第4話 心の無い一週間
死の宣告から一日目。
今日から1週間。神無月家からお休みをもらった。
金銭面も必要があれば支援してくれるらしい。
「……遥、泣きそうな顔してたな」
こんな状況なのに、自分のことじゃなく、遥のことを考えてしまう。
私のやりたいことって、やり残したことって、何かあるだろうか。
私は特に思いつかないままリビングに行き、お母さんに尋ねてみる。
「お母さん。お母さんって死ぬまでにやってみたいことってある?」
「んー?そうねえ。あさひの成人式の写真とか撮りたいかな?」
「……今から1週間以内でさ」
「1週間以内?そんなまるで1週間で死ぬみたいな」
「うん。まあ、1週間で死んじゃうとして、何して過ごすのかなって」
「そうねえ。久々に友達にあってみるとかかな?」
「友達ね」
まあ、そんなもんだよね。
「どうかしたのあさひ?」
「なんでもないよ。私も友達と遊んでくるよ」
「遅くなるなら連絡入れなさいよー」
「はーい。行ってきまーす」
私はとりあえずヒカリの家に向かうことにした。
「……まあ、昼間はバイトか」
ヒカリの家に着いたが、ヒカリは留守だった。
「どうしよっかな。優子誘ってカラオケにでも行こうかな……」
私は優子に電話をかける。
優子は涙声で応答して、承諾してくれたが、そんな状態でカラオケなんか行けるか。
神無月家関連はダメだなと思い、結局その日は私一人でカラオケを楽しんだ。
いや、楽しくはなかったかもしれない。
―――
二日目。
私はせっかく金銭面で支援してくれるならと、街の方に買い物に出かけた。
だけど、欲しいものは無かった。
6日後には死ぬんだよなと思うと、買っても仕方ないなと食指が伸びなかった。
精々キラキラとしたスイーツを食べてみたくらい。
貴重な一日無駄にしたのに、焦燥感は無かった。
―――
三日目。
一日家の中で過ごしてみた。
思えば風邪を引いた時くらいしか、家の中でじっとしていた覚えはない。
やることが無くて、退屈だった。
やりたいことは何もないのに、何かをやりたくて。私はどうしてしまったんだろう。
夕飯の時、家から出ないなんて珍しいと、お父さんとお母さんが笑っていた。
笑ってくれるならまあいいか。
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四日目。
優子が家に遊びに来て、連れ出された。
一日目のリベンジするようにカラオケに行った。優子はやっぱり泣きそうな声をしていた。
弓道場に行った。一ノ瀬師匠は心配そうな顔をしていた。
橋花さんの店に行った。二人ともバイクに興味なんてないのに優しく出迎えてくれた。
カードショップに行った。小宮さんと鬼宮さんのおすすめのカードをショーケースから買った。
神無月家に行くと、MIHARUさんがいた。
サインをくれて、目の前で私のためだけに一曲歌ってくれた。
嬉しいはずなのに、心は動かなかった。
―――
五日目。
やりたいこと、ようやくひとつ見つけた。
私はめぐみの墓参りに行った。
「……ねえ、めぐみ。私さ。いつかめぐみみたいに妖に殺されて死んじゃうのかななんて思ってたんだ。でも違ったよ。私神様に殺されるんだって」
戦う事が怖くて、でも逃げるのも怖くて、いつかちゃんと逃げるために戦う覚悟を決めて、なのに、いまはもう逃げることすら許されなくて。
「……何してたんだろう。何のために頑張ったんだろう。辛い修行も頑張ったのに。何の約役にも立たなかった」
ようやく、一粒涙が溢れた。
二粒、三粒、一度流れると、止まらない。
なんで、私なんだろう。こんな力いらないのに。まだ生きていたいのに。
泣いて、泣いて、見回りに来た住職さんに心配されながら、私はお墓を後にした。
―――
六日目。
私は優子を呼び出し、ヒカリと一緒に三人で花火で遊んだ。
二人とも初対面だけど、とても仲良くなってくれた。
ヒカリはまた3人で遊ぼうと誘ってくれた。
ギリギリに追い詰められて、私が繋いだ縁。私が生きた証。
―――
七日目。
私に残された最後の日。
私は高速道路に乗って、お父さんとお母さんと一緒に流守町を離れていた。
別に逃げようってわけじゃない。お盆の最終日には祖父母の家に行き顔を見せる。ずっと前から決まっていた毎年の恒例行事だ。
まさかこれが最後の顔見せになるとは、おばあちゃん達も思ってないだろうな。
私は心のなかで笑う。
「あさひ、なんだか少し元気になったみたいだね。ここ最近ずっと何か悩んでるみたいだったから」
お父さんが運転しながら私にそう言う。
元気か。まあ、確かにそうかもしれない。
「まあね。でももういいんだ」
「もういいって?」
「諦めがついたっていうのかな?」
「あさひ。あさひはまだ若いんだから、そう簡単に諦めちゃダメだよ」
諦めちゃダメ、か。
お父さんの言葉に私が苦笑いを浮かべていると、車は祖父母の家までたどり着いた。
「祖父母には悪いことをしてしまうな」
不意にツクヨミの声が頭に響く。
「……ついて来てんの?」
「随分遠出をするようだったのでな」
「別に逃げやしないわよ」
「出発前は判断がつかなかったのでな」
「あさひ、早く来なさーい」
「はーい」
駐車場でツクヨミと会話していると、お母さんに呼ばれてしまった。
「お邪魔しまーす」
「おうおう、よう来たねぇ」
「ん、あさひか」
おばあちゃんとおじいちゃんが私を迎え入れる。
「大きくなったねぇ」
「そんなに変わってないよ」
「誕生日プレゼント用意してるからねぇ」
毎年恒例となっているやりとりをする。
数日後に控えた私の誕生日。今年は来ることはない誕生日。
その日のプレゼントを渡してくれる。
「ありがとうおばあちゃん。今開けてみてもいい?」
「おお、いいよぉ」
プレゼントを開くと、そこには変なキャラクターが印刷されたマグカップがあった。
私の趣味じゃない。
「ありがとうね。おばあちゃん」
だけど、嬉しい。
物じゃなく、私を思ってくれることが嬉しい。
「そんじゃあゆっくりしていきんさい」
「うん」
「……愛されているのだな。田中あさひ」
「……うん」
私はそれから夜まで、祖父母の家を歩いて回った。
隅々まで覚えていたくて。死んだあとも忘れたくなくて。
―――
夜、灯籠流しを終えて、私達は家に帰った。
何も感慨はない。来年には私も流される側かなんて思いしか沸かなかった。そんな特別なイベントなんかよりも、おじいちゃんとおばあちゃんの日常風景の方が目に焼き付けておきたかった。
帰る時、二人に「またおいで」と言われた。
私は「元気でね」と言って笑うしかなかった。
「また来るね」とは言えなかった。
家に着くと、私は貰ったマグカップに水を注いで飲み干した。
今年の誕生日プレゼント。使うのはこれが最初で最後だ。
そして、お父さんとお母さんに出かけることを伝える。
「こんな時間に行くのかい?もう夜遅いのに」
「うん。どうしても今日行きたいの。お願いお父さん」
「う、うーん。どうするお母さん?」
「うーん、まあ遅い日はもっと遅くに帰ってきてるわけだし。いいかな」
もう時計は10時を回っている。
普段はもっと遅い時間に帰ってる、か。
気にしてなかったけど、最後まで私は親不孝者だな。
「ありがとう。行ってくるね」
私は玄関を開け、外へ出かける。
「お父さん、お母さん」
「なぁに、あさひ」
「大好きだよ。いってきます」
私はそれだけ言うと、涙が出る前に扉を閉めた。
私は神無月家へと歩を進める。
新しい未練が生まれないように。




