第8話 安倍晴明という男
「えっと、話は戻りますが、2体出たから討伐は諦めて京都の外に追い出そうとしてるってことでいいんですかね?」
「うむ。不本意だがな。イレギュラーというものだ」
「つまり私達がどっちか片方を倒せば解決ってことか。よーし、やる気出てきた!」
相手は強大だが、アマテラスの力もあるし、いざとなったらツクヨミを呼び出せと言われている。
いざという時、今がその時だ。
一ノ瀬師匠と鬼宮さんに援護してもらいながら2人がかりで挑めば多分どうにかなる。
「悪いが、それは許可できないな」
「……えっ?」
私がやる気を出した直後、晴明が私を止める。
許可できない?なんで?
「どうしてですか。晴明さん。説明をお願いします」
疑問に思ったのは私だけではないようで、一ノ瀬師匠が晴明に問いかける。
MIHARUさんからも、小宮さんからも、鬼宮さんからも疑問の視線は感じる。
「結界は内部にある存在の力も含め、拮抗するように作ることも多い。今回はそれだ。勝手な行動をしてヒュドラを倒されたり、アマテラス様の力で暴れられたりすればそれだけ揺らぎが起こる」
「それは……どうにかならないんですか!」
我ながら無茶な注文。できないから止めているのだろう。そう思っていた。
しかし晴明の言葉は私の思っていたものとは大きくかけ離れていた。
「随時修正すればいいだけだから大した労力ではない。しかし既にイレギュラーが起こっているわけだからな。不確定要素は少ないほうがかいい」
「そんなことをすれば京都の外の人間がどうなるか!」
「私は京都を守るために呼び出された存在だ。京都さえ守れればそれでいい。もっとも倒せるに越したことはないから当初は倒す予定だったが、こうなった以上仕方ない」
理解できなかった。
いや、言葉は理解できた。小さな不確定要素を潰すため、それだけのために京都の外の人間を犠牲にしようとしている。
海坊主の時と同じ、何かを切り捨てて大切なものを守る決断。普段彼方が心を傷付けながらしている決断。その決断と何も変わらない。
ただその決断が彼方より大きなものを切り捨てようとしていて、彼方よりも独善的なものを守ろうとしていて、彼方と違って心を痛めることがない。それだけのことだ。
これが彼方の言ってた野良とエリートの違いか。吐き気がする。
「わかりました。なら話はここまでです。私たちは勝手にやります」
「……君達は西の方、流守から来た人間だろう。今の追い出す方向が気に入らないというのなら京都の東の方にから追い出すことにしよう。それで手を打たないか」
晴明のズレた言葉に、私はキレ気味に返す。
「流守に来るかどうかは二の次なのよ。結界の外に追い出せば罪のない人間が死ぬことになる。それが許せないの。行こうみんな」
「道満のようなことを言う女だ。自らの住む場の外の人間に、どれほどの価値があるものか」
晴明の言葉を無視し、各々捨てゼリフを言いながら神無月家から出て、タクシーに乗り込んだ。
「MIHARUさん。月読神社までお願いします」
「はいはい。運転手さん。月読神社まで」
「なんかピリピリしてるねぇ。あの屋敷の中でなんかありましたか?」
運転手さんは気の抜けた言葉を言いながら、タクシーは月読神社へと向かった。
―――
私はタクシーの中で彼方へと電話をした。ヤマタノオロチが2体現れたこと、そのうちの1体がヒュドラであること、安倍晴明が京都から追い出して終わりにしようとしていること、京都の神無月家が役に立たないこと、そして何よりツクヨミを呼び出すから準備してほしいということを。
タクシーの運転中、どちらがヒュドラか分からないが、2体のヤマタノオロチが遠くに見えた。
タクシーは程なくして月読神社にたどり着いた。独立して建てられてる神社ではなく、大きな神社の中にある神社らしい。
私達は階段を駆け上がり、月読神社の本殿へと向かう。
こんなときでも全員手水で手を洗ってしまうのは一種の強迫観念だろうか。
誰もいない境内を走り抜け、息を整える暇もなくガランガランと鈴を鳴らす。
「はぁ……はぁ……ツクヨミさん!迎えに来ました!早く来てください!」
「田中あさひか。今行く」
少しの時間か流れる。30秒程たった頃、小宮さんが口を開く。
「ね、ねぇあさっち。私達あさっちと違ってツクヨミ様の声聞こえないんだけど、何か言ってる?」
「いや、何も……ツクヨミさん。まだですか」
私の言葉を聞き、ツクヨミが答える。
「……すまない。何かに邪魔されてそちらに飛ぶことができない」
「はぁ!?」
「何か強力な結界。それが私を、いや、神を含めすべての霊的なものの侵入を阻んている」
「強力な結界って……!」
思い浮かぶのはただ1つ。安倍晴明の結界だ。
「ヤマタノオロチを抑え込むための結界の副作用でツクヨミが来れないってこと!?」
「副作用などではない」
階段の方から、少し前に聞いた落ち着いた声が聞こえる。
振り向くと、そこには安倍晴明が立っていた。
「言ったはずだ流守から来た者よ。アマテラス様に暴れられては揺らぎが起こる。当然同格のツクヨミ様も同じであると、少し考えれば分かることだろう」
「安倍晴明よ。月読尊の名において命ずる。結界を解け。私自らが行く」
「聞けぬことです。我々の使命と矛盾します故に、たとえ神の言葉でも」
「貴様……!」
「拒否する権限はあるはずですよ。そちらの神無月家なら受け入れたかもしれませんが、私達はそのつもりはありません」
「……すまない田中あさひよ。その結界の中にいる者達だけでどうにかするより他ない」
ツクヨミが私にそう告げる。
これで戦力は半減。いや、ツクヨミは依代でしかない私よりも強い。三分の二が削られたと言っていい。
それでも私がどうにかするしかない。
「何度も言わせるな。アマテラス様に暴れられては揺らぎが起こる。まだ諦めぬというのならその身柄、ここで拘束させてもらう」
晴明は何か紙を取り出し、12体の何かを呼び出した。
「十二神将。私の持つ中で最も強い式神達だ。行け」
晴明の言葉で、12体の式神はこちらに向かってくる。
頭数だけでも私達の2倍以上。強さもおそらく普通の人間よりずっと強い。これをどうにかしないといけないの……!




