第7話 クレタの牡牛(彼方視点)
バイクに乗り俺はクレタの牡牛が現れたポイントへと急行した。
到着すると近くにいた神無月家の者が対応していた。
俺は刀を抜き、ケルベロスの時と同じように後ろ脚を狙り斬る。
「硬いな……!」
カグツチ様の加護を受けている特別な刀だというのに、牡牛の脚に負わせた傷は浅い。
怒った牡牛はこちらに突進をしてくる。
受け止める。いや無理だ。
「クソっ!」
俺は牡牛の突進の横をすり抜け、すれ違いざまに斬撃を入れる。
やはり傷は浅い。
このやり方では討伐はいつになるか、そもそも終わるまで避け続けられるか分かったものではない。
ケルベロスと違いシンプルな力押しで来る存在。戦力が最低限であることを差し引いてもケルベロスと同じ戦術では勝つことは難しい。
だが同じ戦術を使う必要などない。相手に合わせた戦術を使い勝てればそれで十分だ。
牡牛は振り返りこちらに突進し直そうとする。
そして牡牛は俺の目の前でダンプカーに跳ね飛ばされた。
「彼方様!ご無事ですか!」
「そっちこそむち打ちになってないか」
エアバッグが作動している運転席から運転手が降りてこちらに駆け寄る。
そして来る直前で荷台から降りたと思われるミニショベル達がこちらに走ってくる。
牡牛が立ち上がり、こちらを睨む。流石にダンプで跳ねただけで倒れてはくれないか。
「よし、俺が引きつけるから手はず通り縄を投げていけ」
「はい!彼方様!」
同じパワーが必要な相手でも、ネメアーの獅子と違い人間の怪力に依存する必要はない。
縄をかけて重機で引っ張り身動きを取れさせなくしてから仕留める。それがクレタの牡牛に対する作戦だ。
俺は牡牛の突進を避け、刀で攻撃する。
ダメージは期待していない、ヘイトをこちらに向けるためだ。
幸いにも知能は低いらしく、投げ縄を気にすることもなく目の前で刀を振るう俺にばかり突撃してくる。
角にかかり、首にかかり、脚にかかり、縄の数が増えてくると斬ってしまわないように斬撃を浴びせることが難しくなり代わりに鞘で殴りつける。
刀よりもずっとダメージは少ないだろうが、牡牛は変わらずこちらに飛び込んでくる。
いくつの突進を避けただろうか、四肢のすべてに縄がかかった時、職員達の言葉が聞こえた。
「彼方様!準備完了です!」
その言葉を聞き、俺は牡牛から飛び退き距離を取りながら号令を出す。
「今だ!縄を巻き取れ!」
俺の号令に合わせて重機に固定された巻き取り機が縄を巻き取り、牡牛の身動きが取れなくなる。
はずだった。
「嘘だろ、ショベルが動くぞ!」
暴れる牡牛のパワーは想像以上で、力の入れ方次第でミニショベルくらいは引き摺れてしまうことがわかった。
これは、早くどうにかしないとまずい。
「彼方様、これはどうすれば!」
「やってみるしか無いだろう!」
俺が再び刀を抜き、縄を傷付けないように牡牛を斬る。
手の空いているものは聖水を投げつけ、援護をしてくれる。
避けることを気にする必要のない斬撃。
先ほどまでのものよりは深く入り、確実に効いている。
それでも致命には届かない。
傷がつけられたことで暴れようが酷くなり、ショベルカーが目に見えてガタガタと震える。もう限界だ。
俺はせめてと牡牛に貼られている反魂の御札を剥ぎ取り、重機部隊に向かい声を張り上げる。
これで最低限、反魂の番人としての役割は奪い去れた。
「総員縄を緩めろ!転倒するぞ!」
「し、しかし彼方様!」
「クレタの牡牛は俺と遊撃部隊が引きつける!一時的に退却してもっと大型の重機を持ってくるんだ!」
「……わかりました!」
重機部隊は縄を緩め、退却していく。
帰ってくるのにどれくらい時間がかかるか。
「いいか。反魂の御札を剥ぎ取った以上すぐに倒す必要はない。重機部隊が戻るまで避け続けることだけを考えろ」
「わかりました」
自由になったクレタの牡牛が突撃してくる。その時だった。
視界の端を何か白い影が横切り、牡牛の首を斬りつけた。
洗礼を受けた武器ではないのか、すぐに再生してしまう。
通り過ぎた先を確認すると、そこには狐のお面を被った人物が立っていた。
「お前は……?」
狐面は俺の言葉を無視して牡牛に斬りかかる。
牡牛の硬い体につけられた傷はすべてが浅く、すべてが即座に治ってしまう。
しかしその狐面の行動でクレタの牡牛のターゲットが狐面の方に向かう。今なら。
「このっ!」
俺が牡牛の胴体を斬りつける。有効打だ。
狐面もひたすらに斬りつけ続ける。
倒すためでも囮になるためのものでもない。まるで破壊衝動をぶつけるための戦い方。
しかし今の俺にはありがたい囮となった。
狐面のおかげで有効打を与え続けることができる。やがて牡牛は力尽き倒れた。
それを確認すると狐面は即座にどこかへと跳び去ってしまった。
「彼方様、おそらく妖の力を使っていると思われますが、どうしましょうか」
「……今は放置だ。他の問題から片付ける」
何者かは分からないが、助けられたらしい。
本部へと連絡をしようとする俺の携帯に、再びあさひからの着信が入った。




