エピローグ
「うぇーい。来ましたよー」
うだるような暑さの中、私はいつものように神無月家へと来た。
ただ今日はいつもとちょっと違う。
今日は私の誕生日だ。
ひょっとしたら最後になるかもしれない誕生日……いや、そういうこと考えるのはやめとこう。
「ふぅーあつー。あ、あさひ。ハピバー」
後から来た優子が私に声をかける。
「おう、ハピバー」
「いやハピバで返されても私は誕生日じゃないし。はい、これ誕生日プレゼント」
「あ、これ」
優子が渡してきたのは、あの一週間の中で見て、全然食指が伸びなかったイヤリングだ。
……あの頃は全く欲しくなかったのに、今はなぜだかとても嬉しい。
せっかくだしつけようと思ったその時、彼方に声をかけられた。
「あさひ、今日誕生日だったよな」
声のする方を向くとそこには彼方と遥がいた。
「そうだけど、なにかくれるの?」
「まあな。ほら、これだよ」
渡されたのは、包丁だった。
「私料理とかしないんだけど?」
「この前刀作った材料の余りで作ったものでな、洗礼をしてある」
「はぁ?」
「そんなことないのが一番だが、万が一妖に自宅を襲撃されたら、そいつで戦うんだ」
「……私アマテラスの力使えるんだけど?」
「……あっ」
彼方がやらかしたという顔をする。こいつ疲れてんな。
「まあ、友達に自炊してるやついるからさ、そいつに渡してもいい?」
「あ、ああ、構わないぞ。友達が妖に襲われて死んだら悲しいだろうからな」
考える余裕がないのはわかる。
わかるが人のトラウマ踏み抜いてるのわかってんのかこいつ。
「私からはこれよ。ありがたく受け取りなさい」
「わぁ……」
遥が渡してきたのは、あの一週間の中で見て、全然食指が伸びなかったイヤリングだ。
「……これ優子のと同じやつじゃない?」
「えっ、嘘!?」
「あはは、本当だ。どっちかフリマアプリで売る?」
「両方持っとくわよ。もらった気持ちが嬉しいし」
「うー……ま、まあいいわ。これから彼方と少しやる事があるから、またあとでね」
「デート?」
「あんたを助けるための結界作り!まったく緊張感ないんだから……」
「何かあったら遠慮なく声かけろよ」
そう言って彼方と遥は屋敷の奥へと消えていった。
「包丁ヒカリちゃんにあげるの?」
「そのつもりだけど、優子欲しい?」
「いらなーい。それよりもイヤリングつけてよイヤリング」
「はいはい」
私はイヤリングを付けてみる。
「どう?似合ってる」
「うん。似合ってる似合ってる」
「似合ってると思うぞ田中あさひよ」
「あれ?ツクヨミさんまだいるんですか?」
とっくにどこかへ行ったと思ってた。
「うむ、定期的に様子を見に来ることにした。それに取り憑いた神を追い出す結界を作るのならば、私が協力できることもあると思ってな」
「なるほど、わざわざありがとうございます」
「それはそうと、誕生日なのだろう?これをやろう」
ツクヨミは聖水の瓶に入った水を渡してきた。
「うん?聖水ですか?」
「いや、容器は神無月家に借りただけだ。中身は変若水と言ってな。まあ端的に言えば飲めば不老となれる霊薬だ」
「も、貰えるかそんなもん!」
「む、そうか?では改めて何か考えておくとしよう」
神様相手だというのに思わず荒い口調となってしまう。
とんでもないもの渡すんじゃねえよ。
ツクヨミはそのまま彼方と遥の行った方向へと消えていった。
「ふう、祝ってくれる気持ちは嬉しいけど、今んとこイヤリングくらいしかまともなのないわね」
「それもダブっちゃったしね。そうだ、せっかくだし両方つけてみたら?」
「うーん……いや、無理だわこれ」
優子に言われるがままに試してみるが、耳の面積的に無理そうだ。
「あ、あさっち誕生日おめでとうー!」
「おめでとう」
優子とバカやってると、小宮さんと鬼宮さんに声をかけられる。
「はい!これ誕生日プレゼント!」
小宮さんから渡されたのは、最近発売された人気ゲームソフトだった。
「あー、小宮さんこれ」
「あれ?もう持ってた?」
「いや、本体持ってないから遊べない……」
「え、あ、そうなの?じゃあ本体も買ってプレゼントを」
「いやそこまでしなくていいよ。自分で買って遊ぶよ。ありがとうね」
「あさひ、私からもこれを」
鬼宮さんから渡されたのは、最近発売された人気ゲームソフトだった。バージョン違いのやつ。
「……両方やれと?」
「シリーズファンならよくやっている」
「別にファンじゃないんだけど……まあ、ありがとうね」
その後、パトロールついでにプレゼントをたかりに行ったら、一ノ瀬師匠はちょっといい軟膏を、橋花さんはバイクに乗るときに使える手袋をくれた。
そして精算所の人から、板チョコを一枚もらった。名前も知らない人からプレゼント貰うの、初めてかもしれない。
―――
その日の帰りも、私は当然ヒカリの家にも行った。
「あさひちゃんお誕生日おめでとー」
いつものほんわかしたヒカリが迎え入れてくれた。
そして部屋に上がると、ヒカリもすぐに誕生日プレゼントを持ってきてくれた。
「これあげるね!私だと思って大事に使ってね!」
そう言って渡されたのは、洗濯用洗剤。
洗濯をお母さんがやってるのはさておき、洗剤をその人だと思って大事に使うってなに?
「ヒカリは相変わらずね。あ、そうだ。こっちからもプレゼントあるんだった」
「え?私誕生日じゃないよ?」
「わかってるわかってる。関係なく渡したいものあんのよ」
私は自分のカバンの中を漁り、ヒカリに渡すものを取り出す。
「はい、これ」
「わあ!包丁だ!ありがとうあさひちゃん!」
「まあ、もともとバイト先で貰った誕生日プレゼントなんだけどね。私使わないからヒカリにあげる」
「そうなの?なんかすごくいい包丁みたいだけど」
「まあ、あいつら金はあるだろうからね」
「いいなー。お金あったらもっとあさひちゃんと遊べるのに」
「また海にでも行って貝殻集めればいいじゃない」
「もうクラゲさん出てるよー」
「砂浜なら関係ないでしょ。あんたとなら別にどこだって……」
そこまで言って、私は言葉に詰まる。
「ん?」
「なんか私、すっごい恥ずかしいこと言おうとしてた?」
「そんなことないよー私もあさひちゃんとならどこだって楽しいもん!」
「はは、まあ、そう」
私は押され気味に笑う。こういうとこ、ヒカリには勝てないや。
「でもこんないい包丁と洗剤じゃ釣り合わないよね……あ、そうだ!マッサージしてあげるね!」
「ま、マッサージ!?いや、今日はいいわよ」
「遠慮しないで。今日は特別にスペシャルマッサージをしてあげるから」
「スペシャル……い、いや、ダメだ。マッサージされたら寝ちゃうもん!今日はお父さんとお母さんが誕生日ケーキ用意して待ってくれてるからダメ!」
「うーん、そっかぁ。残念だなあ」
私はなんとか誘惑を振り切り、帰宅をすることに成功した。
「あ、じゃあさ!ケーキ食べ終わったらまた来てよあさひちゃん!そのあとスペシャルマッサージをしてあげるから!」
私はさらなる誘惑に負け、家族でケーキを食べた後に再びヒカリの家に行くのだった。
第3章 ツクヨミ編をお読みいただきありがとうございました。
第4章 修学旅行編は10月28日、水曜日の9時10分より更新の予定となっております。
お気に召しましたらぜひ次回もお読みになってください。




