第9話 最後の希望
月読神社の境内。私達は襲いかかる十二神将を躱しながら戦っていた。
とはいってもほとんどは鬼宮さんの活躍。鬼宮さんが1人で3体の十二神将を相手取っている間に、私と小宮さんとMIHARUさんは3人がかりで1体の十二神将と戦っている。
一ノ瀬師匠は逃げ回りながら弓矢を交えながら戦っている。
相手が妖ならばアマテラスの力でどうにかできたかもしれないが、相手は式神。私の自慢のパンチはまるで通用せず、ただの女子高生として戦うことになった。
だけどそんなことは重要ではない。十二神将は、いや、安倍晴明はまったくと言っていいほど本気を出していない。
私達が戦っている相手は殴ってくるのではなく、掴み上げて投げるだけ。子どもを相手する力士のようだ。
一ノ瀬師匠が戦えているのも十二神将が走ることなく、ゆっくりと歩いているから以上のことはない。
まともに戦っているのは鬼宮さんだけ。それだって3体しか相手にしていない。
残り7体が待機している。数を増やせばすぐにでも終わってしまう。
そして、その時はすぐに来た。
「よし。白虎は弓矢使いの方へ。残りはあの怪力女の方へ。六合は一応そのままその3人の相手を続けろ」
7体のうち1体が一ノ瀬師匠の方へ、6体が鬼宮さんの方に向かう。
絶望的な状況だけど、これなら横を通り抜ければなんとかなるか?
「通り抜けたければ勝手にするといい。その場合あの2人の命は保証しないがな」
「外道が……!」
私の考えを見抜いて、言葉でそれを封じてくる。
これが陰陽師の戦い方だというのか。
「なんとでも言え。十二神将を倒すか、見捨てて走るかだ。もっともお前達3人くらいなら神無月家の職員たちだけでも余裕で制圧できるだろう。そうなるとあの2人は無駄死にとなるな」
鬼宮さんも一ノ瀬師匠も、すでに取り押さえられた。
京都の外に助けを呼びに行くことができなくて、私達5人だと勝つことができない。
何か……何か方法はないの……!
ひっくり返すような力。京都の中で私たちを助けてくれるような力!
―――
「道満のようなことを言う女だ」
―――
……道満。
芦屋、道満。
晴明に敵対した私に似ているらしい人物。
私、なんで芦屋って名字も知ってるんだっけ。
―――
「ああ、星のマークが安倍晴明のマークなんだってさ。さっきの格子状の模様は別の陰陽師のマークだって」
「先生安倍晴明知ってるんですか?」
「そこまでは詳しくないがな、芦屋道満との勝負でみかんをネズミに変えた話を知ってるくらいだ」
「うん。ドーマンセーマンってやつ」
「その呪文?ってどういう意味があるの?」
「なんか……陰陽師呼び出すやつじゃなかったかな」
「あ、師匠。よかったらこれどうぞ」
「冷凍みかん?ありがとうね田中さん」
「にしても全然溶けないわねこれ」
―――
私は自分の荷物の中を漁り始める。
「……あった」
来る時の新幹線の中、カチカチなせいで食べられず、そのまますっかり忘れられて常温に戻ってドロドロに溶けてしまっている元冷凍みかん。
「MIHARUさん。小宮さん。少しの間お願い」
「何か考えついたみたいだね。任せときな」
「う、うん!まかせてあさっち!」
小宮さんとMIHARUさんが足止めに走る。
私はその隙に近くに落ちてた一ノ瀬師匠の矢を拾い、地面に縦と横2本ずつの線を引き、真ん中に冷凍みかんを置く。
そして力いっぱいに叫ぶ。
「ドーマンセーマン!ドーマンセーマン!」
「……何をしている?」
私の行動に晴明は疑問符を浮かべる。
私はそれに構うことなく呪文を唱え続ける。
「ドーマンセーマン!ドーマンセーマン!」
「よくわからんが、六合。その2人よりも『太陽の手』を止めろ。何かの儀式をしている」
晴明の言葉に反応し、六合と呼ばれる十二神将がこちらに向かってくる。その瞬間だった。
どこからともなく金属の板が空を飛んできて、六合が切り裂かれる。
「こんな無茶苦茶な呼び出し方されたのは初めてだのう。九字切りの本数はまるで足りてないわ、セーマンも一緒に呼ぶわ、屈辱の象徴であるみかんを依代に呼ぼうとするわ」
私の行なった儀式のすべてにケチをつけながら、その男は階段を上がって現れる。
「だが、助けてほしい気持ちは伝わったぞ」
「貴様……!」
ここまでずっと涼し気な表情をし続け、余裕そうだった晴明の顔が驚愕に歪む。
ああ、そうか、成功したんだ。
「よう。久しぶりだな晴明」
芦屋道満。
修学旅行中に偶然知った、私達の最後の希望だ。




