絶させて、追ってこれない様にすることもできたのじゃないか、そう言うことなのだろう。
「完全に手加減されていた。木刀もわざと俺に落とさせたのだろう。理由は解らないが」
手に持った木刀を握りながら俺は言う。この木刀はその辺に捨てるのには惜しく、護身用に貰っておくことにした。俺の能力と合わせればそれなりの武器にはなるだろう。
「……ご主人……すごい……強いから……倒せたと思う」
「そんな事は無い。俺の戦闘経験は皆無だ。このままこんな戦いのような事を続けていると持たない。追っ手が来る前に同盟国に早く向かおう」
ムツキにそう言い俺達は門に向かうための足を速める。
ドカン!!
門に向かう途中で爆発音が聞こえる。その爆発音は俺達の向かっている門から聞こえた。
「……凄い音」
「門の方から聞こえたが何があったんだ?」
間違いなく厄介事だろう。だが俺達にはその門に向かう以外に選択肢は初めから無い。このまま足踏みしていても追っ手が来るのを待つだけだ。迷いは無い。
「ムツキこれから何があるか分からない。鞄はお前に預けとく、能力でできるだけ軽くしているが、問題ないか?」
「…………大丈夫……重たくない……ご主人」
今ムツキは自分の身長の半分よりは無いぐらいのリュックサックを背負っている。
中には食料などが沢山詰まっており普通の状態であればムツキの小さく細い身体ではとても持てないだろう。それを俺の能力を使い重さを極限まで軽くしている。そのためムツキは自分の体重ぐらいの重さの鞄を背負っていても問題無く歩き、走ることができる。
「門まであと少しだ。もし何か起こっていたら。隙を見て門を走り抜けるぞ。走れるな?」
「……問題ない……ご主人」
「よし、向かうぞ」
そう話していると東の門の近くまで俺達は近づいていた。
東の門を遠目で見る。そこには爆発で起こったであろう煙と周囲には身体がバラバラになっている門番であろう者たちがいた。周りでは買い物途中であろう客達や、商売途中の商人、偶然通りがかった人、様々な人達が悲鳴を上げながら爆発音のあった門から、離れるように逃げようとしている。
「……墜国のライネス・クリューケント! ヤツだ! ヤツがこの国に来やがった!!!」
一般人の一人がそう言いながら逃げる。その名前を聞くと悲鳴が更に増し逃げようとする人々が増える。
だがその逃亡が叶う事はなかった。我先にと逃げる男が一人突然爆発する。男だった者の肉片があたりに飛び散る。それを見て止まる人や、逃げる者たちがいる。その者達には共通点があった。その共通点は皆悲鳴を上げていると言う事だ。
逃げるものは爆発した男の様に音をあげ血を周囲に撒き散らす。無事なのは逃げることができず足を止める者達だけだ。凄まじい光景だ俺は遠目で見ながらそう思う。隣のムツキは普段通りの濁った目をしながら口を閉ざしている。門から溢れ出る煙の中から二人の男が出てくる。
「これが俺のやり方だ。これを初めて見て平気だったヤツは俺の仲間にも居ない。それなのにお前は平気そうだな。お前達がそこから来たと言う異世界はこの世界より争いが溢れる惨い世界だったのか?」
銀色の髪をした二十代ぐらいの男がそう話す。ボロボロなマントで身体を包み隠しておりその服装などは窺えない。その男の銀色の髪は透き通っておりとても綺麗であった。だがその髪と同じ色をした眼は何の躊躇も無く人を殺せる。いや、もう何百と殺したそんな目をしている。そんな男が隣にいる少年に話しかける。
「……いや、俺の居た世界はここよりは平和だったな。世界中を見たら争いこそあるがこんな風に人が簡単に呆気なく死ぬような国出身では無いな……俺は」
少年はそうなんとも無いような日常会話をする様なように銀髪の男と話す。その少年の顔は俺は見たことがあった。いや、よく知っている。その顔は俺の親友である一真のものだった。
「これからお前の同級生を全員殺す。能力が馴染んだら厄介な兵器になるからな。問題無いな?」
「……昨日も、言っただろう。俺の答えはこうだ。「問題ない」俺はお前にクラスメイト達の能力を教える。手は貸さないそれでいいんだな?」
一真はなんとも無い普段通りの顔で会話を続けている。
「ああ。それで問題ない俺の殺り方に文句は言うなよ? そう言う契約でお前を仲間にしたんだからな」
銀色の髪の男は一真にそう言うと大声を出し立ち止まる人々に話す。
「ご存じの方も居る様だが、自己紹介をしておこう! 俺の名はライネス・クリューケントだ!! 墜国のライネス・クリューケントとも呼ばれている。諸君らには私の能力を使用し爆弾を仕掛けさせて頂いた! その能力名は狂気爆弾。この能力を俺はそう呼んでいる。いま仕掛けた爆弾の爆破条件は一つ、私から一定距離離れることだ! 爆破の解除方法は今はまだ教えない。諸君らは私の命令を聞いてもらう。命令を聞かなければ爆発させるこんな風にな!」
ライネスがそう言うと立ち止まっている民衆の一人が爆発し血と肉を撒く。それと同時に民衆は悲鳴を上げる。遠くから見ていても阿鼻叫喚な風景だ。
「諸君らが悲鳴を上げること、それを私は許可しよう。だが動く事は今は許可しない。破ればどうなるか良く解るな」
そう言いライネスはまた一人爆破する。周囲にはまだ五十名ほどの人が居る。ライネスが作った地獄はまだ始まったばかりだった。




