第5話 こいつら何も考えてねえ!
変化は思っていたよりもずっと早く起こった。
指を離した優子は机に倒れ込むこともなく、雰囲気が変わる。
「ワハハハハハハ!ついにやったぞ!この強固な結界をくぐり抜け、顕現してやった!」
「気狐様だー!」「気狐様ばんざーい!」
桃園さんから手を離し、生徒達が優子の方に走る。
私は反対に桃園さんに駆け寄り無事を確認する。
意識はないが顔色は戻り、呼吸もしている。無事なようだ。
「それで気狐って言ったわね。何の目的で結界を破って学校の中に入ってきたの」
「目的だと?フフフ……」
優子は、いや、気狐は不敵な笑みを浮かべながらこちらを見据える。
「フフフ……」
気狐の笑い声が響き、私は心の準備だけはする。
何を仕掛けてくるつもりだ。
「フフフ……」
……なんか言えよ。
目的言うでも、貴様などに言うことはないでもいいからなんか言えよ。
「フフフ……」
何?もしかしてこのフフフループがもう術中なの?
「結局目的はなんなのよ」
「目的だと?フフフ……」
「フフフはもういいっての!」
私の声に気狐は驚き、肩を震わせて口を開く。
「目的、目的はそのほら、登山家が山を登るみたいな言葉あるだろ。あれみたいな」
「そこに山があるから?」
「そうそれ、それと同じことだ。フフフ……」
なるほど、つまるところはそこに結界があるから、目的もなく力試しで入ってきたというわけだ。
「……もしかしてバカ?」
「な、なんだと!私はやがて天狐にも空狐にもなれると言われた狐なんだぞ!」
「謝れー!」「気狐様に謝れー!」
「あーはいはい。謝るんで優子達解放してくれません?」
土下座でもすれば気が済んで出ていってくれるかなこいつら。
「まだバカにしてるな。私は天狐になると言われた狐なんだぞ!」
「誰に言われたんです?親戚とか?」
「厳しい禅の修行の途中現れた仏様が教えてくれたのだ!」
「仏様が出たんですか?」
私は出会ったことないけど、仏がそう言うなら才能あるのかなこの狐。
「そうとも!まぶたの裏に現れ、私は最強の狐だと神託をくださったのだ!」
「妄想じゃん」
私の言葉に気狐の表情が驚きのものに変わり、続いて怒りのものへと変わっていく。優子の顔でそんな表情しないでほしい。
「どこまでも私を愚弄するか!」
「ちょ、やめてよ優子」
「誰が優子か!私は気狐だぞ!」
気狐が近付き、掴みかかってくる。
優子には悪いけど弓の自主トレやってる分私の方が筋力がある。大した力じゃない。
「ちょ、もう、やめてって言ってるでしょ!」
「ぎゃあああああ!!」
「優子!?」
私が優子の腕を掴み力を入れると、優子が叫び声をあげて優子の身体から白い狐が飛び出す。
「あれ、あさひ?助けてくれたの?」
「あ、うん。そうみたい」
さっきの感覚、武器にアマテラスの力を込める時の感覚だった。
あれ人に向かってやると取り憑いてる妖追い出せるんだ。
「き、気狐様を守れー!」「うおおおお!」「やってやるー!」
「は!?うわ!」
気狐がやられて手下の生徒達が私と優子にのしかかってくる。
「お、重たい……あさひ、どうにかできないの?」
「手のひらで触れないと無理かも……」
「フフフ……やがて天狐になる私に逆らうからそうなるんだ」
気狐がそう言いながらこちらに近付いてくる。
嘘でしょこんなアホ相手に絶体絶命なの私。
手のひらが無理でもどうにか腕とか足とかから力を込められないか、そう思い焦り始めたその瞬間だった。
ガシャーンと窓ガラスが割れる派手な音が鳴り響き、オカルト研究部の窓の方を見ると、そこには刀を持ち狐のお面を被った謎の人物が立っていた。
「え?なに?誰?またコックリさん?」
私が呆気にとられた一瞬。その一瞬で狐面は気狐の近くまで距離を詰め、刀で一刀両断にした。
「妖の力を使う人間か?残念だが妖の力では私は倒せない!私は仏様に選ばれた存在だからな!」
気狐の身体は再生していく。
妖の力効かないなら神じゃなくて妖側じゃん。
そんなツッコミが脳裏に浮かぶが、言葉にはならない。
なる前に狐面は刀を数度振るう。
その度に気狐の身体は再生し、再生するや否や次の斬撃が入り、その斬撃の傷が再生する頃にはまた次の斬撃が入る。
何度も何度も何度も何度も何度も。
そうしているうちに、気狐の身体は次第に再生しなくなって行く。
「こ、こんな、人間がこんなことを……!」
それはまるで斬るのではなく、圧倒的な存在の力で掻き消すような、そんな戦い方だった。
そして気狐はその狐面の刀により完全に掻き消された。
「気狐様がやられた……」「もうおしまいだ」「逃げろー!」
「あっちょっと!」
私と優子の上にのしかかっていた生徒達は、気狐の死と共に蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
それと同じように狐面はオカルト研究部の窓から飛び出し、どこかへと飛び去ってしまう。
「あーもう!わけわかんないけど優子!桃園さんのことお願い!」
「あさひはどうするの!」
「私は彼方に連絡して野狐に取り憑かれた生徒達追いかける!」
あの狐面が何者だったのかは後回しだ。
今は町に解き放たれた野狐を祓わなければ。




