第2話 ステュムパーロスの鳥(彼方視点)
湖の近く、鳥の妖の群れが現れ、俺と遥は弓矢部隊を招集して湖の近くに待機していた。
神無月にしても多いが、そんなことはどうでもいい。
問題はあの鳥達に反魂の御札が貼り付けられていること、つまりあの鳥達が何者かに呼び出され番人にされているということだ。
反魂の儀式を封じるためにはあの鳥達をなんとかするしかない。
「大元の犯人さえ捕らえられればどうにかできるんだけとな」
「思ったより厄介な相手だったものね。大貫さんが犯人だなんて」
カメラに映った人物は大貫恭也。神無月家先代当主の右腕。
俺にとっての遥に当たるような人物だ。
七年前の百鬼夜行で先代当主が亡くなった後に姿をくらましていたが、彼ほどの実力者ならば反魂の儀式に一切の綻びがなかったことも頷ける。
しかし何故彼がこのような凶行に走ったのかまではわからない。
元神無月家ならば反魂の儀式の危険性はわかっているはず。
それを無差別的に行ない、あまつさえ妖にそれを守らせるなどとは。
大貫さんではなく、大貫さんの姿を真似た妖が犯人ではないかと疑いたくなる。いや、むしろそうであってほしいと信じたくなる。
しかし本人にしろ、擬態した何かにしろ、相手は神無月家というものを熟知している。
目的が分かるまで、すべてに警戒しなくてはならない。
そんなことに思考を巡らせていると、一ノ瀬がやってくるのが見えた。
「おまたせ彼方くん、春瀬さん。ターゲットは?」
「あの鳥の妖だ。まだ名前はわからない。合図と同時に弓や銃撃で一気に仕留めにいく」
「鳥を撃ち落とせばいいんだね」
「遥も頼んだぞ」
「任せといて」
一ノ瀬が弓矢部隊に、遥が銃撃部隊に合流し、程なくして作戦が始まる。
「作戦開始だ!」
俺の号令で弓矢部隊と銃撃部隊が鳥の妖に攻撃をかける。
即撃破できる鳥もいたが、大多数は撃ち落とされ足止めされているだけ。大貫さんの用意した妖だとすれば、無名ではなく名前くらいあるか。
「観測部隊から伝達。数羽が包囲網を抜け出し、南方に向かったとのことです」
「よし、待機させている追跡部隊に追わせろ」
「了解いたしました」
相手は攻撃を仕掛けてくるのではなく、逃亡を選ぶ。
護衛部隊の仕事は無かったか。そう思ったときだった。
「彼方様!第二弓矢部隊が強力な妖の襲撃を受けています!相手は三つ首の犬、ケルベロスだと推測されます!」
「ケルベロスだと!?別の弓矢部隊の護衛を最小限にして、第二弓矢部隊へと送れ!あと遥を対処に当たらせろ!俺も行く!」
「はい!」
「帰ってくるまでの指揮は任せた!行ってくる!」
「お気を付けて!」
俺は部下に指揮を任せ、ケルベロスに直接対峙することを選んだ。
―――
俺は刀を持ち、第二弓矢部隊へとたどり着いた。
「無事か!」
「彼方様!」
「被害の方はどうなっている」
「弓矢部隊が3名負傷。内1名はケルベロスの毒を受けました。現在救護部隊による治療を受けています」
「ケルベロスの方は?」
「右の首を切り落としましたが、活動に依然変化なし。護衛部隊と遊撃部隊と弓矢部隊の一部が対応していますが、決定打に欠ける状況です」
「長引けば逃げる鳥の数が増えるか。俺自ら対応する」
俺は案内され、ケルベロスのもとに向かう。
首が1つ落とされ、矢だるまにされ、傷だらけになり、そして反魂の御札が貼られたケルベロスが盾を持つ護衛部隊に襲いかかっていた。こいつも番人、いや、番犬か。
俺は護衛部隊が引き付ける隙を見て後ろに回り込み、ケルベロスの左の後ろ脚を切り落とす。
切り落とされた足は光となって消滅する。
護衛部隊に渡している刃物では一撃で切り落とすことはできない。むしろ右の首をよく切り落としてくれたものだ。
ケルベロスの覇気は依然健在だが、覇気で足をカバーすることはできない。動きは鈍くなった。
「よし、弓矢部隊と遊撃部隊は鳥の妖の迎撃に戻れ!護衛部隊は引き続き対処を!」
ケルベロスがこちらを向き、襲いかかってくる。
「今だ!やれ!」
俺はそれを刀で受け止め、護衛部隊が残った右の後ろ脚を思いっきりぶっ叩く。
ケルベロスが転倒し、隙を晒す。俺は左の首を切り落とす。
激昂したケルベロスが残った脚を器用に使い飛び回り、ヒットアンドアウェイで翻弄しながら攻撃しようとしてくる。
そして高く飛び上がった瞬間、破裂するような銃声が鳴り響き目を潰され撃ち落とされる。増援として来ていた遥の狙撃だ。
落下地点の近くにいた護衛部隊数人が即座に残ったケルベロスの首を切り落とし、ケルベロスは討伐された。
「討伐完了だ。全員持ち場に戻れ」
俺はケルベロスの胴体に貼られた反魂の御札を切り裂き、そう指示した。
―――
作戦終了後、俺は一ノ瀬と話をしていた。
「一ノ瀬、悪いが明日からコックリさんの調査は中断して、追跡部隊と一緒にあの鳥の妖を追いかけてくれるか」
「うん。構わないよ」
「あの鳥達の名前も分かった。おそらくステュムパーロスの鳥という鳥で」
「彼方くん。そんなことはどうでもいいよ。ひとつ聞きたいことがあるんだ」
「なんだ?」
俺の言葉を遮って一ノ瀬が話し始める。
「コックリさんの調査、あれはどういうつもりなの?」
「どうって?」
「僕は去年の神無月にも協力したんだよ?言っちゃ悪いけど、去年はあんな案件に人員を割いてなかったし、あんなダラダラとした調査は許してなかったよね」
俺は一ノ瀬の指摘に言葉を返すことはできなかった。
しかし、一ノ瀬は俺の沈黙を許しはしなかった。
「今の段階でも田中さんに何か変だって話すことくらいはできるんだよ」
「そこまでお見通しか……わかった、理由は帰ってから話すよ。お前は今後パトロール隊に復帰してくれ」
「うん。わかった」
このあと一ノ瀬に反魂のことと、ステュムパーロスの鳥についても話さないといけない。
一ノ瀬は『そんなこと』と言ったけどステュムパーロスの鳥もケルベロスも、そして京都に現れたヒュドラもヘラクレスの十二の功業に現れる敵だ。京都の事件に大貫が関わっている可能性が高い。
俺は神無月家の昏い部分を話さなければいけない気の重さと、優秀な人材が使えるようになる開放感とで複雑な気分だった。




