第6話 三正面作戦(彼方視点)
神無月家の作戦本部。俺は待機していた。
遥と一ノ瀬はステュムパーロスの鳥の討伐。鬼宮とついでに小宮はネメアーの獅子が出た時のために屋敷で待機中。
他にも職員や民間協力者が多数待機しているし、いざとなれば蘇った人間を送り返している部隊が戦闘に回ることもできる。
よほど同時多発的に出てこない限り問題はない。
逆を言えば同時多発的に出されれば神無月家はなすすべもない。
あの時だって鳥とケルベロスだけではなく十二の功業のすべてを出されていれば、いや、京都に出てきたヒュドラをこちらで出されただけでも職員にも市民にも被害は免れなかった。
そもそもヒュドラだけ京都で出した理由もわからない。
ヤマタノオロチと同時に出現するのはビジュアル的なインパクトはあるが、ヤマタノオロチへの特別警戒態勢も敷かれていた。
ヤマタノオロチへの戦力が回ってくる分対処されやすい。
確実性を求めるなら不意を突いてヒュドラを出すのが一番だったはずだ。
それが分からない大貫さんではないはずなんだが、それをしないのはできない理由があるのか、被害を出すことが目的ではないのか。
無差別な反魂といいチグハグな行動といい、大貫さんの意図がまるで読めない。
実際に会って話を聞く以外に方法はないか。
一通り考えをまとめていると、思考を遮るように携帯に着信が入る。あさひからだ。
「あさひ、どうした」
『彼方!詳しいことは説明してる時間はない!野狐ってやつに取り憑かれた生徒達が町中に逃げた!』
「野狐……?あさひ、何があった」
『詳しい説明してる暇無いって言ったでしょ!コックリさんよコックリさん!祓うから捕まえて!』
祓うと言ったが、あさひに取り憑いた妖を祓う方法など教えてただろうか。
なんにしても緊急事態のようだ。待機戦力を回すことにしよう。
「わかった。こちらでも捕まえて祓っておく」
『お願い!』
あさひからの通話が切れた。コックリさんの案件、思ったより大ごとだったようだ。もっとちゃんと調べてから押し付けるべきだったか。
「各員に通達。野狐憑きの学生が大人数流守町に解き放たれた。待機戦力を回して早急に解決を図れ。鳥の討伐部隊はそのまま討伐を続けること」
俺がそう指示をしたその直後、調査部隊からの伝令が慌てて駆け込んできた。
「彼方様!ネメアーの獅子と思われる妖が出現しました!北西の方角、6エリアです!」
「チッ、このタイミングでか」
ネメアーの獅子相手には武器の類はほとんど通用しない。
あさひのような高位の神の力が使える場合を除けば、純粋な腕力で絞め殺すことが最適解だ。
そのため人間離れした鬼宮に全てを任せて、他の人員は野狐憑きに回すことがこの場の最適解となる。
なるのだが危険な強敵を民間協力者だけに任せて、職員がそこまで脅威ではない野狐を追いかけているわけにはいかない。
俺と鬼宮、鬼宮は離れたがらないから小宮も連れて、万が一のために医療部隊と護衛部隊と伝達部隊。
これが最低限か。
「よし、俺は事前に伝えた最小限の戦力でネメアーの獅子を討伐しに行く。ついてこい」
「彼方様!報告があります!」
「今度はなんだ!」
「クレタの牡牛と思われる妖が出現しました!」
「クレタの牡牛が!?」
クレタの牡牛と言えば十二の功業の中ではネメアーの獅子に次ぐパワータイプでの対処が有効な妖。
当然だが鬼宮は二つ同時に対処することはできない。同時にぶつけることでこちらの有効な戦力を削ぐ戦術だ。
普段ならギリギリどうにかできるかもしれないが、野狐憑き達に戦力を割いていてはそうもいかない。
野狐の優先度は最下位で、だけど放置すればあさひは野狐を追う。その過程でめぐみに出会ったりすれば。
遥を呼び戻す?
ダメだ。鳥を追う戦力は落とせない。そもそも遥一人を呼び戻したところでどうにもならない。
いっそあさひに獅子か牡牛を担当してもらって、その間に野狐を。
ダメだ学校から出たばかりだと距離が遠い。あさひに指示するための合理的な言い訳がない。
「彼方様!指示を!」
伝達に指示を急かされる。答えなんて決まっている。
万が一のために、あさひ一人のメンタルのために危険に陥れることなどできはしない。
「……野狐憑きに戦力を割いている余裕はない。野狐に回す予定の戦力をクレタの牡牛に」
「彼方」
指示を出そうとしたとき、いつの間にか来ていた鬼宮に声をかけられる。
「鬼宮か。出撃準備を頼む」
「その件について宮っちと相談をした。ネメアーの獅子は私一人で行く。彼方は牡牛の方に行け」
「鬼宮、悪いがそれはできない。民間協力者を一人で戦わせるわけにはいかない」
「なら私は民間協力者じゃなく、あさひの友達として戦う」
「そんな屁理屈が通るか」
「通してもらう。そうでないと宮っちが野狐の捜索に行く意味がない」
「小宮が……!?そうなのか!?」
俺は思わず小宮の方を向き、尋ねる。
「う、うん。こんな状況だもん!一緒にいるなんてわがまま言ってられない!」
小宮の目は前髪で隠れているが、真剣なまなざしを感じた。
正直小宮は鬼宮の応援をしていようが野狐探しをしていようが大した戦力にならない。
だが、いつもべったりな二人が別行動する。その覚悟は俺に一つの覚悟を促した。
「鬼宮がネメアーの獅子討伐!俺がクレタの牡牛討伐!最低限の部隊だけを連れていく!残りは野狐憑きの捕獲に移れ!」
「了解しました彼方様!」
民間協力者任せにしてしまうことの体面など知ったことか。
こうなったら最適解を選んでやる。




