↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/76

第4話 問われた覚悟

その日、私はいつものように神無月家にバイトに来ていた。


「彼方ぁーめんどくさいーもう書きたくないー」


「面倒臭いならその思いを込めて『面倒臭い』とでも書いとけ。完全歩合制なんだから書かないなら給料なしだぞ」


「いいもーん。5月なのにちゃんとエアコン効いた部屋でだらだらするだけでも得だもーん。お菓子も出るし」


うん。訂正。だらけに来ていた。

私はあの頃感じていた後ろ暗い感情もどこへやら。来た日には何枚か書いて小銭を貰って帰る。そんな日々を過ごしていた。


「お菓子の分給料から天引きしてやろうか」


「貴重なバイトがやめてもいいのかー。私以外いないだろうがー」


「……はぁ」


「観念したならあーそのあれだ。この家のwifiのパスワード教えろー」


「あれ?伝えてなかったか?悪い、今パス書いた紙持ってくる」


「お、おう。ありがとう彼方」


要求が通り、私は少し罪悪感を感じ、筆を手に取った。

そうして真面目に何枚か書いた頃、神無月家の人が部屋に来た。


「田中あさひさんてすね?これをどうぞ」


その人が渡してきたのは、数字とアルファベットの書かれた紙だった。


「なんてすかこれは?」


「wifiのパスワードです。入力したら破棄してくださいね」


「ああ、そうなんですか。……彼方は?」


「彼方様は妖《あやかし》が出たため出動しております」


「ふーん。私もそろそろ帰ろうかな」


時計を見ると19時半。もういい時間だ。


「でしたら、精算所までご同行しましょう」


「あ、はい。お願いします」


私はパスワードを手早く入力し、パスワードの紙を返却して、今日の成果1300円を精算して家路についた。



―――



帰り道、7歳くらいの子供が泣いていた。

7歳くらいの子供だ。もう19時半過ぎてるのに、7歳くらいの子供。


なんというかまあ、声をかけずにはいられなかった。


「どうしたのこんな時間に。迷子にでもなった?」


「お母さんが……お母さんが……」


「はぐれちゃったんだね。どの辺ではぐれたのかな?」


「お母さんが死んじゃった……」


私の思考が止まる。何も、何も考えられず。子供の言葉が続く。


「コウモリのおばけに襲われて……うっ……うっ……」


子供の泣き声が響く。


「ど……」


「うわあああん」


「どこで、」


「お母さああん。あああん」


「どこで、襲われたのかな?」


私は、その子供に尋ねていた。



―――



聞いた情報をもとに子供を抱きかかえ現場に向かうと、そこには彼方がいた。


「彼方!」


「あさひか。その子供は」


「この子の親がコウモリの妖に襲われたって」


「被害者の遺族か!みんな!保護を!」


神無月家の人々が彼方の指示で動き出し、子供を受け取る。

おそらくあやす係の人間が優しく車に乗せると、車はどこかへ、おそらく神無月家へと走り去っていった。


「それで彼方妖はどんな奴なの?吸血鬼?」


「悪いが、明日にしてくれ。今は妖を探しているところだ」


「は?」


「雑談に付き合ってる暇はないんだ。明日暇があれば話してやる」


私を無視して、彼方は現場検証をしている人の方へと向かおうとする。


「ちょ、ちょっと待ってよ彼方!私も手伝うから!」


私は彼方の肩を掴み、こちらを向かせた。


「……怖いのにか?」


「えっ」


「親友を殺されたから戦い、怖いから逃げ、子供の親が死んだから義憤でまた戦うか?次はどうして逃げる?どうして戦う?」


「な、何を言って」


彼方の視線は、冷たくこちらを見据えている。


「一時《いっとき》の感情で戦ったり、逃げたりするやつは、ずっと逃げてるやつよりも邪魔になるんだよ。関わらないと決めたなら、関わらない道を進め」


「私はっ……!」


私はなにか言おうとして、彼方の鋭い瞳を前になにも言えず、その場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。