幕間 『ツクヨミと、晴明と、』
ヤマタノオロチとヒュドラの退治に成功したあと。
私と道満が月読神社に降り立ち、みんなと合流する。
勝利をお祝いする喜びのムード。それを打ち壊したのは晴明だった。
「これで用事は済んだな。では……」
晴明がこちらに向け、式神を召喚する。
「道満を呼び起こし、京都の街を混乱に陥れようとした罪、贖ってもらおうか」
晴明の式神がこちらに向かってくる。その直前のことだった。
ツクヨミが目の前に現れ、式神をすべて吹き飛ばしてしまった。
「安倍晴明よ、それは許されぬことだ。月読尊の名において命ずる。剣を収めよ」
「ツクヨミ様。これは京都の神無月家の名誉に関わる問題ですお引き取りを」
「神の言葉が聞けぬというのか」
「言ったはずです。我々には神の言葉に逆らう権利があると」
「神無月家の契約は人間の安全のために、神に逆らうことが許されているというもののはずだ。名誉などというもののために逆らうことは許されていない」
「お言葉ですがツクヨミ様。妖と戦う以上名誉は戦力につながります。安全と同等のものでしょう」
口調は丁寧だが、お互いに一歩も引くことのない殴り合い。
私達はただそれを見守るしかなかった。
「ふふ、そうか。では尚のこと殺すわけにはいかぬな」
「と、いいますと?」
「この者、田中あさひは2月の中頃、私に命を捧げる予定となっている。安倍晴明よ。言っている意味はわかるな」
「ツクヨミの巫女、ということですか」
え?何?巫女?
何かはわからないが、晴明の顔が険しくなる。苦しいのだろうか。
「そういうことだ。巫女殺しがどれほど名誉に傷を付けるか、分からぬそなたではあるまい」
「そうだぞー!私は巫女なんだぞー!」
「田中あさひよ。少し黙っておれ」
「はい……」
援護しようとしたら怒られた。
「しかしそれでは道満を呼び起こした罪は」
「安倍晴明よ。京都を混乱に陥れようとしたと言ったが、それは未遂で終わったものだ。それを裁くことは巫女殺しと釣り合うものか?」
「くっ……しかし今後を考えれば!」
「くどい」
ツクヨミの雰囲気が変わる。
晴明の顔色も変わる。
怒ってるよねこれ?ねえこれめっちゃ怒ってるよね?
「神を相手にいつまでエリートのつもりだ。すでにお前は賊軍だということ、言わねば分からぬか」
「し、しかし」
「こちらは出雲の国で正式に争ってもよいのだぞ。ヒュドラを倒した功労者にして、アマテラスをその身に宿すツクヨミの巫女を殺す。失われるのが名誉だけで済めばいいな」
「……仰せのままに」
晴明は諦めたような顔をして、その場を去る。
よくわかんないけど、ツクヨミが助けてくれたんだよね?
「……あいつのあんな顔見たの初めてだ」
「嬉しくなさそうだな、芦屋道満よ」
「嬉しくないな。俺の実力でそうしたならともかく神にボコボコにされてヘコむあいつなんぞ見たくもなかったわ」
「ふふ、それはすまないことをしたな」
ツクヨミの表情は、普段の穏やかなものに戻っていた。




