幕間 『カッパのワシと夏休み(前編)』
夏休みも終盤となったある日、私はヒカリ、優子、小宮さん、鬼宮さんと予約したキャンプ場に来ていた。
本当は遥も誘ったんだけど、忙しいからと断られた。私のための結界の研究のためだから私も協力しようと思ったけど、今のところ特にできることはないらしい。
ヒカリが小宮さんと鬼宮さんと初対面だからちょっと気にしてたけど、道中ですでに仲良くなっていた。
「おー、誰もいねえ」
8月。キャンプシーズン真っ只中。
川で泳ぐことができる場所で、ちょっと古いけどバーベキューの機材を自由に使えて、バス停からもそんな遠くない。
なんだったら食材とか置いてるらしい建物、どう見てもコテージだ。
壊したりしなければ好きに使っていいらしい。
予約はヒカリに任せたけど、値段も格安だった。
なんでこんな人いないのか分からないほどの好条件だ。
「あさひちゃん!広いよ!どこにテント張る!」
ヒカリがペグを持ち、キラキラとした目でこちらを見つめる。
「えー、テント使うの?普通にコテージでよくない?」
「あはは、あさひ無気力だねー。せっかく持ってきたんだし張ってみようよ」
「小宮さんと鬼宮さんは?」
「私はやってみたいかも!宮っちは?」
「私もやってみよう。せっかくだからな」
張る派は4人。張らない派は私1人。
鬼宮さんは正直いつもの小宮さんに同調するやつだと思うけど、それ抜きにしても多数決で負けだ。
私達はそれぞれ説明書とにらめっこしながら、1人用のテントを張ることにしたのだった。
―――
テントを張り終えた私達はそれぞれのテントの中で着替えてそのまま泳ぐことにした。
ヒカリが誰もいないからとその場で着替えようとした時はめちゃくちゃ焦ったけど、4人がかりで説得してなんとかテントの中に押し込むことに成功した。
さっさと着替えた私はテントの外でみんなが着替え終わるのを待った。私は着替えるのが早いらしい。
私の水着はショートパンツタイプ。上下ともに面積が大きいというか、正直見た目ただの半袖半ズボンだ。
しばらく待っていると、優子がテントから出てきた。フリルのついた、あざといビキニだ。
「うっふ〜ん。どう?あさひ?」
「バカみたい。なんで川でビキニ?」
「ひどっ。男いるかなと思ったのよ。今フリーだから彼氏欲しいし」
「ナンパ待ちするなら1人で来るときにしなさいよ……」
そんな会話をしていると、次に出てきたのはヒカリだった。
ヒカリが着ているのは真っ白なビキニだった。
「う、うっふ〜ん。どうかな?あさひちゃん」
「よく似合ってるわよヒカリ。すごくかわいい」
「あさひ私とヒカリちゃんで反応ちがくない?」
「あんたと違ってヒカリはわざとじゃないでしょうし」
「えへへ、バレちゃった?ビキニはおかしいって聞こえてちょっと緊張しちゃって」
「や、やっぱりおかしいのか?」
私達の会話に割り込み、鬼宮さんがテントから出て来、うおでっか。
衝撃的な黒ビキニなのにそれ自体より大迫力な内側にかき消されてしまう。
何か言おうとするが視線と思考が普段服の下に隠されてる大質量に吸い込まれて何も言えない。
ここにいない遥のぺたんこボディに謝ってほしい。
「お、おっぱい大きい!」
私が思考停止していると、隣でヒカリが大声を出す。
今日初対面の相手にすごいなこの娘。
「……Tシャツ着てくる」
そう言ってテントに戻る鬼宮さんと入れ替わりで小宮さんが出てくる。
「えへへ、ど、どう?あさっち」
安心感のある全身ふりふりなフリルのワンピース。小学生にしか見えない。
こっちが正しい服装だよね。なんで過半数ビキニなの。
「お、全員準備できたか?じゃあ相撲取ろうや」
最後に川から全裸で甲羅を背負った全身緑のやつが出て来た。
「……ねえ、これって」
「へ、変態さんだー!」
私が何か言う前に、ヒカリが叫び声をあげた。
「変態だと!?」
ヒカリの声に反応してTシャツを着た鬼宮さんが出てくる。
そんな知識のない私でもわかる。こいつはカッパだ。
アマテラスの力でぶん殴れば多分なんとかなるけど、それは一般人であるヒカリに妖の存在を知られるということ。
ヒカリをこっちの世界に巻き込むことでもある。
幸いなことにヒカリはカッパをただの変態だと思い込んでいる。今なら間に合う。
ならここで取る行動はひとつ。ヒカリをこの場から遠ざける。
「みんな!コテージまで逃げるわよ!」
「逃がさへんで」
「うわっ早っ」
カッパは超スピードで私達の後ろに回り込み、逃げ道を塞いでくる。
「逃がさへんで」「ワシと相撲取るまで」「逃がさへんで」
カッパは超スピードで私達の周りを回転し続ける。
全裸で腕組みしながら。
「くっ……どうすれば……!」
「ここは私が相撲を取る。そのうちにみんな逃げて」
鬼宮さんが相撲の相手に立候補する。
「おっ。体格のいい姉ちゃんが相手やな?転んでも痛ないように尖った石は取り除いとるけど、一応気ぃ付けや。はっけよぉい……のこった!」
そして鬼宮さんとカッパの体がぶつかり、激しい相撲が始まった。
「ヒカリ!優子!小宮さん!ここは私と鬼宮さんが相手するから!コテージで管理人さんに連絡を!」
「う、うん!わかった!気を付けて!」
私はカッパと鬼宮さんが相撲を取り始めたのを見て3人に指示を出す。
実際はヒカリを遠ざけるためのものだ。
ヒカリがコテージの中に入ったら即殴り飛ばしてやる……。
「ぬおお……ちょ、姉ちゃん強……あっ」
鬼宮さんがカッパを投げ飛ばしていた。
相手妖だよね?鬼宮さん?
「はぁー水溢さんで負けたの初めてや。ヤコブかお前は」
「お疲れさま鬼宮さん。あとは任せて」
「お、次は姉ちゃんか。負けへんで」
カッパは再び構えるが、私がするのは相撲じゃない。ボクシングだ。
それもゴング前に殴るやつ。
「オラァ!」
「あだぁ!何すんねん!」
「えっ!?」
カッパの頬をアマテラスの力で殴ったのにまるで効いていない。
この感覚には覚えがある。ツクヨミを殴ったときのような感覚だ。
「えっ、えっ?」
「なんで殴った側が困惑しとんねん!というかお前あれやな!今神の力で殴りおったな!」
「も、もしかして神様だったり……?」
「するわ!水神や!そら随分落ちぶれた神様やけど国津神の端くれや!誰が落ちぶれた神様や!」
「え、えっと、す、すみませんでした」
私はあまりの出来事とセルフツッコミに混乱しながら、頭を下げる。
「あ、これはご丁寧にどうも……あっ」
何故かカッパの方も頭を下げ、お皿からジョボジョボと水がこぼれ、カッパがその場に力なく倒れ込む。
「あ、あかん立てへん……川まで連れて行ってくれんか?」
「あ、じゃあ、はい。鬼宮さんも手伝ってくれる?」
「わかった」
私は上半身を、鬼宮さんは下半身を抱え、カッパを川に投げ込む。
まるで死体遺棄のような絵面だったが、カッパは私たちに感謝の言葉を告げて去っていった。




