幕間 『MIHARUライブ公演 in KYOTO』
修学旅行が終わってすぐ、私は再び京都の地に足を踏み入れていた。
理由は一つ。彼方経由でMIHARUさんのライブチケットを2枚もらったからだ。
修学旅行先でお友達になって設営を手伝ってもらったからお礼に関係者席に招待する。そういうカバーストーリーだ。
まあ彼方の渋い反応を見るにほぼ確実にカバーストーリーの悪用なんだろうが、私としては知ったこっちゃない。ライブを見れるのはただただうれしい。
「着いたか。待っていたぞ田中あさひよ」
先に京都に来ていたツクヨミが私に声をかける。
残念なことがあるとすれば同行者がツクヨミであることくらいか。
いや、別に嫌ってわけじゃないんだけどね。
優子は関係者席という響きにビビッて断り、小宮さんと鬼宮さんはお互いを理由に断り、モネさんも探偵のお仕事で忙しいらしい。
いつ行っても閑古鳥だけどなあ。
一ノ瀬師匠や橋花さんはこういったライブには元から興味なし。橋花さんは京都までバイクで走るのは興味があると言っていた。
一人でやってくれ。
ヒカリは提案する前に神無月家関係の人間以外を誘うなよと彼方に釘を刺されてしまった。
当の彼方と遥は結界作り。まあ修学旅行にも来なかったくせにこんなライブ来るわけないよね。
彼方は一緒に行くって言っても私が断るけど。
いよいよ誘う先がなくなり精算所の人でも誘うかと思った時、ツクヨミが声をかけてきた。
MIHARUさん的には修学旅行の誰かを連れてきてねって感じだったのかもしれないけど、まあ全滅したんだから仕方ないよね。
「それでツクヨミさん。その恰好はなんです?」
「普段の服では目立つと思ってな。ライブとはこういう服装で挑むものなのだろう?」
そういうツクヨミの服装はうちわを両手に持ち、法被に袖を通し、ハチマキをしっかりと締めたとても……イカしたものだった。
「多分そういうのアイドルライブのやつですよ」
「そうか……普段の服に戻すとしよう」
ツクヨミが物陰に入り、一瞬で普段の和装に着替えて出てくる。
多分本当に着替えてるんじゃなくてなんかそういう神様パワーだ。
「ツクヨミさん。あんまりそういうことすると周りに変に思われるんでできれば普通に着替えていただければ」
「そのために物陰に入ったのだが、着替えには時間が短かったか」
短いわ。3秒で出てきたじゃねえかお前。
というか和装も大概おかしいからね?もしかして今日ずっとこんな感じなの?
私は少し気が重くなりながらライブ会場へ向かうのだった。
―――
ライブ会場に着いた私達は長い行列とは違う入り口で、受付のお姉さんにチケットを渡した。
「田中あさひです」
「月野読平です」
「ご友人の方たちですね。こちらの方へどうぞ」
ツクヨミが謎の偽名を使い受付を突破する。特に身分証明となるようなものは必要なかった。
そんな緩くていいんだね。
私達は案内をされ、スーツの偉そうな人たちがたくさんいる座席にたどり着いた。
偉そうな人、というか多分偉い人だ。テレビで見たような気がする人もいる。
なんかこう、音楽プロデューサー的な?わかんないけど。
そして気付いた。
この場においてアホ面さらしてTシャツ着てる私は、ぴっしりとした和装を着こなしオーラのある出で立ちをしているツクヨミよりも浮いている。
「なんか恥ずかしいかも……」
「どうした田中あさひよ」
「結構偉い人たくさんいそうで、ちょっと緊張しちゃって」
「気にしすぎだな。私とは普通に話しているではないか。この場においてこの私より偉い人間などいるものか」
「そりゃそうかもしれないですけど、ツクヨミさんはなんかこう別枠じゃないですか」
主神の弟とかそりゃまあぶっちぎりで偉いけど、私にとってはツクヨミは偉い人の枠じゃなくて知り合いの枠だ。
ライブ楽しめるのかなあ。
―――
数時間後、ライブが終わった。
結論から言うとライブは楽しめなかった。
とんでもなく緊張したのもそうだがなによりノリが悪い。いや、悪いと言ったら語弊がある。ノリが合わない。
関係者席の人は静かにちゃんと評価するために聞いていて、わーきゃー騒げない。
静かに聞くならオンライン配信で十分。とはさすがに言わないけど、私もあっちの席みたいに盛り上がりたかった。
「……現代の音楽は音が激しいな。私の時代とはかなり差がある」
でしょうよ。神話の時代と比べんな。
結局私もツクヨミも楽しめなかったしょっぱい気持ちを胸に帰ろうとした時だった。MIHARUさんに声をかけられた。
「お、いたいた。よ、あさひ」
「MIHARUさん。会いに来てくれたんですか?」
「偉い人たちへの挨拶のついでで悪いけどね。あんまり楽しめなかったって顔してるね」
「あ、あはは……」
「もうあの頃と同じってわけにもいかないみたいだなMIHARU」
私たちの会話に割り込んで、男の人が二人MIHARUさんに声をかけた。
「えっと、この方たちは?」
「ジンとウォッカ」
「誰が黒の組織だコラ」
「どうしやす兄貴」
「お前も乗るな。インディーズ時代のバンド仲間だよ」
ノリがいいというか、気安いというか。MIHARUさんが楽しそうにしているし、悪い人たちじゃないんだろう。
「それにしても懐かしいね。積もる話もあるし打ち上げに一緒に来るかい?」
「ああ、有名人にタダ酒奢ってもらうつもりで声かけたからな」
「ゴチになりやす」
「正直な奴等だな。1人2杯までだからな」
思い出話に花を咲かせるらしい。これは私達がいたら邪魔になるかな。
「それじゃあ私はこれで」
「え?帰るの?打ち上げは?」
「え、いやなんか盛り上がってたんで邪魔かなと」
「いやいいよ別に。いいよな?」
「俺達はタダ酒飲めるならなんでもいいぜ」
「未成年ですよ私」
「あんたに飲めとは言ってないよ」
「気にすることありやせんぜ」
「お前はいつまでウォッカやってんだ」
その後私は言われるがままに打ち上げについていった。
3人ともとても楽しそうで、こう言ってはなんだけど打ち上げはライブよりも楽しかった。




